3話 「兄妹として」
さて、アキはどこに行ったかな? ・・・う~む、さすがは魔王の城というべきなのか? 妙な結界が張ってあって、ある程度近くにいないと気配を察知できそうも無い。そして、その感知範囲内で忍び寄るやつがいるな。
「リューくん♪」
ガバって後ろから抱き着いてくるのはいちいち言うまでもなくレミーだ。っていうかこいつ以外に俺をリューくんというやつも後ろから襲ってくる奴もいるはずが無い。
「ん? レミー、なにか用か?」
内心で考えていたことなど微塵も見せずに俺はレミーに対応する。・・・おそらく用なんかありはしないのだろうと薄々気づきながらも・・・
「ん~、用は特に無いかな~? でも、やっぱりリューくんは驚かないよね。っていうかわたし、驚くことしてないよね?」
俺が驚かないのは抱きつかれる前に察知しているからなんだが。で、一体誰に抱きついて驚かした? ・・・そうだな、該当はアキしかいないか。俺はこの中では唯一犠牲者になりうる女の子を想像する。きっと、表面上は冷静を装いながらも内心は相当驚いたんだろうな。
「・・・どっちかというと驚くほうが普通だからやめといた方がいいぞ。」
「ええ~!?」
ちょっと可愛らしく口をとんがらせて抗議するレミーだが、誰彼かわまずに後ろから抱きつくと心臓の弱い奴ならショック死とかありそうで怖いからな。・・・レミーなら自分の回復魔法で蘇生させるんだろうけど。してくれるよな?
「ああ、そういえばありがとな。」
「ん? なんのこと?」
あれ? てっきり俺の腕を含めて治療してくれたのはレミーだと思っていたんだが? アキは回復はできないって言っているし・・・まさかアシュラが?
「レミーが治療してくれたんじゃないのか?」
「あ~それね、わたしがお仕えしてる神様が来てくれて治してくれたんだよ~! でね、一応念のために半日ぐらい・・・ん~、あと6時間ぐらい? 無理に手を動かしたりするなって言ってた。」
なるほどな、しかし
「その人よく俺たちの居場所や状況がわかったな。できることなら直接礼を言いたいところだが。」
「あはは、わたしも良くわからないんだけど本当にいろんなことを知っている人だから。リューくんにも会いたがっていたし、そのうち会えるんじゃないかな?」
そうか、ならその時を待つとしようか。うん、これも変らぬ明日への誓い。生き抜く思いの一つになるのかな。今度こそ守らないと・・・二度とあんな間違いはしたくない。今度こそ、あいつを守りきって見せるんだ。それが矛盾する覚悟と思いであると知りながらも。
ニコニコと笑顔のリューくんが見せたほんの一瞬の辛そうな顔。やっぱりリューくんも怖いんだね? でも、それはリューくん自身の怖さでは無い気がする。ううん、きっとリューくんにも怖いものがある。でも、本当に怖いものは別のものなんだ。
「ねぇリューくん、わたし・・・さっき、あーちゃんと会ったんだ。」
ほんのちょっとだけリューくんの目が泳ぐ。それはきっと、普通の人だったら気づかないぐらいの変化。やっぱりリューくんはわたしには弱さを見せてくれないんだね。わかってたけど、ちょっと寂しい。まだ仲間だって完全に信用されていないみたいで・・・あれはリューくん流の優しさ、強がりだってわかっているけど。
「そうか・・・アキは何か言っていたか? その、明日のこととか・・・」
遠慮がちに、こわごわと聞いてくるリューくん。やっぱりリューくんはわかっているんだね。あーちゃんの抱えている弱さと恐怖を。でも、きっとそれはリューくんにとっても辛いことなんだと思う。だって・・・リューくんがあーちゃんにつけた傷なんだから。
「うん。でもね、それはわたしから伝えたらいけないものだと思う。」
一瞬目を丸くして、その後優しげに微笑んで・・・んで! なんでセリフがそれなの~!!
「そっか、レミーもそれぐらいの気遣いは出来たんだな。兄ちゃんは嬉しいぞ~!」
そ、それじゃあわたしが普段、人のことなんて考えていないお馬鹿さんみたいじゃない!
「ム~、リューくん酷いよ~~。」
「あはは、じゃあ俺はアキを探しに行くよ。・・・俺も言っておかなければいけないことがあるからな。もし、言い残してしまったら悔いが残る。」
その言葉にリューくんの覚悟が込められているような気がして・・・わたしはつい言ってしまった。
「リューくん、死ぬ気じゃないよね?」
「まさか、相手のこともわかってもいないのに死ぬ気で戦う奴はいない。ただ、そうなるかもしれないと言う覚悟はある。・・・みんなには悪いけどな、もし万が一があるとしたら一番先は俺だよ。」
そう・・・だよね。リューくんは誰よりも人が傷つくのを怖がるから。でも、それって卑怯だよ? わたしたちだってリューくんが傷つくところなんて・・・死ぬところなんて見たくない。リューくんはいの一番に犠牲になることで自分が見たくないものから逃げているとも言える。
「リューくん、明日・・・なんて言わない。せめて、せめて今日だけはあーちゃんに優しくしてあげて。」
「・・・ああ、わかってる。」
ひらひらと手を振りながら歩いていったリューくん。でも、その顔は・・・信じてるよ、お兄ちゃん。今度こそハッピーエンドで物語が終われることを・・・。
リュウトとレミーお互いにお互いを守ろうとしていることは同じ。でもリュウトの覚悟は自己犠牲の覚悟。それが良いものなのか悪いものなのかは置いておきますが・・・
マリア「良いわけ無いでしょ!!」
うわっ!? ま、マリアさん・・・唐突に出てこないで下さい。
マリア「ん? 幽霊なんてそんなもんでしょ? あのね、自己犠牲なんて誇らしく思えるのは本人ぐらいなものなのよ。残された人は逆に辛いの。リュウトくんだってそれはわかっているはずなのに・・・だって・・・」
リュウトもマリアさんにそれをやられて残された口ですからね♪
マリア「うう、そうよ! ぜ~んぶ私が悪いの! うわぁぁぁぁあん!」
・・・ま、マリアさんに(口喧嘩とはいえ)勝てる日が来るとは!? いや、作者なのに負け続けてたのがおかしいんだけど・・・。
マリア「うわぁぁあああ!! 馬鹿! 馬鹿あぁぁあ!」
バキ! ゴキ! グシャ!
マリア「ふうふう、作者くんのおかげですっきりしたわ。じゃあ、またね~! あ、リュウトくんに何かあったら覚悟しててね♪」
・・・こ、これ以上の何かがあるっていうんですか? ・・・ガクッ。




