7話 「何時?」
「アキ、本当にありがとうな。こんな情けない俺を支えてくれて。」
お互いどれほど抱き合っていただろうか。時間の感覚さえも無くなったころに俺はそういって離れた。・・・もっともアキは離れてはくれなかったが。
「ううん、情けなくなんてない。リュウトはいつも私を守ってくれて支えてくれた。だから情けないって言うなら私の方。でも、そんな私でもあなたの支えになれる。それが嬉しくて・・・アレ?」
アキの目からつぅーと涙がこぼれ地面を濡らしていく。
「アレ? アレ!? おかしいよ、私悲しくなんてないのに・・・止まらない。止まらないよ・・・うう。」
次から次へと流れ落ちる涙を・・・俺は美しいと思った。だから
「りゅ、リュウト!? ヒック、そんなことしたらリュウトの服濡れちゃうよ・・・グスッ。」
濡れちゃうんじゃない。濡らしたいんだ。君の涙はきれいだから・・・汚れきった俺の体を清めてくれる気がするから。
「気にするな。もっと、もっと泣いていい。俺のように泣けもしない男にはその涙は羨ましい。それはキミの素直な心の現われなんだから・・・。」
アキは人前では実のところめったに泣かない。きっと普段は女王の仮面をかぶっているから泣けないのだろう。でも、俺は知っている。アキが影でよく泣いていることを・・・俺の前だけでは泣いてくれることを。まして今は悲しみの涙じゃないのだろう? ならば、もっと泣いて欲しい。泣きたい時にも泣けもしない捻くれものの俺の代わりに・・・。
「ごめんなさい。ごめんなさい! ヒック・・・うう、私あなたを慰めるつもりで来たのに、私が慰められている。」
慰めた覚えはないがな。そして・・・十分に慰められたさ。俺は一体何を弱気になっていたのだろう? 竜神の宿命? 呪い? そんなものはどうだっていい。そんなものがあろうとなかろうと俺は俺の信じる道を進むだけなのだから・・・それを教えてくれたのはキミなのだから。
「俺はキミはキミのままでいて欲しい。それとも・・・アキはこんな俺は嫌かな?」
もう言葉を発する余裕もないのかブンブンと凄い勢いで首を横に振るアキ。ありがとう、キミがいるから俺は俺でいられる。
俺がキミに心引かれたのは一体、何時だっただろう? 姉さんが死んだときにキミが俺の代わりに泣いてくれた時? (レミーの所為で)傷つき倒れた俺をキミが膝枕で看病してくれた時? あの星空の下で死なないでとお願いされた時?
きっと、どれも違う。初めて出合った時、キミの弱さの中に確かな強さを見た時。キミはあんなに怯えていたのに、その目には迷いはなかった。自分の心さえもわからず、フラフラと根無し草のように彷徨っていた俺には酷くまぶしかった。きっと、俺はあの時からキミに囚われていた。
「でもな、ごめん。やっぱり俺はまだ自分を許せないんだ。」
そう、一番大切なものを理解していなかった俺、一番大切なものを傷つけておいて守ったなんて自惚れていた自分自身を
「うぇぇ・・・リュウト? ヒック、一体何を?」
「まだ言えない。でもいつか必ずキミに伝える。その時、俺が自分を許せたなら・・・もし、キミが許してくれたなら・・・その時こそ、俺の思いを・・・」
「うん、待ってる。でもね、これだけは覚えておいて? あなたが抱えているものが何であっても私はきっと許す。どうしても出来ないものなら・・・2人で乗り越える道を探そう?」
ああ、そうだ。そんなキミだから・・・俺はキミの事が好きになったんだと思う。本当に大切な存在、だからこそ、今の俺にはまだ言えない。
「ああ、そのためにも先ずは生き残らなくちゃな。」
「うん、今度こそ・・・約束守ってね。」
二度と破るものか。本当に大切なものはそれなのだから・・・
「う~ん、あーちゃんうまくやれたかな~。」
「ふん、心配することはあるまい。」
「でも結構あーちゃんでドジだよ? 特にリューくんが絡むとね。わたしと出会ったころからラブラブ~のメロメロ~だったからね~。でもきっとリューくんもそうだと思うの。」
「よく見ているな。」
「えへへ、だって大好きなお兄ちゃんと大切な妹(?)だもん! あっ! でもアーくんはまた特別だよ。」
「ふん! 下らん!」
こうして魔界の夜は更けていく。
なかなかにロマンチックな夜になったようです。これでまだお互いの思いを伝えられていないのだから恋愛ベタにもほどがあります、この2人。
マリア「うう・・・幸せになってね、リュウトくん。」
おや? マリアさん、アキちゃんに取られた~って怒らないんですか?
マリア「だって、私じゃもうリュウトくんを幸せに出来ないもん。可愛い弟だからこそ幸せを祝福してあげないとね。」
何だかんだいって姉だったんですね~。
マリア「と、当然でしょ!? だから、だから絶対に幸せにしなさいよ! リュウトくんは本当に繊細で傷つきやすいんだから・・・次この幸せが壊れたら、本当に心が壊れちゃう。」
ま、まぁ・・・その辺は物語のネタバレになっちゃうので・・・では次回予告をお願いします。
マリア「う~、心配だわ。えっと、『第3の魔王城に乗り込んだリュウトくんたち。でも魔王も彼らの力を再評価した!? 待ち受けていたのは3人の魔王。熾烈な攻撃を前に彼らは生き残れるのか!? 次章竜神伝説第2部11章『大ピンチ! リュウト包囲網!?』こら~! こんなところで死んだらお姉ちゃん許さないんだからね!』」




