13部6章「最後のデート」9話 「冷たい暖かさ」
ユキが元々暮らしていた山はエルファリアからまた北に登ったところ。緯度も高いが、それ以上に元々高台にあると言うこともあり気温はふもとの夏ですら15度を超えることはない場所だ。そう言う意味では雪女が生まれるにふさわしい山なんだろう。前にアイが登ったような異常な高さの山ではないが、それでも標高1万メートル程度はある山だしな
「このあたりに村があったんですよ」
とユキが案内をしながら懐かしげに語るその場所は高山植物に覆われた高原。家の一つさえも原形を残していないところにこの山の厳しさがわかるな。もっとも、そうなってもおかしくはない程度には昔の話ではあるのだが
「ここが・・・私の住んでいた家です」
家というよりは洞窟の祠と言うべき感じではあるがユキならばここでも暮らしていけるのだろうと思うだけの設備はある。まぁ、火を使うものが何もないから本当に雪女専用という感じではあるが
「そうか、だったら『お邪魔します』だな」
俺がそう言うとユキはきょとんとした顔で俺を見てそして微笑む
「いらっしゃいです。ふふ、初めてのお客様ですね」
雪深い山奥、確かに人が容易に入ってこれる場所ではないのは間違いない。だが、それでも麓に人が住んでいながらもユキが住んでいた16年の間に誰一人として客として彼女の元を訪れたものがいないという事実に胸を痛めつけられる
「臆病なだけだったんですよね、彼らも・・・私も」
俺の表情から何を考えているのか察したらしいユキがそんなことを言う。まったくユキにまでそんな感嘆に考えていることを読まれるなんてな
「何か俺に出来ることはあるか?」
過去は変えられない。特に自分独自の時間を持つ俺はいかなる手段を使っても過去に戻る手段がない。どうあがいても過去のユキを助けてやることは出来ないが
「もう十分にして貰っています。リュウトお兄ちゃんがこの家にいてくれる・・・それだけで」
今のユキならば救うことも出来る、そんなことを考えていた俺にこんなけなげなことを言う奴だ。本当に見習って欲しい奴がいっぱいいるな。誰とは言わないが、俺の姉を名乗っている幽霊とか
「ひゃっ!? リュウトお兄ちゃん!!?」
だからこそ彼女を力一杯抱きしめる。俺に出来るのはこのぐらいしかないと、そう思うから・・・勿論力一杯とは言っても彼女がいたくない程度に、だぞ?
「ごめんな、このぐらいしか出来ない情けない兄で」
「・・・そんなことないのです。お兄ちゃんとしても、その恋人とても最高なのですよ」
そうおずおずと俺の背中に手を回して俺の胸に顔を埋めるユキ。雪女である彼女の体温は低いからヒンヤリと冷たい感触。けれど、それ以上に彼女の顔、目のあたりから冷たい感触がするのはきっと彼女の涙なのだろう
「ごめんなさい。冷たいですよね? でも、もう少しだけ・・・」
「何を言っているのかわからないな。俺にはユキの暖かさしか感じないぞ」
ユキにだってそれが嘘だって言うことはわかっているだろう。いくら竜神が頑丈で少々のことではびくともしないとはいえ、寒暖を感じないというわけではない
「ありがとう・・・なのです」
そう言いながらひとしきり泣いたユキがすっきりとした顔で山から下りてエルファリアに俺と帰るのは翌日の朝だったりする・・・特に何かあったわけではないんだが、アキとリデアの追求は三日三晩続いたとだけ記録しておく
ちょっと短めな表のユキ、リュウト視点編でした
アキ「本当に、本当に何にもなかったんだよね!?」
あ、ありませんとも。まぁ、添い寝ぐらいはしていますが
アキ「うう、そこまではもう皆やっているし」
一応そういうことをするのはアキが最初、この章のラストと言うのは宣言どうりかわっていません
アキ「そ、そうだよね・・・えへへ」
さて、アキは幸せそうな顔をしていますが、リデアが乗り込んでくるのは時間の問題だと思われますので今回はここまで! 次回は当然彼女ですね! 是非そちらもお楽しみくださいね~




