5話 「特別な関係として」
アキがオレと話し始めて早小一時間ほど、楽しかったこと、嬉しかったこと、苦しかったこと、悲しかったこと・・・よくこうポンポンと話題が出てくるものだ。もっとも話題の殆どはリュウトで埋め尽くされているのだが。
「ムッ、すまん。少々話し込んでしまったようだ。しかしリュウトは一向に戻ってこないな。」
あいつの散歩に行くは口実だろうからな。本当の理由から行ってそうすぐには戻ってくるまい。・・・なにせ、スタート地点に目的のものが自分からやってきてるなど思いもしないだろうからな。
「くっくっく。」
「・・・アシュラ?」
目的のものがこんなところで自分を待ちながらオレと話しているなど思いもせずに探し回っているだろうリュウトを想像してつい笑いが漏れる。いきなり笑い出したオレをアキがいぶかしむのも当然のことだろう。
「いや、何でもない。気にするな。」
「そうか。一方的に話しかけておいてすまぬが、私はリュウトを探しに行くとする。・・・そなたのおかげで大分落ち着いてきた。」
「ふん、勝手にするがいい。」
オレの返事にクスッっと笑みを浮かべて、アキは部屋を出ていく。そして
「いつまでそこに隠れているつもりだ。用があるのならさっさと入って来い。」
オレは扉の向こうにいるやつに声をかける。本当に用があるのかは怪しいところだがな。
「いつまでそこに隠れているつもりだ。用があるのならさっさと入って来い。」
なんとなく入りづらくて、扉の前にいたわたし。突然のアーくんの言葉に体がビクゥって震える。え、えっと・・・わたしに言ったんだよね? 他に人いそうも無いし。
「えっと・・・お邪魔します。」
自分でもらしくないなって思いながら扉をそぉ~っと開けて部屋に入る。そこには当然のようにアーくんがいて、わたしの方を見てもいないのに
「で、何用だ。レミー。」
なんて声をかけてきたの!
「え、えっと・・・用というような用は無いような。でもやっぱりあるような・・・で、でもよくアーくんわかったね。扉の向こうにわたしがいるって!」
珍しく歯切れの悪いわたしに怪訝そうな顔を向けながらアーくんは答えてくれる。
「ふん、たかが扉一枚向こう。その程度の距離にいる相手の気配を読み間違えるオレだとでも思ったか。」
あはは、いつもどうり。いつもどうりのアーくん。うん、アーくんはやっぱり強いよね。力じゃない、力もだけどそれ以上に心が。明日の・・・生き残る方が難しいだろう決戦を前にまったくぶれていない。以前リューくんはわたしに言った。アーくんにはアーくんの弱さがあるって。それを、アーくんの欠けてしまっているものを持っているのがわたしだと。
・・・リューくん、わたしまだわからないよ。こんなに強く思えるアーくん。ちょっと不器用で素直じゃないけど、とっても優しいアーくん。いったいどこに欠けた部分があるの? わたしが持っている強さって・・・何? それがわからないわたしは本当のアーくんを見れていないの? わたしのこの思いは・・・愛でも恋でもないのかな。
「見てのとおり、リュウトの奴はいないぞ。」
「うん、知ってる。リューくんとはさっき会ったから。わたしはアーくんに会いに来たんだよ。」
「ふん、物好きな奴だ。」
違うよ、アーくん。わたしの思いはまだ恋とも愛ともいえないのかも知れない。アーくんが好きなんて言ってはいけないのかも知れない。でもね、リューくん、コクトお兄ちゃん、あーちゃん、まーちゃん、めーちゃんにレーチェル様・・・大好きな人たちの中でもアーくんは一際大きいの。初めはちょっとした憧れだった。でも、アーくんの優しさがわかるようになっていつの間にか、凄く大きくなっていた。だから・・・聞いてみたいの。
「ねぇ、アーくん? 一つだけ・・・一つだけ聞いてもいい?」
「・・・聞くだけ聞いてやろう。」
腕を組んで目をつぶりながら、ぶっきらぼうにそういったアーくん。でも、その声色はほんのちょっと優しさが含まれている気がして
「ねぇ、もし・・・もし、明日わたしが危ない目に合ったら・・・アーくん助けてくれる? もし、わたしが死んだりしたらアーくん・・・」
「そんな気持ちならば戦場に来るな!」
珍しく・・・ううん、初めて聞いたアーくんの怒声。さっきまでつぶっていた目を見開いて、本当に・・・本当に怖かった。
「アーくん・・・ごめんなさい。ごめんなさい・・・。」
「危なくなったら誰かが助けてくれる? そんな程度の気持ちで戦われては迷惑だ。そんな思いでは何も出来ん。無駄死に・・・いや、それ以下だな。ならば初めから戦場に立つな。」
イラついたようなアーくんの声。わたし・・・聞いたらいけないこと聞いちゃったんだ。言ったらいけないこと言っちゃったんだ。
アーくんに嫌われた・・・もしかしたら初めから好かれてなんてなかったかもしれないけど、そんな風に思ったら涙があふれ出てきた。わたし、お兄ちゃんと別れてから泣かないようにしてたんだけどな。リューくんたちと会ってから・・・泣き虫に戻っちゃったよ。
「レミー、戦場に立つ以上は自分の身は自分で守れ。余裕があるなら助ける思いはあってもいい。だが、助けられて当然とは思うな。・・・だが、そうだな。もし、本当に危ないと思ったならオレを呼べ。貴様一人ぐらいなら面倒を見てやろう。」
え!? 今、アーくんなんて言ったの? アーくんの白い毛に隠された顔がちょっと赤いような気がするのはわたしの気のせい?
「うん、うん! わたし、自分の身はちゃんと自分で守るから! それでも危なくなったら、ちゃんとアーくん呼ぶから! だから、だから!」
「ならばそれでいい。・・・貴様はただでさえ朝は弱いのだ。今日は早めに寝ておけ。」
そういってわたしを部屋から追い出しにかかるアーくんはひょっとして照れてる? ただ、ちょっと頭を撫でてくれた手が気持ちいい。昔、お兄ちゃんにやってもらってたのとおんなじ・・・。
わたしの思いはまだ恋でも愛でもないのかもしれない。だから恋人だなんてまだとてもいえない。でも、ただの仲間じゃないよね? アーくんはわたし一人だけなら守ってやるって言った。だからきっとわたしはアーくんのちょっと特別。仲間じゃなくて恋人でもない、ちょっと特別な関係・・・。えへへ、今日の夢は楽しい夢が見れそうだよ、アーくん♪
今回のメインはほぼレミーでした。ただ、アシュラの行動からアシュラの思いも読み取っていただければ幸いです。
アキ「うう~、やっぱり私たちよりもレミーたちの方が恋人らしい・・・。」
だから、あなたは押しが足りないんですって。あと一押しすれば倒れるところまで勝手に追い込まれてるんですから・・・。リュウトの方からのアプローチなんて待ってたら進展しま・・・あ、いや・・・するか。
アキ「だから、そう出来たら苦労はしないと・・・ん? 進展するのか!? そういえば次回予告であの2人が進展するとか・・・まさか、レミーたちではなく私たちの事なのか!?」
あ、いや・・・それはネタバレですし・・・。う、とりあえず次回を待っていてください。
アキ「ああ! 待つ! 待つとも!! えへへ、リュウト~。やっと、やっと私たちにも幸せが来そうだよ~。うう、長かった。本当に長かったよ~。」
・・・これで何も進展がなかったりしたら確実に殺されるな、うん。というわけで次回はこの章の最後、もうお分かりだと思いますが最後はあの2人の出番ですよ~!




