最終部9章「天使たちが願うもの」5話 「わたしは」
純白だった羽を漆黒に染めながら、あたしはその羽を舞い散らす。その光景に一瞬とは言え驚きの表情を見せる目前の敵たち。この漆黒の羽はあたしの存在証明、つまり、あたしの存在がその驚愕を生み出した
「ふふ、レーチェルやメイほど悪辣ではないけど、中々楽しいものねぇ」
「・・・騙したと言うことか?」
「あら? 世の中騙されるのが悪いのよぉ。特に戦場ではねぇ」
そもそもわたしは闇、わたしは幻、わたしは嘘
あるのに見えないのか、ないのに見えるのか
「っ! だが考えているのならば我が・・・」
そんなことを言うのは心を読めるらしい1体。それはわたしが先ほど射貫いた存在でもある。完全に刺さったとはいえ一撃で葬れるほど弱くはなかったようね
「残念だけど・・・あなたはもう存在していないわぁ」
「うおっ!?」
だんだん、そう言うには速くその体が消えていく
わたしは闇、わたしは幻、わたしは嘘。だからあなたも闇に、あなたも幻に、あなたの存在を嘘に変えてあげましょう
「こ、これは幻だ! 幻とわか・・・」
「ええ、そうよぉ・・・それがどうしたのかしら」
そしてその存在が空虚へと変わる。存在が消滅したのか、存在していても認識も干渉もできないのか・・・思考も感情も幻と散ったのならば見ることも触ることも出来ない体がそこにあったとして存在していることになるのかしらね?
「わたしの幻は・・・幻と分っているぐらいで破れるほど弱くはないわぁ」
わたしは闇、わたしは幻、わたしは嘘
心も体も言葉も捉えどころ無くゆらゆらと
「幸せの夢の中に溶けるのも、苦痛の幻の中にあるのもあなたとわたしの望みのままに」
恐怖が広がる。恐怖は良いわぁ・・・その深い闇は容易に絶望を映し出す
メイは思考を読み先回りをする。でも、わたしは違う。わたしは闇の中に幻の意思を作り出す
「お、恐れるなぁ! 攻撃すれば当る・・・!?」
わたしに撃たれた無数の攻撃が当る前に消える。いえ、攻撃はそのまま、消えたのはわたし
「どこを見ているの? わたしはここよぉ」
その敵の1体の背後からわたしはそっと首に触れる。ピクンと震えるその振動がこんな存在でも確かに恐怖していることを示す
「捕まっちゃったわねぇ。捕まったら・・・消えないと」
フッとその存在が消える。その代わりに現われたのは
「さぁ、わたしはここよぉ」
「いえ、わたしが本物よぉ」
「こっちかもしれないわぁ」
「「「そもそも本物なんて存在しているのかしらぁ」」」
無数のわたしたち、数多くしてどこにもいない
わたしは闇、わたしは幻、わたしは嘘。わたしはレミーという存在に寄生した闇、心のなにもない場所
「ほらほら、もっと撃ってくればまぐれ当たりするかも知れないわぁ」
虚構たちに降り注ぐ攻撃の雨。その度に消えては現われる虚構
わたしは闇、わたしは幻、わたしは嘘・・・だから元々わたしなんて存在してい・・・
『それは違うよ!』
突然聞こえた『レミー』の声にわたしは一瞬動きを止め・・・無数の攻撃の1部に包まれた
と言うわけで堕天使レミーのターン、軽いホラーです
レーチェル「あれ自体は昔私がやっていた戦法みたいなものなんだけどね」
レーチェルがやっていたのはあくまでも幻影初級編ですからね。これが応用編というか堕天使レミーバージョンというか
レーチェル「・・・」
あれ? なんで何も言わない・・・っていない!?
堕天使レミー「あらぁ、誰と話していたのかしら?」
誰ってレーチェル・・・
堕天使レミー「レーチェルなんて最初からいないわぁ。いえ、そもそもあなたも本当にここにいるのかしらぁ」
・・・・・・・・・
堕天使レミー「ふふ、ここに『誰も』いなくなったから今回はここまでよ。次回も是非見に来て欲しいそうだわ。でも・・・これを見ているあなたも本当に存在しているって言い切れるかしらね?」




