1話 「一時の安らぎ」
私たちは傷つき倒れたリュウトを抱え、(信頼があったとは思えないとはいえ)主を倒されたことで部下がやってくる危険性のある城内と付近の悪魔に襲われる危険性のある野外の2択を迫られることになった。そして
「ここなら大丈夫かな?」
「気休めだが結界も張った・・・大丈夫だと信じたいな。」
マモンの城から程近い森の中にキャンプを張ることにしたのだった。
「しかし・・・アレで最弱か。先が思いやられるな。」
何気なく言った自分の言葉に体が震える。でも、そんな姿は見せられない。こういった不安って言うのは伝染していくものだから。・・・アシュラやレミーにはそんな繊細な神経ないかもしれないけど。
「で、でも! それは噂だよね? ひょっとしたら最強だったのかも・・・」
レミーのそう思いたい気持ちは良くわかる、けれど楽天的な言葉を遮ったのは
「レミー、事態は悪い方に考えていた方がうまくいくものだぞ。」
「リュウト!?」
「リューくん!?」
思わずレミーとハモってしまうほど吃驚した。でもそれは嬉しい驚き。しかも気がついたばかりだと言うのに、もう起き上がろうとしている。
「もう動いても大丈夫なのか?」
正直私は心配。リュウトがまた無理をしてるんじゃないかって・・・そりゃ、のんきに寝ているような状況じゃないのはわかるけど。
「ああ、心配は要らない。いや、心配をかけさせた奴のセリフじゃないな。だが、こうやってみんなとのんびりできる時間・・・寝て過ごすにはもったいなさ過ぎてな。」
私がどんなに心配したかわかっているのかいないのかリュウトはそんなことを言う。でも危険だから起きているんじゃなくて、私たちとの今このときを楽しみたいから・・・リュウトの言葉は楽天的にも映る。でも今はそれがとても頼もしい。彼がいるだけで絶望的な状況に希望がわいてくる・・・そんな気がするの。
グッと力を入れて体をのけぞらせる。その動きにまるでパキパキと音がするかのように体が痛んだが、どうやら動く分には問題なさそうだ。
それはひょっとしたら酷い自惚れなのかも知れない。自分がそう思っていて欲しいと思うが故の甘い幻なのかもしれない。・・・でも俺はアキが俺が傷つくたびに心の底で泣いているように思う。酷い心配をかけてしまっているように思うのだ。だから、少しでも心配をかけないためならこの程度は苦ではない。どんな困難な闘いだって笑いながら余裕な顔で挑もう。もっとも、俺自身がみんなとの時間を楽しみたいって言うのも本音だけどな。
「ねぇねぇリューくん、みんなじゃなくてあーちゃんとの時間・・・じゃないの?」
まるで猫がすりよるように体を擦り付けながらこんなことをいうレミー。
「ん? たしかにアキとの時間も大切だけどな、みんなとの時間も同じぐらい大切だぞ?」
ぞくっ!? 背中に感じた異常な殺気(?)はなんだ?? 以前コクトの技に感じたよりも大きいぐらいの危機感があったんだが!? 慌ててあたりを見渡すものの敵の姿は感じられず・・・一体なんだったんだろう?
「はぁ、リューくん・・・いつか背中から刺されないように注意してね。絶対浮気なんかしちゃだめだよ? 結構あーちゃんは嫉妬深いんだから。」
浮気などするつもりはない。というか俺は誰とも付き合っているわけではないのだが・・・なんだろう? よく聞き取れなかった最後の言葉がもの凄く気になるのは?? などと後から思えばアキが心を読む能力があったら本当に殺されていたかも知れないことを考えていると
「リュウト~♪ ちょっとこっちに来てくれるかな~♪」
その言葉も口調も今まで聞いた事がないぐらい明るく子供っぽいものだったが・・・アキ、その満面の笑顔にまったく笑っていない目は怖すぎるんだが。
「ちょ、ちょっとそんなに引っ張るなよ。いっ、それは痛いって!!」
「いいから! 早く来なさい!!」
さっきまでいたところより少し奥まった森の中。俺を引っ張っていたときのアキはマモンと単独で向き合っていたほうがマシと思えるほど鬼気を出していたのだが、この場についてからはとたんに大人しくなった。
「その・・・ごめんなさい!」
そんなアキから発せられたのは意外な言葉。そして90度近いほど頭を下げると言う意外な行動。・・・正直良くわかっていないのだが、俺がしたことの中にアキを怒らせることがあるからあれほど怒っていたのだろう? ならアキが謝ることはないじゃないか。
「あのね、私・・・あなたのことになるとなんか変なの。感情が制御できないって言うか、さっきみたいに感情に任せた行動しちゃって・・・今だってこんな子供っぽい言葉遣いしか出てこなくて・・・こんな私なんて、リュウトだって嫌だよね?」
今までに何度か見た女王ではない一個人としてのアキ。でも、今回は今までになく儚げでいまにも消えてしまいそうで、気づいた時には俺はアキを抱きしめてしまっていた。
「ちょ、ちょっとリュウト!」
真っ赤な顔をしてジタバタとアキが暴れるが離してやる気はない。
「いいんだ。それでいいんだよ。前にも言っただろ? 旅の中ではキミはアキ=シルフォードだ・・・アキ=シルフォード=エルファリアじゃない。ありのままのキミを見せてくれればいい。いや、見せて欲しい。もっと頼って欲しいんだ。」
「・・・うん。」
俺の言葉に真っ赤な顔は変らずだが、アキは静かにうなずいてくれた。
「しっかし、一体何が気に入らなかったんだ? 悪いが俺には思い当たるものが・・・」
「そう・・・気づいてないんだ。気づいて・・・フフフ。」
ズザザザッ! ・・・思わず俺はそんな効果音が似合うほどの速度で後ろに引いてしまった。怖い、怖すぎるぞアキ。
「まぁ、今回は大目にみよう。だが、リュウト・・・次はないぞ♪」
ああ、口調も可愛らしいアキから普段のアキに戻っちゃったし・・・。だが、こんな時間がたまらなく愛おしい。1度、俺が未熟だったから・・・馬鹿だったから失ってしまったもの。同じものは取り返せないが、代わりに同じぐらい大切なものが手に入った。もう2度と、何者にも奪わせやしない!
だが、このとき次なる戦いの魔の手はもうすぐそこに迫っていたのだった。
今回はリュウトとアキの物語。やっぱり恋人にちょっと満たないところをうろちょろしてる二人です。主にリュウトの所為で
レミー「ム~、二人は目立っているけどわたしたち出番少ないよ~! アーくんなんてまったく出てきてないよ? ここにいるはずなのに。」
あいつがこんな会話の中にしゃしゃり出てくるなんて考えられるか?
レミー「ム~、たしかにそうだけど・・・でもわたしたちの関係もちょっとは進展させたいよ~! アーくんもリューくんに負けないぐらい鈍いんだから!!」
それを外堀を埋めるように僅かずつ攻略していっているのは・・・恋愛に関して『だけは』頭使っているな~。(いや、本能で行動してるだけか)
レミー「えっへへ! 褒められた~♪ わたしは結構頭いいんだよ~♪」
これを褒められたと思うあたりが馬鹿にされる要因だとは思ってもないんだろうな~。




