6話 「2人でなら」
「悪い、ちょっと俺・・・頭冷やして来る。」
あっ! リュウトが・・・リュウトが行っちゃう。声を・・・声をかけないといけないと思うのに・・・なんて言ったらいいんだろう。
そして、リュウトはそのまま森の奥へと消えていった。いやだよ、なんかもう会えないみたいな・・・そんな訳ないけど、嫌な予感しかしないの。
「ふん、こういうときこそアキ・・・貴様の出番だと思っていたのだがな。」
えっ!? アシュラ?
「レミーが行くよりも、ましてオレが行くよりも貴様が行くのがいい。奴の心・・・守るのはお前の役目だろ。」
うん、そうだよね。私が守らないといけないんだよね。
「そうそう! リューくんにあーちゃんのラブラブパワー見せてやれ♪」
ら、ラブラブって・・・でも・・・
「ありがとう・・・2人とも」
リュウト、どこ!?・・・あっ!
私はリュウトが消えていった方向に走り回って・・・湖のほとりに立ちすくんでいるリュウトを見つけたの。
「リュウト、こんなところにいたのか。」
「アキ・・・か。悪い、少し1人になりたいんだ。」
「駄目だ。」
うん、絶対に駄目。今、あなたを1人にするわけにはいかない。
「アキ?」
「今のそなたを1人になど出来ん。・・・そなたは以前私に言ったではないか『真面目で弱音なんてめったに言わなくて・・・いつかその強い心といえども壊れてしまわないかって俺はいつも怖かった。』って。あのときの私には良くわからなかった。でも・・・今は良くわかる。私も今おんなじことが凄く怖い。そなたの・・・あなたの心が壊れてしまいそうで・・・凄く怖い。」
「アキ・・・。」
「だから、あなたの心・・・私にぶつけてよ。弱いところも醜いところも全部見せて欲しい。大丈夫、私はあなたの全てを受け入れられるよ? あなたが私の弱いところや醜いところを受け入れてくれたように・・・。」
完璧な存在なんていない。誰しも弱さを抱えて、醜さを抱えて生きてる。だから否定したらいけない。ううん、私はあなたのそんなところさえも好きなの。本当に・・・大好きなんだから。
「アキ・・・ははは、俺も情けないな。そうだよ、俺は怖かった・・・辛かったんだ。俺は戦いは嫌いだ。」
「うん。」
「自分が傷つくことは怖くなかった。でも、他人を傷つけることは・・・凄く怖かったんだ。」
うん、私は両方怖いけど・・・リュウトはそういう人だよね。
「そして、俺は気づいた。・・・気づいてしまった。俺が傷つくことで心を傷つける誰かがいることを・・・。それがわかったら自分が傷つくことも怖くなった。」
リュウト・・・ちゃんと気づいていてくれたんだ。でも、それが余計あなたを傷つけていたんだ・・・。
「どうして、こうなってしまったのかな? 俺はただ・・・人並みの、極普通の幸せが欲しかっただけだというのに。リュムのいうとおりさ、俺には・・・目の前の戦いを知りながら傍観は出来ない。それは必ず誰かを傷つけるから・・・回りまわって自分の心を傷つけることになるから。はは、結局俺は自分のことしか考えてないじゃないか!」
それがリュウトの弱さ、リュウトの醜さ。でも、それでいい。私はしっかりとリュウトの背中に腕を回して抱きしめる。
「あ、アキ!?」
「ん・・・普段はあなたから抱きしめるから。今日は私からやらせて・・・。リュウト、あなたはそれでいい。本当に自分勝手な人なら他人の傷みなんて気にしない。あなたは優しいから、きっとどんなことをやろうとも傷ついていく。私には見える、あなたの心が自分の血で真っ赤に濡れて泣き叫んでいるのが。・・・本当は私が守りたかった。傷ついてなんて欲しくなかった。でも、それができないのならせめて・・・私の前ではその弱さを見せて。あなたが私の泣き場所であるように・・・私をあなたの泣き場所にさせて欲しい。守るから・・・あなたの心が壊れてしまわないように・・・私が守るから。」
「ア・・・キ? ごめん、そして・・・ありがとう。」
ギュッって痛いぐらいにリュウトが私を抱きしめ返す。でも、それが凄く心地いい。私も私の心が伝わるようにもっと強く抱きしめる。きっと、私たちは似たもの同士。でも、傷を舐め合うんじゃない。2人一緒に歩いていこう? 不器用で弱い私たちでも・・・二人一緒ならきっと歩いていけるから。
変ったやつらだ・・・1人では本当に弱いと思うのだが、2人揃えばそれが強さになる。
あいつですら完全には使いこなせなかった我の力。もしかしたら、この2人ならば・・・遠い未来に使いこなす日が来るやも知れん。竜神の宿命など、呪いなどものともせずに幸せを掴むやも知れぬ。
マルトよ、マルト=アルバード・・・初代竜神と呼ばれたそなたの託した祈り。夢見た未来は・・・この2人が築いてくれるのかも知れぬな。
アキはリュウトの思いを知りました。このもう少し奥にリュウトが隠しているもの、それがわかると2人の関係は一気に進むんですけどね。
レミー「う~、あーちゃんたちラブラブだよ~。でも! でもなんであそこで好きって言わないの~! なんでここまで来て恋人の1歩手前で止まっちゃうの~!」
レミーにさえ突っ込まれる。それが2人の恋愛クオリティ・・・っていうよりも恋愛に鈍いのが2人のカップルだからなぁ。
レミー「うう~、ここで好きって言って、良い雰囲気のままキスでもすれば恋人間違いなし! だよ~!」
まぁ、本能90%で行動してるレミーならそうするでしょうね。・・・アシュラ、襲われんように注意が必要だぞ~!
レミー「襲ったりなんかしないよ~!」




