13部6章「最後のデート」18話 「酷い女と酷い男」
雪の降る雪原、そこは私の思い出の地・・・と言ってもいいのでしょうか? 来ようと思えば何時でも自力で来れる場所ですが、やはりリュウトさんと来たかったのだと思います
「ククルちゃん」
「やっぱり先に来ていたんですね、リュウトさん」
私も約束の時間よりもだいぶ早く来たのですが、それよりも早くこの場にいたリュウトさんはずるいと思います。この何も目印のない雪原、私が美鬼さんに伝言を頼んだ場所は初めて出会った雪原・・・これだけです。ユキさんは雪山ですしもう終わっていますから、この言葉で出てくるのは私だけと言うのはわかります。それでも
「よくここだってわかりましたね」
「多少ずれていても、ここならすぐわかるさ」
確かに障害物なんてなにもないここならば少し離れた場所にいてもリュウトさんは私を見つけてくれるでしょう。でも、ここって本当に私と初めて出会った場所ぴったりですよ? そう、私はここでリュウトさんと出会った。今世ではなく前世で・・・凍り付いてしまった時間がわからなくて怖くて、ここで泣いていたのです
「デートにはふさわしくはない場所かも知れないけどな」
そうですね。美しい景色があるわけでもない、美味しいご飯が食べられるわけでもない、可愛い小物が買えるわけでもありません。でも
「そう言った普通のデートはまた平和になってからお願いします」
私はそう笑います。私はこの戦いで死ぬ気もないですし、リュウトさんを死なせる気もありません。それは本当ですが、同時に私は一度死に別れているという達観もありますね。そして、もう一度二人でここにきて生き残る決意を固めたかったという面も
「少し歩きませんか?」
頷いてくれたリュウトさんと手をつなぎ、引っ張るような形で歩きだします。まだ幼かった私がここまでこれたということもあり、大人の足ならば十分ほど・・・今の私たちならば行く気になれば1秒もかからない場所にその神殿はありました
「まだ残っていたんですね」
この場所に足を踏み入れたのは何年振りなのでしょう。勿論、神殿などと言うものはそう簡単になくなるものではありませんが、それでもあれから相当な時が流れたはずです
「49代目竜神の神殿だからな、ここ」
ふふ、リュウトさんにとっては先人の神殿がそう簡単になくなるはずもないと言うところでしょうか? それとも、それだけ長き時を過ごした神殿にとっては私の人生なんて一瞬だと・・・そういう事でしょうか?
「それに妙な伝承もくっ付いてしまったみたいだしな」
「こ、これはちょっと恥ずかしいですね」
神殿前に置かれている碑文。それには私が行方不明になったこととその時に神殿奥の隠し部屋、それに壊れた石像が発見されたことが書かれています。壊れた石像と言うのは・・・49代目さんの魂が変化した石像のことなのでしょう
「それに・・・」
碑文の横にあるお墓。行方不明になった少女の母親はここで生涯を過ごした・・・つまりは
「ただいま帰ってきました・・・お母さん」
誰が悪かったわけでもない。ううん、きっとあの宝石に触ってしまった私が悪かったんでしょう。もう顔も声も覚えていない母だけど、あれからここでどんな思いで過ごしていたのかと思うと
「リュウトさん・・・」
そっと抱きしめてくれるリュウトさんの体温が、いえ心が温かい
「私、やっぱり酷い女です。母がここのどんな思いをしたのか、そう言う風に思ってもリュウトさんと出会えてよかったってそう思ってしまうのですから」
この体の母ではなくとも、ここに眠っている人はやっぱりお母さんです。でも、その母の犠牲なくして今の私の幸せはありえない。あの時はこの幸せを得るために絶対に通らないといけない通過儀礼です・・・あの時そのものも私にとっては不幸だとは思っていませんが
「だったら俺も酷い男だぞ? 娘がどうなったのか知らせることもなく、そうしてその娘を奪い取った男なんだからな。それに俺もククルちゃんに出会えてよかったと思う」
そう頭を撫でてくれる仕草は私と出会ったころ、最初の頃によくしてくれた仕草で
「お母さん、ごめんなさい。でも、私はこんなにも幸せになったんだよ」
遠い遠い昔のこと。人の寿命では何代分の時かももうあやふやになるほどに・・・けして聞こえているはずのない声かけに何故か
『あなたが幸せならばそれでいいのよ』
そんな声が聞こえた気がした
今回はククル編! 基本お腹の中真っ黒なククルちゃんですが
レーチェル「この辺の事情はかわいそうな子よね、この子は」
・・・その可哀そうなことになった黒幕の1人だったと思うのですが
レーチェル「私は宝石に力を込めただけよ? あの子を選んだのはルーンよ」
確かにそうですけど、ククルちゃんを今の種族に転生させたのも全部あなたじゃないですか
レーチェル「私なりの償いよ。きっとあの子は喜んでいるわ」
・・・数少ないレーチェルに敬意を払っている子だからなぁ。ってあの、その剣は?
レーチェル「誰が敬意を払われない女神かしら? そんなことを言う下僕は」
げ、下僕って・・・
レーチェル「お仕置きよ! ・・・さて、身の程をわきまえない下僕は成敗されたから今回はここまでよ。次回のリュウトくん視点も見に来ること、いいわね?」




