最終部13章「氷炎の乙女たち」13話「大団円」
「ごめんね、ミリー」
静寂ののち、アキがそうポツリと言う。アキはワタシとレキュオスを救うためにミリーを犠牲にした。勿論アキ自身、ミリーが失われるなんて考えていなかったに違いない。もしも、そうと知っていてもなおワタシとレキュオスを救おうとしたのかは分らないけど、彼女の感情はその頬を濡らす一滴の涙だけで十分に分る
「リデア、レキュオス、大丈夫?」
それでも振り向いたアキは笑顔でワタシたちにそう話しかける。あまりにも作られたその笑顔が逆に悲しいほどに
「ええ、大丈夫よ」
「私も平気なのですよ~」
こんな時ぐらいしっかりとしなさいよとレキュオスに思うけど、レキュオスはこんなに雰囲気が読めないほどじゃなかったはず・・・あっ
「ミリー・・・エルファリアに戻ったらお墓作ってあげないと」
コロンと転がってきたドラゴンハートを拾いながらアキはそう言う。ドラゴンハート、至高の魔法石と呼ばれるそれは名前の通りに竜族の心臓。ワタシや兄さんは人間の血が濃いためにあんな完全な球形はしていないけど、竜族にとってはさほど貴重な物ではない。肉体なんて入れ物に過ぎない竜族は心臓が失われてもさほど支障は無いし、しばらくすれば再生する。だからいってやたらめったら他人にあげるわけはないから他種族には先ず手に入らない秘宝なのでしょうけど・・・えっと、教えてあげるべきかしら?
「ご主人様・・・お腹減りました」
なんか今シュールな風が吹いた気がするわ。うん、ドラゴンハートから聞こえた声でアキも気がついたわね。ミリーは魔法杖ミリーなんて名乗っているから勘違いしがちだけど本体はあのドラゴンハートの方。つまり杖の方が壊れようと砕けようと消滅しようと関係ないのよね。あとで兄さんかレーチェルあたりに杖の部分を作って貰えば良いわ・・・ワタシ? ワタシはそう言うの苦手なのよ
「・・・・・・リュウトが戻ったら食べさせてあげるわよ」
アキがスッゴく苦虫を噛みつぶしたような声と顔でそう答えるわ。まぁ、勘違いをしたのはアキだしミリーに文句を言うことも出来なかったのね
「本当ですか! つまりご主人様とリュウトさんの濃厚なイチャラブを!」
パキリとアキが握りしめたドラゴンハートから音が聞こえた
「ふぁ!? ちょ、ちょっと! ご主人様!!? これ、私の本体!! これが砕けたら本当に死んじゃいますからね!?」
ま、まぁ、あなたのご飯がそれであるのは事実でもアキをからかった罰と思って受け入れなさい。ドラゴンハートならばそのぐらいの傷は勝手に修復するでしょ
「まったく、呆れるぐらいに綺麗な青空ね」
ワタシは空を見上げてそう呟く。後はあんたたちで勝手にやっていなさいと・・・この場での大団円は果たされたのだから。後は兄さんが本当の大団円を果たしてくる、ただそれを待つだけね
ということでミリーは全く問題なかったわけですね。そもそも杖の方はリュウトが一度修復していますし
アキ「忘れていた私が悪いのだけど、だけど!」
まぁ、あの状況下で気がつかなかったのも無理はないかと・・・あのリデア? ちょっとだけこの辺を冷やしてくれると
リデア「嫌よ。アキの羞恥の炎なんてレアな物を鎮火するなんてもったいない」
いやいや!? 無意識に放出されている炎でも数京度ぐらいあるんですよ!? 今のアキは・・・!
リデア「だったら幕を引けば良いでしょう?」
今回がラストなので次章予告が・・・あのアキさんお願いしても・・・
アキ「う、うん、『それは最後に残された役割。それとも最後に残された心? 捨てた物と残った物、守った物、全てが交錯したときに・・・竜神伝説最終部14章「女神として、人間として」彼女の物語もようやく終わるとき』あの人の本質ってどっちなのかな?」




