5話 「歌と花」
グラグラグラ・・・体に感じる震動。ま、まさかこれって・・・
「ふむ、崩れるな。」
冷静に言うリュム。っていうかまたなのか!? 決戦のたびに城が崩れんでもいいだろうに!!
「みんな、急いで脱出を・・・あ、そうだ、リュムお前は転移魔法使えたよな?」
「使えるが・・・今回は必要なさそうだ。」
「えっ?」
なんだ視界が白く・・・
「竜神ご一行、御あんな~いってね♪」
ニコニコと機嫌よさそうに笑う女性。きっとこの人が俺たちを呼び寄せたんだろう。・・・遠距離にいるものたちをまとめて転移させる。凄まじいまでの実力者だな。いや、この人の顔はどっかで見たことがあるような?
「レーチェル?」
思わず出た名前。いや、ありえないことだ。あれは1万年も前の過去(1部5章2話参照)だったはず。確かによく似てるが本人のはずが・・・
「あら? なんで私の名前知ってるのかしら?」
どうやら本当にご本人だったらしい。そういえば、以前ふとレミーがもらした彼女の仕えている神の名前も・・・。そうか!
「以前、俺を治してくれたという礼を言わせてくれ。それで・・・できたら仲間たちの治療を・・・」
「お礼なんていらないわよ。私が治したかったから治した。それだけよ。で、治療は勿論いいわよ。大丈夫、生きてさえいればどんな状態だって治せるから。」
と笑いながら、手早く皆を治していく。
「さすがにアキちゃんは気がつくまでにちょっとかかりそうね。まぁ、あのときのあなたよりはこれでもまだマシよ。・・・あ、そうそう! 私のこと気になると思うけどアキちゃんが気づくまで待ってあげてね。きっと彼女もそうだから。」
「では、勝利を祝して! かんぱ~い!!」
レーチェルさんが用意してくれた宴の席。急だった筈なのに数人の天使がてきぱきと料理や飲み物を運んでくる。・・・そうだよな、本来天使ってこういう感じのはずなんだよな~。いつのまにかレミーが基準になってたけど、あいつは例外中の例外だった。
「リューくん、楽しんでる~♪」
すっかり元気を取り戻したレミーが笑いかけてくる。いや、この場にはアキを除きあの場にいた全員がいる。・・・アキはレーチェルさんが少し休ませるって連れて行ったきりだ。いや、あの人が治療をしてくれた以上心配はしていないが。
「コクトは一緒じゃないのか?」
「お兄ちゃんだったらあそこ。」
レミーが指差した方向を見ると・・・
「そ、その・・・あの時はすまなかったな。」
「ん? なんのこと? あ、初めましてだよね。私、ママナ! よろしくね、コクトさん♪」
・・・そうだな、コクトとママナは・・・。でも、ママナはもう許しているみたいだ。気づいていないはずは無い、だが気づかない振りをしてる。あいつらしい優しさだな。
「だが俺は・・・」
「そう気に病むな。誰も気になどして無い。俺たちは・・・仲間だろ?」
「リュウト・・・」
それでも気にしているようなコクトに俺は笑いかける。忘れることは出来ない。だが、何時までもこだわっていても仕方が無い。過去は過去だ、変っていくのなら、やり直せるなら・・・それは歓迎するべきなのだろう。
で、他のメンバーは何をやっているかというと・・・アシュラは優雅にワインを傾け、コーリンさんはアシュラに付きっ切りだ。・・・ちょっとレミーの視線が怖く感じる。で、メイさんはアルコールを一緒に呑む相手を探してるな・・・。あのアシュラさえも目を合わせようとしない。恐るべしメイさん・・・。
「リュウト殿、一緒に飲みませんか?」
・・・どうやら目をつけられたのは俺のようだ。
「メイさん・・・俺はそんなに強くないから。」
「メイで結構ですよ。エルファリアに来ていただけるのでしょう? なら、立場上はリュウト殿の方が私よりも上。それに・・・未来の弟ですしね。」
はは、メイさん・・・いや、メイの中ではすでに確定事項らしい。もっとも否定する気は無いけど。
「では、お言葉に甘えて。・・・俺はメイに付き合えるほど強くは無いから。」
「構いませんわ。・・・強くなればいいのです。」
えっ? その・・・だ、誰か助けてくれ~~~!!
