6話 「手にしたものは」
「アキ、お疲れ様。」
「う、うむ・・・そ、その・・・ありがとう。」
真っ赤になって俯くアキが心底可愛いと思う。先ほど聞いた歌も(本当の天使たちが傍にいるところで言うのもなんだが)まさに天使の歌声だと思った。・・・結局、俺がアキにベタぼれだってことなのかな?
「こらこら、お二人さん? ラブラブぷりは別のところでね。」
と、笑いながら近づいてきたのはレーチェルさん。まったく、この人は神にあるまじき親しみ易さだよな。俺も似たようなものなのか?
「ら、ラブラブって・・・わ、私たちはそんな・・・」
そんな真っ赤な顔をしていたら否定しても無駄だろう。もっとも俺も人のことはいえないと思うけどな。
「そ、そんなことより、レーチェル殿。あなたはリュウトとどんな関係なのだ?」
「まぁまぁ、落ち着いて。私もそれを教えようと出てきたんだから。リュウトくんあなた自分の本当のフルネーム知らないでしょ?」
「ああ。」
俺は10より前の記憶が無い。唯一の持ち物に書かれていた名前も『リュウト=アル』までだ。アルブレス・・・この名をつけたのは姉さんだった。
「じゃあ、どっちでもいいわ、私のフルネームはわかる?」
えっ? レーチェルさんのフルネーム? そんなの聞いたこと・・・アキ?
「レーチェル・・・まさかレーチェル=フランなのか!? 先代の竜神、ライオス=アルバードの恋人だった!?」
「アキちゃん正解♪ もっとも恋人じゃなくて妻のレーチェル=アルバードって本当は言ってほしかったんだけどね。でも、正式な婚姻はして無いからやっぱりフランのほうかしら。」
ちょっとまて? レーチェルさんが先代の恋人で・・・俺には竜族の血が・・・でアルブレスとアルバード・・・横のアキもまさかって顔してるし。
「で、ではレーチェル殿はリュウトのご先祖様!?」
「そう! リュウトくん、あなたは私とライオスの子孫なのよ。なら、もうわかるわよね? あなたの本当の名前? 名乗ってくれとは言わないわ。でも知っておいてちょうだい。ライオスはこの名に誇りを持っていたのだから。・・・あ! だからってご先祖様なんて呼ばないでよ? 今までどおりレーチェルでね、私は肉体的にはまだ20代なんだから!」
・・・くっ、はははは! さっきまでのちょっとしんみりした空気が台無し。いや、あえて壊したんだろうな。本当に食えない人だ、この人は。
「しかし、レーチェル=フランといえば人だったと聞いているが?」
「ええ、私は元人よ。神って言うのはね、単独の種族じゃないの。その種族の領域を超えた功績をなしたものが大概は死後に祀られて神と呼ばれるようになる。でもね、なんらかの理由で生きてるうちに祀られちゃうと、その信仰の力で変化して生まれるのが私のような神ね。」
「ではレーチェル殿は・・・」
「そう、ライオスを失って・・・生きてるのが嫌になっちゃってね。でも、子供もいたから彼を追って死ぬことも出来なかった。で、世間から離れたところでひっそりと暮らしてたらいつの間にか神よ。神ってデフォルトで不老な上に自殺は厳禁だからいまだに生き続けちゃってるのよ。そうそう、言っておくけど、竜神は神の中でも例外よ。まだあなたには教えられないけど、竜神は特殊な役割を義務付けられてる。逆にそれ以外は自由だから、あなたの行動に制約は無いわ。」
ちょっと寂しげに、でも同時に人事のような冷めた雰囲気さえも感じられる口調で話したレーチェル。やはり、俺なんかじゃ計り知れないドラマがそこにあったのだろうな。そして・・・神の中でも竜神は特別・・・か。
「リュウト・・・先ほどの話、気にしておるのか?」
テラスでただずむ、俺にそう話しかけてきたのは勿論アキだ。
「いや、気にしてなんて無いさ。わかりもしない未来で悩んでいてもしょうがないって所かな。」
「そうか、そなたは強いな。」
いや、強いんじゃないな。きっと、今はそんなことを気にしてられないだけなんだろう。なにせ、これから始まる生活はきっと楽しいものになるだろうから。
「なあ、アキ。」
「なんだ?」
「普段とは言わないから、俺と2人だけの時は本来のキミを見せてくれないか? いや、どっちのキミもキミなんだろうが、俺と2人だけの時は自然体でいて欲しい。」
「リュウト・・・わかった。いえ、わかったよ。」
ニッコリ笑って了承してくれるアキ。そして、自然と近くなる2人の顔・・・。
「リューく~ん! 次はリューくんの出し物だよ~!!」
とお約束のように入る邪魔。っていうかなんだ出し物って?
「お、俺に芸なんて無いぞ!?」
「じゃあ、歌でも歌ってよ。あ、どうせならあーちゃんと一緒に歌う?」
とたんに真っ赤になるアキ。こんな生活もきっと悪くない・・・そう俺は思う。戦いの果てに手に入れた、かけがいの無い平和な日常。
おまけ
「じゃあ、ここら辺でお開きかな?」
「あら? どこへ行くのかしら、コクトくん。キミにはいろんな意味でお仕置きしてあげないと・・・。ああ、その間はここに住んでいてもいいわ。」
「・・・えっと、レミー?」
「お兄ちゃんごめん、わたし、レーチェル様には逆らえない。」
「アキさん?」
「罪は償うものだ。」
「アシュラ・・・」
「オレが知るか。」
「メイさん」
「そのようなことは私の管轄外ですので。」
「ママナ・・・」
「私に言わないでよ。」
「コーリンさん・・・」
「私の姿を見て感じるところありませんか?」
「・・・りゅ、リュウト・・・。」
「俺の分まで追加されたいか?」
「・・・」
まぁ、がんばれ! 死にはしないだろ? たぶん。
竜神伝説第2部『魔界の夢』完
第一部とは違ってハッピーエンドで終わった第二部はどうだったでしょうか? まぁ、極一部に不幸なことになっている人もいますが、そこは見なかったことに^^
さて、次の第三部は今までの闘いの旅から一転、日常の物語になります。もっとも、彼らの日常はそれなりにいろんなイベントが待ち受けているのですが・・・なにせ、天下無敵のトラブルメーカーがいますし♪
シリアス率が下がってコメディ率とラブラブ率が上昇する第三部も引き続きお楽しみいただければ幸いです♪




