13部6章「最後のデート」26話 「1つの許し」
「・・・・・・」
「なんとか言ったらどうかしら?」
リデアちゃんから告げられた待ち合わせ場所で誰が来るかなんて分っていたはずでしょうに、私が来たらそんな顔をするって言うのはどういうことかしらね、リュウト君?
「いや、俺にとってはレーチェルはご先祖様って感じだからなぁ」
「・・・それは止めなさいって言わなかったかしら?」
まったく・・・本人も笑っているからわかっていて言っているんでしょうけどね。でも、私相手にそんなことが言えるのはリュウト君とリデアちゃんぐらいなものね
「ははっ、だが普通に天界・・・はともかくレーチェルの神殿に招かれるとは思わなかったが」
「私に今の地上をどうこうって言うのはないもの」
人として過ごしていた時間もあるから故郷がないってわけではないけど、流石に古すぎるしリュウト君が知っているはずもない場所よ。あえて言えば、リュウト君にとっては先代に当るライオスの祠があった場所ではあるけれど、もうとっくにそんな物はなくなってしまっている。彼の神殿はリュウト君が竜神剣を手に入れたあそこか、もしくは竜神の力を手に入れた洞窟のどちらかと言うべきでしょうね
「・・・」
「・・・」
少しだけ重い沈黙。私は別に自分の生い立ちを不幸だと思ったことはないわ。どうやら私も作られた存在らしいけど、同じように自分たちのコピーとも言える存在を数多く生み出してきた私にそんなことを悲観する資格なんてありはしない。そもそも、つい最近知るまではそんなことは知らずに生きてきたのだから関係もないわね
「レーチェル・・・」
「何かしら?」
でも、それはリュウト君にとってどうなのかしらね。私は彼を不幸にしてきた自覚がある。私が何もしなければ、あったはずの彼の普通かも知れないけど幸せな人生を壊したという自覚が・・・そんな私が彼を好きだとか恋人の1人になりたいとか、自分が彼の先祖であると言うこと以上に問題があるのではと思ってしまう
「俺はな、レーチェルに会えて良かったと思っているぞ」
「リュウト君・・・」
言葉が出ないってこういうことなんでしょうね。普段は鈍すぎるぐらいこういうことには鈍いくせに本当に言って欲しい言葉がこういう時に出てくる。ふふっ、あなたの周りにあんなにいっぱい女の子がいるわけだわ。自分の子孫が、彼の面影を強く残した子がこんなにも天然たらしなことは思うところはあるけれど
「私はあなたを不幸にしたわ」
「俺はそれを不幸だとは思わない。確かに普通の幸せって奴を俺は追い求めていた。それは否定しないが、今がその普通の幸せじゃないなんて思っていないぞ?」
リュウト君が求めているのは特別な幸せではなくて、普通の幸せ。特別どころかこんな争いに巻き込まれて不幸なんじゃないかと思っていたというのに
「こんなにも多くの仲間が出来た。それにその、恋人って奴もな。守らなければいけない人たちの数は幸せの数だ。確かにその責任が重いって感じることも多いが・・・それは不幸の重みじゃないだろう?」
ぽたりと落ちる涙。そんなことに慌てるリュウト君はきっと分っていないわ。あなたのその言葉が私を縛っていた呪いを解いてくれる言葉なのだと言うことを・・・ほんの1部ではあるけれど
「私は多くの不幸と死を生み出してきた女よ」
「けれど、それは大きな幸せを生み出すためだった。レオンを放っておくわけにはいかなかったのはわかるさ」
その結果、本来だったらその人が会うはずもない遙か未来の不幸を先に押しつけた
「私は・・・あなたを好きでいて良いの?」
許されない罪を背負っていると思っていた。操られている時は自身の死を求めたわ。自殺さえも許されない神である私にとってそれは解放だった
「俺はそう思われることを嬉しく思うさ。こんな俺でいいのかって思いはあるが」
それは多くの女の子の怒りを買う言葉よ、リュウト君。勿論、私だってそんなあなたの言葉に怒りを覚える1人だわ
「リュ・ウ・ト・く~ん?」
「ちょ、ちょっと待て!? その目、いや顔は怖いぞ!?」
何よ、それ! 失礼しちゃうわ
「怒っているんだから当然よ! 私を怒らせた罰よ・・・好きでいて良いって言うのならば、恋人にしてくれるって言うのならば」
そっと目を閉じる。流石のリュウト君もこれが分らなかったら承知しないわ
「ん・・・」
僅かに触れるだけの優しいキス。ずいぶんと久しぶりの感触は甘い味がした『私』の最後のキス
今回はレーチェルの話でした
レーチェル「ようやく私もこう言う話が出たわね」
・・・最初で最後ですけどね
レーチェル「あら? 後日談やR18も計画しているんでしょう?」
たしかにあるにはあるのですが、それは最終部が終わった後ですからね。アキのR18だけは先に短編でこの章が終わったときに出す予定ですが
レーチェル「その予定、必ず守りなさい」
えっ? あの予定は未定と言う奴で・・・
レーチェル「それが無くなると黙っていない子は私だけじゃないわよ?」
・・・わかりました。ですのでその殺気は・・・
レーチェル「分ればよろしい。さて、未来が確定したところで今回はお開きよ。次回のリュウト君視点も必ず見に来なさい。女神との約束よ」




