最終部14章「女神として、人間として」2話「今はただ」
背後に去って行くリュウト君とルーンの気配を感じながら、私はジッと目を閉じ考える。私は何故まだ生きているのだろうと
私が死ぬべきタイミングは今までにも何度もあったはず。ライオスが死んだとき、あの子が死んだとき、後継者としてレミーを育て上げたとき・・・いえ、これはまだ駄目かしら?・・・私がレオンに操られたとき、何度もあった死んでも良い、死ななければいけないタイミングで私は生き残ってしまった
「死からすら嫌われているのかしらね?」
自分が嫌われても仕方がないことをやってきた自覚はある。何人どころではない、何万、何億という人、人だけではない多くの生き物たちの生涯を狂わせてきた。いまさら自分も作られて利用されてきた命だと知っても恨むつもりは毛頭起きないわ
「今回もまた生き残ってしまうのかしら?」
前回の操られたときは本当に未来のために、私が犠牲にしてきた命たちのために死ぬべきだった。それなのに生き残ってしまった私にはちょっと欲が出てきてしまったみたい
死にたいと願ったことがないわけではない。むしろ、そう願っていた日数の方が遙かに多いでしょう。でも今は、この時間に幸せを感じている。私の人としては長すぎる生の中でごく短い生きていたいと願う日常
「死にたいと願っていたときは死なせてくれなかったのにね」
生きたいと思うようになったら生きるために戦わなければいけないなんて神の身とはいえ運命とは上手く行かないものだと思う
パチリと目を開く。この目に映るのは私に、ひいては世界に死をばらまこうとする奴ら。それが自分たちごとだと知ってもなおアレは止まらない。いえ、止まる権利を与えられていない・・・私以上に、そして私が狂わせてしまった人たち以上に哀れな思考能力を与えられた人形
「罪滅ぼし、それはどっちに言うべき言葉かしら」
救うべき世界か、止めて貰えるアレたちか。それとも、アレよりはマシだったでしょう? と言い訳をしようとする自分自身にか
「・・・光の女神だな」
その呼び方、ルーンからかしら? いえ、おそらくルーン経由でレオンに伝わってこれに伝わったのね。レオンにとってもルーンは特別だから見てもいるのでしょう
「・・・違うわ」
「何?」
「残念だけど女神は引退したのよ」
世界の未来のために多くの者たちを死へと追いやった悪い女神はもういない。今ここにいるのは随分と久しぶりに目を覚ました、ただ自分の未来を勝ち取りたいだけの人間
「私はレーチェル=フラン。ただのごく普通の人間よ」
この身に宿るのは古の太陽神の因子。神として作られたわけではなくとも人と言えた時期が本当にあるのかは私にも分らない。それでも
「ふっ、ただの人で我らに逆らうと?」
「逆よ、神ごときではなく人だからこそ戦えるのよ」
世界のために戦う者よりも自分のために戦える者の方が強い。今はただ、そう信じて私はここにいるのだから
あけましておめでとうございます。今年最初の竜神伝説はレーチェルの内側。レーチェルの心理はどうしてもこの世界の存続と個の幸せ。全体を見る神と個を見る人。その葛藤に集約されるんですよね
レーチェル「私はずっと女神だった。でも、女神であることを望んだわけじゃないわ」
よく○○であるには優しすぎたなんて表現がありますが、まさにレーチェルは神であるには優しすぎたのです。少なくてもこの世界の神には
レーチェル「そんなのじゃないわ。私はただ、もう一度自分の幸せを夢見たくなった我が儘な人間よ」
その我が儘が力となることもあるものです。その結果はきっとこの章に出てくるはず・・・といったところで今回はお開きです。本年もどうかよろしくお願い致します