「う・・・ん?」
「気がついた? アキちゃん。」
えっ?れ、レーチェルさん? ど、どうして?
「わ、私一体? あ! そうだ! リュウトたちは・・・」
「大丈夫、みんな無事よ。・・・そうだ、アキちゃんにちょっとお願いがあるんだけどな~。」
え? えっ~? そ、そんな・・・恥ずかしいよ~~~!!
「大丈夫! うちのお調子者もつけるから♪」
「じゃあ、ここで宴の余興と行きましょう♪ まずはエントリーナンバー1番 天使の演奏に乗ってどうぞ~♪」
れ、レーチェルさん、乗り乗りね。でも、レミーのハープは意外にうまかったし、でもこの歌詞恥ずかしすぎるよ~。でも、私の思いそのもの・・・リュウトに伝わるかな?
「は~い! エントリーナンバー1番! ハープ担当のレミーだよ~♪」
「ぼ、ボーカルのアキ=シルフォード・・・です。」
わぁぁぁぁあああ! と一斉に上がる歓声。特にお姉ちゃんとコクトとママナの・・・コクトはレミーしか見えてないみたいだけど。恥ずかしいよ~。 でも、リュウトの目が凄く優しい。
ポロン、ポロ~ン・・・レミーの奏でる綺麗な音が会場を包む。トクン、トクンと響く私の鼓動。うん、私の思い・・・あなたに届いて!
キラキラと光~る ほ~しの海を
いつか見上げ~た あの日のよ~る
流れぼ~し 探してたのは~
きっとい~まの~ 時間が・・・愛おしいか~ら~
ふと見上げた あなたの横顔。わた~しの視線~
あなたからもう 離せないの だからずっと~
私の~そ~ばにいてよ 笑顔を見せて~
私の~こ~とを見てよ 可愛くわら~うから~
強く 強く 抱~きしめ~て~
そして、この話を受けるに当たって私がレーチェルさんにお願いしたこと。会場に花が舞う。
その花、ホトトギスは会場を舞って、リュウトの所に集まる。これが私の思いだよ? でもきっとリュウトはわかっていないんだろうな~。
でもいいの、だって・・・あなたはあんなに私に笑いかけてくれているんだから・・・。
「フフ、アキもなかなかやるじゃない。」
「どういうこと? メイさん?」
「ママナちゃんも覚えておいた方がいいわよ? あの花、ホトトギスの花言葉はね・・・」
「花言葉は?」
「永遠にあなたのもの・・・」
最後に美味しいところを持って行ったレーチェルと歌と花に託されたアキの思い。どうだったでしょうか?
レーチェル「まぁ、私の出番もちゃんとあったし良しとしましょう。私とリュウトくんの関係は次回かしら?」
はい、まぁ予測がついている人が多いのではと思いますが、一応次回出てきます。リュウトの本当の名前なんかも一緒に・・・
レーチェル「そんなに大したネタでもないのに引っ張ったもんね~。初めに示唆されたのは1部1章4話?」
そこですね、さらに1部3章で再度提示して、1部5章でリュウトの本名は予測がつく条件が揃っていたりします。
レーチェル「そんでここに至ってようやく発表だものね。でも次回はもう一つ区切りなんでしょ?」
はい、次回はいよいよ第2部の最終話になります。そしてそれに合わせて番外編の公開も予定しておりますのでできれば合わせて読んでいただきたいと思います。では、次回もよろしくお願いします!




