2話 「父」
「ご報告します。奴らはまもなく我らが城へやってくると思われます。」
「ふむ・・・くっくっく、俺の出番も近いというわけか。」
「いえ、奴らはこの私が・・・。奴を蘇らせる失態を犯したのは私の部下。責任を取らせていただきます。」
「ルーンか・・・。はたして本当に失態だったのか・・・。」
「はっ?」
「いや、いい。ならば、見事討ち取って来い。」
「ねぇねぇ、なんかこのお城凄い綺麗だね~。」
レミーが目を輝かせて言うように、この城は今までの魔王城とはまったく違う。360度どこを見ても美しく装飾され磨き上げられている。さらに解せないのは分岐がまったく無い。完全な1本道だということだ。
魔王、悪魔たちの城が不気味な理由は以前アシュラに聞いた。さらには1本道という罠を仕掛けやすい構造をしながらも、それらしきものがまったく無い。つまり、そこから考えられることは・・・
「侵入者の・・・俺たちのことなど眼中に無いってことか。」
何者が攻めてこようと関係が無い。小細工など必要が無い。むしろ、最後の目の保養とばかりに美しい城を楽しませているかのようだ。・・・まさに絶対の自信。それが逆に威圧感となってしまうほどに・・・。
「ねぇ、あーちゃん。こんなところでデートとかしたくない?」
「なななな、何を言うのだ!?」
・・・どうやらそんな威圧感などまったく感じていない奴もいるな。まぁ、良い事と言えば良い事なんだが、どうにも不安感も抱かせる強さだな、レミーのは。
そして・・・レミーにはそんなつもりはまったく無いのだろうが、アキは完全にレミーのおもちゃになってるな。とはいえ、助け舟は出せない。助けるどころか俺までまきぞいになるだけだし・・・だからアキ、その目はやめてくれないか? やっぱり朝、見捨てて逃げたのがいけないのだろうか。
ピクッ・・・空気が、世界が変るのがわかる。戦闘など始まっていなくともわかる扉の向こうから伝わってくる圧倒的な気配。確実にこの先に魔王がいる!
アシュラやアキは勿論のこと、レミーも真剣な顔をする。初めてかもしれないな・・・こんなにも自分の強さに自信が持てないのは。何故俺はもっと強くないのだろうかと考えてしまうのは。だが、それでも勝とう。俺はもう、自分の命を自分の都合で捨てるわけには行かないらしい。
「リュウト・・・」
不安そうな顔でアキが呟く。ごめんな、俺が弱いからキミを不安にさせてしまう。強くなりたい・・・もっと強く。一瞬、以前見た悪夢(2部7章7話参照)が頭をよぎる。違う! 俺は全てを滅ぼしたいわけでも守りたいわけでもない。俺が守りたいものはそんなに大きなものじゃない。
「リュウト?」
「いや、なんでもない。・・・行くぞ!」
迷いを振り切るように気合を入れて扉を開ける。その先にいる魔王がまさかあんな奴だなんて、誰も想像していなかった。
「良くぞ来た。竜神よ、我が名はルシファー。傲慢を司るものだ。」
なんだ? こいつは。全身を覆う銀色の毛、3M近い巨体、そして・・・狐に似た姿。あれではまるで・・・
「アーくんに似ている。」
レミーの呟いた言葉。そうだ、毛の色といい、体格といい奴の方が格上の雰囲気があるのは気に入らんが、このオレと奴はよく似ている。
「そして、まさか不良品と捨てたはずの息子が我を打ち倒しに来るとは・・・運命とはなかなかに面白いものよ。」
息子? ・・・このオレがか? ふん、魔界はよほどの名門でなければ親からは育てられん。オレもその口かと思っていたが、まさか捨てられていたとはな。
「アーくん・・・」
レミー、貴様は何を気にする? 奴がオレの親だからといって何の意味がある? まさかオレを哀れもうとでも? 下らん、むしろ・・・
「くっくっく、どうやらオレはとんだ幸運だったようだな。貴様のような奴の下で育つなど考えただけでも身の毛がよだつ。貴様の言う不良品の力、とくと目に焼き付けて冥界へ行け!」
今更、父も子もない。奴の言が真実であるとしても、もはやオレには何の価値も無い。オレはオレの戦いをするのみ、オレの力を見せるのみ・・・奴の力がオレのオリジナルであろうともオレには奴には無い力があるのだから。
「何を呆けている! リュウト、アキ・・・レミー! さぁ、楽しい楽しい戦いの始まりだ!」
明けの明星ルシファー登場です。彼とその次に出てくるものは伝承上明確な見た目がはっきりしないということもあって、アシュラの父設定にしてみました。
アキ「たしかルシファーといえば例の大物と同一人物であるという説もあるな。」
同時に別人説もありますけどね。日本では同一人物説の方が有名ですが、この物語では・・・
アキ「まぁ、こいつがこの時点で出てきた以上、次に控えているのは奴以外には考えられまい。まして地獄の7罪が元ネタならばな。」
そういうことですね。さて、伝承上ではもっとも美しく強いとされた天使でもあったルシファー(ルシフェル)。その名のしめすところは『光を帯びたもの』。天使と悪魔が別種のこの物語でも一筋縄でいくような相手ではありません!
アキ「だが、心配はいらん。私とリュウトのコンビが最強だからな!」
・・・なんか、くっついてから雰囲気変ったな、アキ・・・。




