2話 「新しい強さ」
「ム~、リューくんとあーちゃんうまく行くといいな。」
二人が消えていったほうを見てぽつりとそんなことをレミーが言う。正直オレにはどうでもいいことだ。
「ね~、アーくんもそう思うでしょ? ・・・ところでそんな場所で何してるの?」
だというのにレミーはそんなことをオレに問いかける。オレはレミーを見下ろしながら後者に限り答えてやることにする。
「見張りに決まっている。」
オレたちがマモンを倒したことはすでに多くのものに知られていると見て間違いない。そしてアキの張った結界は敵意を持つものが近づいていることを感知する優秀なものだが、実力者から見ればそこに何者かがいることを知らせてしまうと言う欠点もある。・・・そして、この場ではもっとも体力のあるオレが見張りには適任だからな。
「ふ~ん、やっぱりアーくんって優しいね。」
優しい? これは自分の身を守る為でもあるのだ。大体悪魔の中でも上位に位置するオレになにを・・・
「おい、貴様は何をしてる?」
レミーは懸命に木に登ろうとしているようだが、うまく行かずに(落下距離は1mもありはしないが)何度となく落ちる。
「えっ? だってアーくんが木の上にいるから、上らないと話しづらいし・・・」
無論オレが木の上にいるのは見張りのためである。が、レミーは何ゆえに普通に上ろうとしているのだ? 上れぬと言うのなら・・・
「・・・貴様の羽は何の為にあるのだ?」
思えばこいつが飛んでいるのを見たのは邪竜神の空中城に入るとき一回だけだな。もしや、自由に飛べんのか?
「あ、そうか・・・わたし飛べたんだった。」
・・・真剣に考えたオレが馬鹿だったと言うことらしい。少々情けない思いをオレがしていると、そんなことはまったく考えもしないのだろうレミーがパタパタと飛び、俺の横に腰をかける。
「ねぇ、アーくん。アーくんにとってわたしって何なのかな。」
オレにとってレミー? それは答える必要などないはずの問いだった。だが、あまりにもレミーに顔が寂しげだったからかつい口を開いてしまった。・・・オレも甘くなったものだ。嫌な気はしないがな。
「オレにとって貴様らは・・・リュウトの付属品だ。」
「そっか。・・・そうだよね。わたしったら何を期待してたんだろ。」
オレの言葉にレミーは今にも泣き出しそうな顔を・・・そして今にも消えてしまいそうな気がした。
「と、昔のオレならば言っただろうな。」
ついでオレが言った言葉にピクンとレミーが反応する。目に一杯の涙を溜めて、期待したいような怖いようなそんな表情だ。
「オレは戦いが好きだ。リュウトとの戦いは楽しい。そして・・・リュウトの力を支えているのはお前たちだ。」
嘘ではない。オレは事実を淡々と述べる。だが、それだけではない。もう、認めるべきなのだろうな。
「それはきっとアーくんもおんなじだよ。リューくんはわたしの為にもあーちゃんの為にも・・・そしてアーくんの為にも戦えるし強くなると思う。」
くだらぬと思う。だが、それはきっと真実で・・・またオレもそうなりつつあるのだろう。そして、こいつらもまた同じなのだ。
「でも、それじゃあ結局わたしたちはリューくんの力のためにいるのかな?」
オレは静かに首を横に振る。今までのオレならそう答えただろうし、それもまた必要な要素であることには変らない。だが
「今回の戦いはオレ個人の楽しみで行われているわけではない。そう・・・以前の戦いは貴様らがどう思おうと、オレにとってはそれだけだったのだ。昔のオレは生死をかけた極限の・・・楽しい戦いの中でなら死んでもいいと思った。いや、そんな戦いの中に死に場所を求めた。だが、オレは弱くなったらしい。初めてまだ死ねないと思った。何があっても生き延びようと考えている自分に気がついた。」
「それは・・・弱くなったんじゃないよ。きっとアーくんは強くなったんだよ。本当に生きたいだけなら戦わない。魔王なんて知らないって逃げ回っていればアーくんは確実に生き延びられる。でも、アーくんの中にはそんな選択肢はないんでしょ? アーくんは臆病じゃない。勇敢だもの。」
逃げては意味がないからな。・・・そうか、オレの戦う理由に楽しみのほかにもう一つ理由が増えたと言うことか。
「今のオレはもう戦うために戦うとはいえない。戦い、勝ち・・・生き残る。お前たちはそのための大事なパーツ・・・仲間だな。」
オレのその言葉に涙をポロポロと流すレミー・・・なにかまずいことを言ったのだろうか?
「・・・うん、いまは・・・それでいい。嬉しいよ、アーくん。」
ふん・・・!? ピクリと反応するオレの体。どうやら来たようだな。オレたちを倒し名声を得ようとする奴ら。否定はしない、それこそが弱肉強食の魔界の掟そのものだからな。
「あ、アーくん! リューくんたちに知らせにいかないと!」
いや、その必要はない。オレはレミーに影響を与えない程度にエネルギーを開放する。アキは勿論のこと、リュウトもなかなかに頭は切れる。この事態は予想済みのはず・・・ゆえにオレの行動の何たるかも気づくはずだ。
「あ、アーくん?」
オレはあいつらとは違うんでな、気の効いた言葉は言ってやれん。だが
「敵の数はなかなか多そうだ。お前の力も貸せ、レミー!」
「うん! アーくん、任せてよ!!」
今はこれでいいのだと思う。さぁ、今のオレたちに貴様らが勝てるかな?
アシュラも仲間意識を持ち始めましたって話です。
アキ「ムッ、なにやらあの二人の方が恋人らしく見えるぞ。」
アシュラはリュウトよりもさらに落としにくい相手ですからね。レミーが積極的に話しかけてるおかげです。狙ってやってるんじゃないだろうけど・・・
アキ「そういえば、私とリュウトの会話量はあまり多くないな。・・・見習ってみるか。」
リュウトが混乱しない程度なら効果的でしょうね。もっとも後必要なのはあなたがリュウトの傷を知ることと、リュウトがそれを乗り越えることなのですが・・・
アキ「な、なに!? もっと詳しく教えるのだ!!」
それはもう少し先の話です。つまり自分たちで見つけてください。ではまた~!




