13部6章「最後のデート」21話 「お邪魔するは」
俺やリデアの故郷ほど何も残っていないというわけではないが、廃墟や遺跡とすら言えないようながれきの山。だが、それでもここはアイの大切な故郷なんだ
「そして、ここがボクの家だね」
ヒジリの家を離れてアイがやって来たのは自分の家・・・というか城だな。いや、忘れがちだがアイは王女だったわけだから家で間違っているわけではないんだが。ともかく昔、ここに城があった。今では
「ここがエントランスで、この先に階段があって・・・」
自重で崩れたのか原型どころか人工物らしい塊が所々にあるぐらいのこの場所。かろうじて分るのは入り口付近にあった何かの像ぐらいなものか
「ここがボクの部屋だよ。リュウトは初めてだよね」
動きからしてきっと2階に上がって、そしてアイの部屋にたどり着いたのだろう。俺の記憶にあるこの城は曖昧だが、アイにとってはどれほどの時間が過ぎても忘れられない場所
「そうか? 最初にあった場所ここじゃなかったか? その後もそこに迎えに行っていたような気がするんだが」
そう、アイとの出会いは空高くということで油断した俺がアイに見つけられたことだった。その後も空の散歩に行きたがったアイを迎えに良くここに来ていたんだが・・・位置的にここであっているよな?
「それバルコニー! そりゃボクの部屋のバルコニーだけど部屋の中に案内したのは初めてだよ」
どうもアイにとってはバルコニーと部屋の中では大違いだったらしい。まぁ、普通は部屋を通らずにバルコニーを尋ねるようなことはしない訳なんだが
「そうだったな。じゃあ、お邪魔します・・・だな」
そう言うとアイは嬉しそうに
「うん、いらっしゃいリュウト。で、ここにベルが置いてあって・・・本当だったらお茶とお菓子を出したかったんだけどね」
きっと、そこに人を呼ぶベルが設置してあったのだろう。アイがそのベルを鳴らすような仕草をした瞬間に俺は持って来た箱から菓子とカップ、そしてティーポットから紅茶を注ぐ
「それ何かと思っていたけど、こんなの持って来ていたんだ」
「何のことだ? これはアイが出してくれたおもてなしだろう?」
そう、これはアイの家で出てきた菓子と紅茶・・・それでいいじゃないか
「ははっ、何時もと同じ味がするよ」
風の力で温度も保った紅茶を一口飲んだアイがそう涙する。もうアイにとってここで飲んでいた紅茶よりもこの紅茶・・・メイが入れた紅茶の方が何時もの味になっている。それは喜ぶべきか悲しむべきか
「リュウト、ボクはちゃんと喜んでいるよ・・・でも、メイに入れて貰ったわけ?」
「というよりもメイに持って行けと言われたと言うべきだな」
「一体どんな予想したんだろう、メイ。ボク、やっぱりメイは怖いや」
うん、メイを怖がるというのは俺たちの大体の共通事項だから問題は無い。本当にあいつはどんな予想をした上でこの菓子と紅茶を持たせたのか? いや、菓子を作ったのは俺だから、そっちに関しては作っていくことを推奨されただけだが
「流石に今の状況を完全に予想してではないと思いたいけどな」
「でもメイだったらそのぐらいしそうだと思わない?」
思う。あいつはあくまで予想であって予知ではないと言うが。ほとんど未来予知に近いのではないかというのも共通見解だと思う
「まぁいいや。今はメイのおかげでリュウトにお菓子とお茶を出せた気分になれた・・・それでね」
そう笑うアイは何時のとおりの元気なアイだ。この場所はもう見る影もなく荒れ果てているが、それでもアイにとっては何時までも変わらない場所。だから、菓子も茶も出てくるのが当たり前なんだ
「リュウト、次の場所に行くよ。次は爺に会いに行って・・・あっ、お父様にも会って貰わないとね。ボクの恋人なんだから!」
そう言いながら手を引っ張るアイは普通の姫ではなくて、爺という人にも王であるだろう父親も笑っているのではないかと思うが・・・彼らにとってはこうやって元気に過ごすアイの姿こそが救いなのかも知れないな
「そうだな、ずいぶん遅くなったがアイを貰っていきますって伝えないといけないな」
そんな俺の言葉にアイが真っ赤になったのが見えた・・・
ということでアイ編リュウト視点でした!
アイ「これでボクも親公認の恋人だね!」
・・・こういうの公認と言って良いんだろうか?
アイ「絶対に喜んでくれるから大丈夫!」
まぁ、国としては神なんて姫の嫁ぎ先としては最高か。親としてはどうなのかは分らないけど
アイ「リュウトよりいい男はいないから問題ないよ」
・・・少なくてもアイにとってはそうか。まぁ、ハーレムが形成されていることを除けば、リュウトがとんでも人材なのは間違いないですしね。鈍いけど性格は良いわけだし、鈍いけど
アイ「鈍いって強調するなぁ! 否定できないじゃないか」
事実ですからね。と言うあたりで今回はおしまいです。次回は誰の話になるのかお楽しみに~




