5話 「声無き慟哭」
「リューくん、服脱いで。」
戦いが終わって、前と同じように森でキャンプを張った後のこんなレミーの言葉。
「へっ? なんで??」
「もう! リューくんの治療に決まっているでしょ!」
「じ、自分で治したぞ?」
「駄目! リューくんは回復下手なんだから!」
・・・服を脱がそうとするレミーと脱がされまいとするリュウト。なんかいちゃついているようにも見えてちょっと私は不機嫌。でも、落ち込んでいるリュウトには悪いけど確かにリュウトの回復じゃあ不安かな?
同じ怪我を治すのでもレミーが1の力で自然に治すのに対して、リュウトは100の力で無理やり治してるから。あれじゃあ、リュウト本人はともかく他の人は治せないな。回復の力といえども他人の気・・・量が多ければ害にもなる。リュウトが治せるのは精々かすり傷ぐらいかな?
「ほら! こんな治し方じゃ跡が残るよ!」
「別に残ったって・・・」
「リューくん!!」
やっぱりレミーに見てもらって正解だったみたいね。回復に関してはレミーほど頼れる人は私は知らない。リュウトは気にしないかもしれないけど、私はやっぱ嫌だよ? だってその傷見たとき本当に驚いたんだもん。リュウトの作戦わかった気になって自身満々にドラゴンソウル撃ったのに、肝心のリュウトの怪我まで気が回らなかった。その怪我を見るたびにそんな思いを思い出しちゃうよ。・・・りゅ、リュウトの裸をそう何度も見るような関係になれるかはわからないけど。
「じゃあ・・・話してくれるかな、リュム。」
ちょっとプスッて不機嫌そうにしてるリュウトの子供っぽいところに微笑ましい気分にもなるけど、たぶんこれから竜神剣が話す内容はそんな悠長なものではないのよね。
「竜神の宿命か。・・・よかろう、話してやる。先ほど言ったように竜神には独自の時間が流れている。」
「ん~、それってどういうこと?」
いつもどうり緊張感のないレミーの質問だけど、確かに今回は的を得ているわね。
「この世界の時間の流れに一切の影響を受けないと言うことだ。先ほどのように何者かが時間を止めようともリュウトの時間は止まらん。ごく一部のものは過去の一部を変革できるものもいる。だが、その力はリュウトには影響を与えん。・・・厳密に言えば、リュウトに影響を与える変革がなされたならそれは新しい世界の創造になるということだ。」
それはいわゆるパラレルワールドって奴ね。どんな力を持つものがどんな方法で過去の何を変えようともここにいるリュウトには何の影響も与えない。世界の時間の流れから独立・・・ううん、孤立してしまっているのが竜神。
「また竜神は時の流れによる死や劣化・・・つまり寿命や老化はない。ゆえに竜神は時の力に対して無敵の存在なのだ。」
「ふむ、だが自身の時を加速させたり、特定のものの時間を遅くするものもいると聞く。そのような存在に対しては無敵ではなかろう?」
あ、アシュラ! そんなとんでもない存在もいるの?
「無駄なことだ。あらゆる力をもってしても竜神の時を遅くすることは出来ん。だが、加速は出来てな・・・もしも自身の時を加速するものがリュウトに害を与えんとするならば、竜神の力が自動的にリュウトの時をそのものと同じ速さにまで引き上げる。」
き、聞けば聞くほどにとんでもない能力ね。でも、話を聞く限り良い事の様に思える。たしかに良い過去の変革さえもリュウトには影響を与えないんだけど、元々過去なんて本来変えられるものじゃあないんだし。・・・それが何で呪いなんだろう?
「・・・竜神には時による死はない。病気など軽いものならばともかく、命を脅かすものにはまずならん。・・・よほどエネルギーを使い果たしていない限りな。ゆえに竜神の死に場所は戦場と決まっている。そして、運命は大きな戦いには必ず竜神を引き込む。いや、戦いを前に手を出さぬようなものは竜神とは呼ばれぬというべきか。」
・・・え、えっと、つまりリュウトはこれからも生きている限り戦いに巻き込まれ続けて、いつか戦いの中で死ぬ。・・・そういうこと!?
「そ、そなたに何故そのようなことがわかる! そなたが先代に使われていたころ、先代はまだ竜神とは呼ばれていなかったはずだ!」
だから、竜神のことを正確に知っているわけではない。・・・そうであってほしかった。
「・・・いたのだよ。我の使い手の中に竜神と呼ばれるものが・・・。」
「えっ!?」
そ、そんな嘘よ。だって
「竜神は邪竜神ダロン=アルバート、先代のライオス=アルバート、そして今のリュウト=アルブレス・・・この三人のみだと思ったか?」
だ、だって・・・私、他に竜神なんて呼ばれる存在・・・知らない。
「たしかに記録に残っているものは他にはいるまい。他のものは皆、裏切られ、騙されて死んでいったのだ。その汚点を隠すかのように彼らの存在は隠匿され、時の中へと消えていった。・・・それが竜神と呼ばれしものの歴史。呪われし宿命なのだ。」
そ、そんなの嘘よ。だってそうすると・・・
「ダロンは邪悪な心を持っていたがゆえに英雄に倒され歴史に残った。ライオスは英雄として死に、死後竜神と呼ばれたがゆえに歴史に残った。ならば、今現在すでに竜神と呼ばれるリュウトの末路は? 100にも届かんばかりの人数がいる竜神の例外である2人と同じ道をたどれると思うか?」
いや! そんなの聞きたくない! 信じたくない!!
「我の使い手だった竜神はな、出会ったころは粗野な男だと思った。だが、奴は誰よりも強かった。誰よりも優しく、常に人のために笑って戦場にたった。その力を恐れられ、謀略の戦場の中死す時に・・・俺の命と引き換えに平和が訪れるのなら本望だって笑いながら・・・。」
「もう・・・いい。」
リュ・・・ウト? 俯いた顔は私には見えない。でも、でも!
「いいじゃないか。人のために戦えて、人のために・・・平和のために死んでいけるなら。俺も・・・それでいい。」
嘘よ! だってリュウトはあんなに戦いが嫌いじゃない! それなのにいつも自分の心を傷つけながら人のために戦って・・・そんな未来私は認めない!
「だから・・・みんなも気にするな。・・・な?」
あっ・・・顔を上げたリュウトの表情。無表情を装っているけど・・・私にはわかる。リュウトは泣いている・・・心の中でその心が壊れんばかりに。
「悪い、ちょっと俺・・・頭冷やして来る。」
竜神に秘められた力・・・そして宿命。さすがのリュウトも堪えたようですね。
ママナ「う~ん、ベルフェゴールに言ったように運命なんて切り捨てればいいのに・・・。」
お、お久しぶりのママナですね。まぁ、アレだけ濃い話を聞かされてすぐにはそんな気分にはなれないでしょう。リュウトは基本的にメンタル弱いんですから。
ママナ「久しぶりなのはあんたが書かないからでしょ! まさかこんなに出れないなんて思わなかったよ~。でも、リュウトも心配だけどアキも心配だな。」
そうですね。ということで次回はリュウトとアキの話です!
ママナ「ブ~! たまには私も書いてよぉ~!」
・・・それは後ほど。ちゃんと出番は用意していますから。・・・2部の最後の方に。では次回もよろしくお願いします!
ママナ「こら~! 逃げるな~~!」




