13部6章「最後のデート」19話 「かつてのあの場所で」
「あの家はもうないのですね」
母の墓参りを済ませたククルちゃんが次に行ったのはあの時に共に過ごした家・・・の跡地だ
「ああ、それほど頑丈に作っていたわけではないからな」
突然家が作られたら驚かれるかも知れないが、このあたりは人がそれほど入り込んでいた形跡が無かった。仮に発見されたとしてもこんなところに誰も住んでいない空き家がいつの間にかあった程度でそこまで騒ぎになることもないだろうと特に壊して帰ったわけではないが、時が止まった経年劣化も衝撃もない空間だけ持てばいいレベルで作った家にたいした耐久性など持たせていない。そんな誰の手入れも入っていない空き家が途方もないときの流れに耐えきれるはずもない
「いえ、こうなっていると言うことはわかっていましたから」
ククルちゃんもその程度のことがわからないはずもなく、それでも予想はしていたけど少し寂しいという顔を覗かせる
「この辺にドアがあって・・・こっちがお風呂でしたね。それでこの辺にキッチンがあってリュウトさんがご飯を作ってくれて、このあたりが私の部屋で私が最後に寝ていたベッドがあって」
そう思い出を振り返るように今はもう何も残っていないその雪原をククルちゃんはかっての日のように歩く
「あの日の約束、リュウトさんは全部叶えてくれましたよね?」
絶対にかなわないと思っていた、そんな約束を叶えたのは俺ではない。ククルちゃんなんだ。そう声に出したい思いはあった。だが、ククルちゃんがそれを俺が叶えたというのならば俺は黙って頷くべきなんだろう
「不思議ですよね。私はここでもう一度死んでいて、この生はレーチェル様にもらったおまけのはずなのに・・・怖いんです。あの時はちっとも怖くなかった死が、リュウトさんと離ればなれになってしまうことが今は怖いんです」
死を怖がらない生物はいない。そう言うのことは簡単だったが、その死を1度経験しながら震えているククルちゃんが言うのは重い。現在進行形で死んでいる姉さんだったらわかるのだろうか
「クスッ、マリアさんでもわかりませんよ。私とはまた状況が違いますから」
まったく、どうにも俺の恋人たちは人の心を読むのが上手い。筆頭はククルちゃんとメイなわけなんだが
「リュウトさん、もう一度約束してください。例え死んでも私はきっとリュウトさんのところに帰ってきます。リュウトさんが死んでいても生まれ変わりの所に、操られているのならば解放しに、勿論普通に生きていらっしゃるなら・・・いえ、これは止めておきましょう」
きっと俺が普通に生きている状況ならばククルちゃんを殺したりはしない。そう俺が言いたいということを察してくれたのだろう。一度話を区切って、ククルちゃんは続ける
「必ず私はリュウトさんのところに戻ってきます。だから、生まれ変わった私もまたお嫁さんにしてくださいね?」
「ああ、必ず。だが、そのもしもは実現させないけどな」
どっちも死なない。それならばそもそも生まれ変わり自体がないからな。それが前提であって、それでもククルちゃんの勇気に変わってくれるように俺は彼女を胸に抱き寄せながらそんな約束をする。今度はあの時のように叶わないと知ってする虚ろな約束ではなく
「はい、その言葉だけで私は怖くなんてなくなるんです。リュウトさんがいてくれる来世があるならば死なんてなんでもありません」
そう言いながら俺の手を引いて少し先にあるほんのわずかに残ったあの場所へとククルちゃんは行く。ククルちゃんは知らないはずの場所・・・でも、わかるんだろうな
「ここ、ですよね? 私のお墓」
そう前のククルちゃんの体が眠っている場所はここだ。とっくに骨さえも朽ち果てて残っていないとか言うのはなしでな
「ああ、そうだな」
何て言えば良いのかわからずにそう答えた俺に少しだけ笑って、ククルちゃんは手を合わせる
「自分の前世が眠っているお墓を参る、そうそう出来る経験じゃありませんね。リュウトさんと一緒にいると不思議なことだらけです・・・私は誰よりも楽しくて多彩な人生を歩ませて貰っていますよ」
それはきっとククルちゃんの許し。俺がいたせいで普通の人の人生を狂わされてしまった悲劇の少女の許しの言葉。あの日、雪原で泣いていた姿も看取った最期も全部通り過ぎて今のククルちゃんに集約されていくように感じる
「・・・ありがとう」
「ふふ、私、奥さんですから」
そう笑うククルちゃんはもう震えてなんかいなかった
この物語1番のリュウト被害者ですからねククルちゃん
ククル「違います。1番のリュウトさんのカゴを受けた者です。それと現状唯一の奥さんです!」
リュウトの奥さん設定はどうしても譲れないと・・・まぁ、マリアの皆のお姉ちゃん! と同じようなものか
ククル「同じにされるのは嫌ですが・・・」
確かに自称と一応リュウトが約束したと言う差は大きい・・・のかなぁ
ククル「ものすごく大きいのです! そうですね、それがわからない人にはゆっくりと教えて差し上げます」
・・・こういうのが地雷を踏むって奴ですね。え~何時ものことですが、生きていたらまた次回お会い致しましょう! ではまた~~




