最終部5章「美しき者の戦い」7話 「姉の背中に」
ニヤリと笑って殴り合う姉さんとキメラ。粗野で野蛮な大嫌いな鬼の姿・・・憧れ続けて、諦めた姉さんの強さ
「いけない、姉さんを助けないと・・・」
そう思って立ち上がろうとするのに体が動かない。立つことさえも出来ないほどに疲弊しているというわけではない。姉さんと互角に殴り合っているようにも見えるキメラに恐れを成しているわけでもない・・・ただ、あの中に割って入って姉さんの邪魔になってしまうことは怖かった
「どうすれば・・・」
いくら姉さんといえどもあの怪物の相手は中々大変で本当ならば迷うことなく姉さんを助けに行くのが正解のはずだ。実力が及ばなかろうとも盾になるとか囮をするとか、気を散らすことの1つでも出来れば十分に役には立てるだろう。けれど・・・そんな葛藤をしていると姉さんがチラリとこっちを見て舌打ちしたのを見て体がこわばるような感じがした。やはり、俺は鬼としては情けないのだろう
「覇鬼! んなところでのんびりしているんだったら他の連中を手伝ってやれ! こいつは俺が喰らい尽くしてやるからよ!」
そう言って本当に噛みついて食いちぎって見せた姉さんはやっぱり鬼の中でも野蛮だと思うけど、そんな姉さんに如何しても憧れを抱いてしまうあたりはやはり俺も鬼なのだろう
「へへっ、美味くはねぇな」
そう言って噛みちぎった肉をペッっと吐き出して笑う姉さんからさらに横目で見られて俺は半ば逃げるように他の敵へと走る
「美味い肉は逃がさん!」
「あいつを喰らいたかったら俺を喰らった後にしろよ、餓鬼?」
そんな声が俺を追いかけるように聞こえてくる。ああ、俺は随分強くなったと思っていた。実際に弱くはないのだろう。それでも姉さんとの力の差は大きくなるばかり、それが竜神様のところに行ったことが理由ならば俺がついて行けば良かった。いや、あんな姉さんだから竜神様の隣に入れるのかも知れない
「姉さんは何時でも俺の目標だ・・・だから」
死なないでくれ。そう言おうとした言葉を飲み込む。その言葉を言ってしまえば、まるでその危険性があることを認めてしまっているようなものだ。だから言わない、姉さんは誰にも負けないのだから・・・竜神様とはきっと戦えないのだろうけど、別に理由で
「覇鬼? 美鬼はどうした!」
他の鬼たちが戦っている場所にまでやってくると顔なじみの1人が俺にそんなことを言ってくる
「向こうでこいつらのボスと思われる奴と戦っている」
「ば、馬鹿野郎! 俺らなんて死んでも地獄に帰るだけだ! お前は美鬼の手助けをするべきだろうが!」
「いや、姉さんの獲物を横取りなんてしたら俺たちが怒られる」
そうだ、あんな奴姉さんの敵ではない。ただの食われ、姉さんを楽しませるだけの獲物に過ぎない
「・・・違いねぇ。強敵との戦いは望むところだが、あいつとは戦いたくねぇな」
一瞬固まった鬼たちがそんなことを口々に言い合うって姉さん普段どんな印象を持たれているんだ? 鬼から鬼って言われるのは相当だと思う
「姉さん、戦いが終わったらお説教だから」
だからさ、どこかに逃げ出したりしないでくれよ、姉さん
と言うことで素直になれない弟君でした
覇鬼「いや、姉さんは怖いのは事実だ」
そりゃ、リュウト陣営の中でも一二を争う戦闘狂は伊達じゃないですしね。血で染まったような真っ赤な体も恐怖でしょう
覇鬼「・・・姉さんは綺麗だし可愛いだろう」
・・・えっ?
覇鬼「もう少し大人しくして笑っていれば絶対にもてるはずなのに姉さんは!!」
とまぁ、実のところお姉ちゃん大好きっ子でもある覇鬼君でした。喧嘩ばっかりして怖がられている自慢の美人姉ちゃん持っている弟ポジションでしょうか? とまぁ、そんな一面がはっきりしたところで今回はここまで! 次回もよろしくお願いいたします~




