13部6章「最後のデート」1話 「最後の最初」
「リュウト殿、少し話しませんか?」
そう皆の前で問いかけたあなたの顔が少しだけ曇ったのはきっと私の気持ちを察していたからでしょう
「ああ、いいぞ」
そう言って私の手を引いて自分の部屋に戻ったリュウト君を誰も止めなかった理由もきっと
「珍しいな」
部屋に入るなりそういったリュウト君の声にすら反応してしまうようではね
「こんなことを言う私は嫌かしら?」
普段のメイド調としての口調ではなくて、リュウト君とアキの前でだけする素のメイ=シルフォードとしての口調。私が私であれる数少ない場所
「いいや? そう言うメイも俺は好きだぞ」
お世辞とか慰めとかそういうことは少なくても恋愛方面にはけしてしないリュウト君の言葉に顔を熱くさせてしまうのは本当にらしくないと自分でも思い
「俺が珍しいと思うのはその緊張の方だ」
告げられた言葉にしまったと思う。きっと、そんな心の動きさえもリュウト君に読まれていると自覚しながら
「ポーカーフェイスには自信があったんだけど」
「確かにな。メイの感情は普段はわからないことが多い。ま、俺は相手がメイでなくても読み間違えることが多いが」
そうね、感づいて欲しい思いに中々気がついてもらえずにやきもきしたのは私やアキばかりではないわ。あんなにわかりやすい子ばかりなのにね
「リュウト君は戦闘だったら読み間違えないのにね」
「それを言われると何も言えないのだが」
そこを読み間違われると言葉どおりの意味で致命傷になるから、リュウト君が戦闘に関しては敏感なことに感謝するべきなのでしょう。けれど、ちょっとだけ感じる悔しさとやり返せたすっきり感を込めてその腕を少しつねる
「ってて、メイの力でつねられると俺だって痛いんだぞ」
「女の子を力自慢のように言う人はつねられても当然だわ」
それで喜ぶのは美鬼さんぐらいなものだと思って欲しいわ。それにきっと今つねった本意は半分も伝わっていないでしょうしね
「・・・それで少しは落ち着いたか?」
「本当、察して欲しくないところばっかりリュウト君は察してくれるわ」
こうやってリュウト君と穏やかな時間を過ごせるのはあとわずか。勿論、レオンとの戦いに負けるつもりも死ぬつもりもない。けれど、全員が生きて帰るというのは途方もない奇跡であることもわかっている
「・・・怖いか?」
「ええ、怖いわ」
正直に答えるわ。死ぬのが怖いって思ったのは最後がいつだったかわからない。そして、今だって死ぬの怖いわけではない。ただ、あなたとアキに会えなくなるかも知れないのがたまらなく怖い
「そうだな、俺も怖い」
怖い物知らずなんて思ったことはない。いいえ、本当は誰よりも臆病なのがリュウト君だってことは殆どの子が感づいているでしょうね。でも、こうやって言葉にして弱音を言ってくれることは少ないから、感じるほんの少しの優越感
「誰かを失うかも知れないことが?」
リュウト君の体が震えるのが手をつないでいる私にはわかる。年上の包容力なんて物が私にあるのかはわからないけど、少しでもその震えを抑えたくて私は彼を抱きしめる。まるでお互いの震えを分け合うように
「きっと、もうじき他の皆もこうやってリュウト君に会いに来るわ」
私たちの言うもうじきはけして今日のことではない。ここ数日どころか数年単位かも知れない。それは人ではない、遙かな時を生きる私たちの時間感覚ではあるけれど、その最初を切るのは私でないといけないと思ったわ。先に気がついた者の特権であり、同時にきっかけを作る義務でもある
「覚悟を決めないとな」
「みんな決まっているわよ」
戦う覚悟は出来ている。死ぬ覚悟も出来ている。私もリュウト君もそしてみんなも出来ていないのは失う覚悟だけ
「残るは失う覚悟か?」
「・・・あまり敏感に悟られるのも怖い物ね」
「ははっ、それは俺たちがいつもメイに感じている奴だぞ?」
失礼ね、私のはもう少しかわいげがあるわ。でも、今日ぐらいは心の内を読まれると言うのも良いかも知れない。もうじき・・・そう、もうじき私のだまし合いの最後の戦いが始まるのだから
と言うわけで最後のデート、トップバッターはメイです
メイ「私が怖いだなんて、リュウト殿も困ったものですね」
・・・たぶん、それは全員の共通認識だと思う
メイ「何か言いましたか?」
な、何でもありません! おわかりの方もいると思いますが次がリュウト視点となり、それが全員分+αとなりますのでこの章はそれなりに長いです
メイ「こういう話が書かれる最後ですから長いなりに楽しんでいってください」
作者として言うべき最後を取られたような・・・と、と言うわけで今回はこれでおしまいです。次回もよろしくお願いいたします




