13部6章「最後のデート」17話 「好きな理由」
ひらりひらりと舞うピンクの花びら。常冬とまでは行かないが基本的に常時気温が低いエルファリアでは見かけない光景。それすなわち、大して変わらない位置にある孤児院で過ごした俺にとっても見慣れない光景だ・・・それなのにどうしてこうも懐かしさを覚えるのだろうな
「ひょっとしたら俺の故郷や竜の故郷・・・と言えなくもないジャムニー列島とかではこんな光景も見られたのかも知れないな」
美鬼が使っている大杯で飲むとあっという間に酔い潰れることが確定している俺は普通の杯で飲んでいるが、その小さな杯にもこの花は容赦なく入ってくる。それが邪魔にならないのがこの花の特徴なのかもな
「へへっ、リュウトにも喜んでもらえたんだったらここを選んだ価値があったな」
もっともそう笑う美鬼が一番綺麗なのだとそう言ったら彼女はきっとこの花よりも元々赤い顔をさらに赤くするのだろう。そう言う意味では俺に近いが、俺以上にこの手のことになれていない美鬼が愛おしいって奴だな
「ほらほら、リュウトが酒を持ってきたんだったらつまみもあるんだろ? もったいぶらずに出してくれよ」
俺が内心でこんなことを考えているなんて知る由もなく、そんなことを言っている美鬼に今朝から作ってきたつまみを渡す。もっとも俺はレーチェルみたいに転移なんて出来ないし、道具を格納できるようなスキルも無いからここに持って来ているものはそう多くはないが・・・帰って持って来てもそう時間はかからないんだけどな
「んん~、さっすがリュウトだぜ。俺、もうリュウトの飯がねぇと耐えられねぇかも」
「飯じゃなくてつまみじゃないのか? 美鬼の場合は」
元々そこまで食事を必要とする種族ではないというのもあるのだろうが、酒とつまみさえあれば他にはいらないって感じだったからな、美鬼は。それを普通に食事するようにするまで苦労・・・はあまりしていないか。数ヶ月何て言うのは俺たちの基準ではあっという間だ
「はっはっは、バレたか。いや、飯だって美味いし無くなるとこまるっていうのは嘘じゃねぇぞ?」
豪快な美鬼は嘘を嫌うからな。そこら辺は美鬼というよりも鬼族全体がそう言う傾向にあるんだが、とりあえず本命ではないにしろ次点にあげられるぐらいには好んでもらえているらしい
「・・・って俺が恋人やっているのは飯が食いてぇからじゃねぇぞ? 酒のつまみが目当てでもねぇからな!」
おっと、せっかく顔が赤くなるのを回避したはずなのに、自分で自爆する形で赤くなったみたいだ。いや、これもある意味俺のせいなのか?
「別にそのぐらいの打算があっても驚かないし、嫌でもないぞ?」
料理が美味いとか、単純に強いとか、優しくしてくれそうとか、経済的に豊かとか、見た目が好みとか・・・色んな人が色んな理由で人を好きになるだろう。勿論それは単独の理由だけでなくて複数が絡み合ったり、マイナス要素が引かれたりと複雑な計算の上に成り立っている感情なんだろう。けれど、こんな理由で人を好きになってはいけないなんて言う方がおかしいだろう? どれもその人間の魅力の一つなのだから
「俺はさ、美鬼の顔も体も好きだぞ?」
「お、おお・・・」
はは、ますます赤くなったな
「その強さも頼りになるし、豪快な性格も好きならば、初心ですぐ真っ赤になるところも好きだ」
「・・・お、俺を褒め殺そうとしているのか?」
「い~や、全部本音だぞ。もっと色々言ってやろうか?」
「も、もういい! これ以上言われたら本当に殺されちまう。死ぬんならさ、戦場でお前のために戦って死にてぇ」
「それは認めない。全員で生きて帰る・・・死ぬ覚悟で戦うのは良いが、死ぬつもりで戦うのは絶対に認めない」
それは俺の我が儘だろう。それでも俺は自分の仲間の死を容認できるほど大人ではない。自分の手の中に収まったものは手放したくない我が儘な子供なんだ
「っと、話を戻して・・・俺は色んな理由で美鬼が好きだ。その中の1つや2つが失われたからといって嫌いになるわけでも捨てるわけでもないが、こうしてくれるから・そう言う面を見せてくれるから、だから好きだって言うのが間違いだとは思わない」
例えば美鬼が大怪我をしてその美貌が失われても、その結果戦うことが出来なくなっても俺は変わらず美鬼のことが好きだろう。でも、きっとそれを守れなかった自分や奪ったものにに怒りも覚えるし、それを失ったことを残念にも思うのだろう
「リュウト・・・」
「だからさ、その美味い飯やつまみが作れるから好きだっていうのがあっても良いんだ。それはさ、美鬼が俺の利点として好きでいてくれる魅力の一つなんだろう?」
返事は初心な美鬼にしては積極的な、それでもやっぱり真っ赤な顔で押し倒しながらしてくれたキス1つ
と言うわけで美鬼編リュウト視点でした
アキ「人を好きな理由かぁ」
よく金で相手を見るのは最低とか言いますが、持っているものという意味ではその人の武器で魅力の1つだというのは変わりませんからね。魅力や能力の1つして好きな理由の1つになるのはまぁ当然でしょう・・・・それだけしか見ていないのならば相手からどう見られるかは別ですが
アキ「アイなんかはいっぱい食べさせてくれるリュウトっていうのも好きな理由だろうしね」
ですね。それだけというわけでは勿論無いですが、そういうのも理由の1つには上がるのでしょう。アイほど極端でなくても美味しいものを食べさせてくれる人っていうのを高ポイントにあげない人の方が少ないでしょうし
アキ「わ、私もリュウトの料理は好きだよ。勿論それだけじゃなくて他にも・・・」
おっと、アキが延々とリュウトの好きなところをあげていく機械になってしまったので、今回はここまでにしておきましょう。次回は誰が出てくるのかお楽しみに~




