13部6章「最後のデート」7話 「初恋は」
「風が気持ちいいわね。リュウト君は昔もこんなことをやっていたのかしら?」
木のてっぺんに腰をかけるようにして浮いている姉さんがそう俺に聞く
「あの頃はこんなに高くは上らなかったけどな」
姉さんの言う昔というのは俺が姉さんの目を盗んでママナと会っていたことだろう。もっとも、こんなことを聞かれるとおり姉さんには俺がやっていたことはお見通しだったようだが
「リュウト君にも自重と言う言葉はあったのね」
「いくら何でもそれはないんじゃないか? 俺だって無駄に危険なことをやっていたわけじゃない・・・まぁ、実際にあの時に自重していたのはママナの方だったんだろうけど」
俺はまだ小さかったからな。あの頃にこんな高いところまで上ろうとしたところで上れたのかは正直怪しい。その点、ママナは当時だって勿論羽はあったわけで、上ってくるのなんて簡単な話だっただろう
「リュウト君に自重なんて言葉を期待したお姉ちゃんが馬鹿だったわ」
事実であったにしてもそこであっさりと信用されて自分の言葉を取り下げられるのはそれはそれでショックなんだけどな
「姉さんはママナと同じことがしたかったのか?」
この森の中を夜にこうやって散歩する。それはあの当時に俺とママナがよくやっていたことだ。俺もママナも当時これをデートなんて言う認識はなかった・・・と思うのだが
「そうね、私もやりたいと思っていたわ・・・羨ましかったのかしらね?」
もうずっと昔の話、そんな過去を振り返るように姉さんが言う。ママナは昼間に普通に過ごせる姉さんが羨ましかったみたいだから似たもの同士だったのかも知れないが
「リュウト君のことは可愛い弟だって、そう思っていたわ」
可愛いに若干引っかかる物は感じるが、まぁ弟って言うのは姉にとってそう言うものなんだろうと一応納得する
「でも、リュウト君が夜に私にとっては面識がないに等しい女の子に会っているって言うのは凄くモヤモヤしたものを感じていたわ。その時は姉として見過ごしていられないんだろうとか、お姉ちゃんに黙ってそんなことをしているリュウト君が嫌だったのかとか思っていたわ。でもね・・・きっとあの頃から私はリュウト君が好きだったのよ。ふふ、リュウト君を好きになった女の子第1号は私かも知れないわ」
俺にとってはどうだったんだろう。姉さんは俺にとって絶対に守りたい大切な人だった。ああ、そうか
「姉さん」
「ん?」
「俺さ、昔は姉さんのことをかたくなに先生って呼んでいただろ?」
「そうね、そう呼ばれるたびにお仕置きしていたのに、全く変えようとしないんだものリュウト君は」
そう懐かしそうに姉さんは言う。姉さんがきっと先生と呼ばれたくなかったのはそこまで年の差はないって言いたかったんだろうけど俺にとっては
「姉だとさ、恋人には出来ないだろう? 普通は」
今は姉を自称する人を2人も恋人にして、それどころか実の妹1人を含む妹みたいの3人まで恋人にしている俺が何を言うという感じではあるが、少なくても当時の俺にとっては姉は恋愛対象ではなかったに違いない
「リュウト君・・・それって!」
「きっと、俺の初恋は姉さんだったんだろうな。だから、姉と呼びたくなかったんだよ」
俺が姉さんと呼べるようになったのは姉さんが死んだ後だ。俺の気づきもしなかった初恋が終わったからこそ姉さんと呼べるようになり、アキを好きになって・・・そして気がつかないうちに帰ってきた初恋まで手に入れていたなんてな
「私のこと・・・もう一度先生って呼んでみる?」
「いや、いいや。今はもう姉でも恋人だからな」
幽霊だから普段は少し青白い顔色がちょっとだけ赤く染まったのはきっと俺にとっては珍しい勝利だったのだろう。すぐに物理的に反撃されてギブアップする羽目になったのは姉さんはするいと思うが
「そんな嬉しいことを言ってくれて死んだら許さないわよ」
「姉さんこそ・・・はもう言えないが、消滅も成仏もさせないからな」
閻魔様、円ちゃんは怒るかも知れないが、姉さんは向こうには絶対に送ってやらない。そう決心が固くなった月の晩だった
今回のリュウト視点は何故昔はリュウトがマリアを先生と呼んでいたのかという話でした
ママナ「何て言うか今更な話?」
そ、そう言われても仕方がないぐらいには前の話になりますが
ママナ「ム~、私、出会った頃は普通にお姉ちゃんって言われていたよぉ」
恋愛対象ではなかったんでしょうね・・・種族違うし
ママナ「マリアだって! マリアだって今も昔もリュウトとは種族違うよぉ!」
正確に言うと同族って世界規模で見てもリデアしかいませんしね。まぁ、その当時は知らなかったわけで・・・と言うことで今回はここまでです。次回、マリアが指名するデート相手は誰になるのか? お楽しみに~




