13部5章「最後の日常」9話 「本日談笑日和」
「アーくん! 遊びに来たよ~」
能天気な声が響く。まったくどこまでも響くこの声が心地よく感じるのだからオレもだいぶ毒されたものだ
「ん~?」
そして、オレの前までやってきた能天気な天使は珍しく何かを考えこむようなしぐさをする。ろくなことを考えていないだろうが
「・・・なんだ?」
「アーくん、何かいいことあった?」
なるほど、直感だけは良い奴だったな。もっとも
「下らん。魔界の奥底でそのようなことがあるか」
「え~? わたし、アーくんに会いに来たよ?」
・・・楽しいことがあるから会いに来たというのか、それともこいつが合いに来たことが楽しいことだというのか、どちらにしてもそう外れていないのがこいつの恐ろしいところかもしれんな
「貴様は馬鹿か天才かわからん時がある」
「わたし、天才だよ?」
普段は圧倒的に馬鹿なのだがそれは言わんほうが良いのだろう。きっと、何処かで見ているあの女神が笑っているのだろう
「それぐらい開き直れたほうが良いのだろうな」
不思議なものだ。こんな会話などした記憶はない。だが、今はこれが自然と思える。ククッ、オレを変えたのがこいつかリュウトか、あるいは両方か
「アーくん、やっぱりいいことあったみたいだね。だって、アーくん今笑っているもん」
オレが? クククッ、なるほど確かに面白いものだ
「コーリンが向こうで茶と菓子を用意している」
「うん、じゃあ食べてくる!」
食い意地が張っているところは変わっていないか。最近はアイのやつがいるから影は薄くなったがな
「アシュラ様、ずいぶんと手痛いところを突かれたようですね」
「コーリンか・・・ふん、たわいもない戯言だろう」
と言葉を濁したところで付き合いももうずいぶんと長いこいつにはバレているのだろう。だが、嬉しそうに笑う姿が気に障ることはない
「アシュラ様を変えていただいたお二人に、いえ他の多くも含めて感謝いたします」
「以前のオレでは不服か?」
変わった自覚はある。だが、以前の自分を否定する気もない。そしてコーリンはそれを・・・
「滅相もございません。今も昔も私が使えるのはアシュラ様のみ。ですが、好ましい変化かと存じます」
変わったのはコーリンもまた同じかもしれんな。いや、誰もが変わっている。リュウトとて初めて会ったころのリュウトではすでにない。レミーは・・・あまり変わっていないやも知れんな
「ククッ・・・」
「どうなさりましたか?」
「何、他者にばかり変化をもたらしてその本質をほとんど変えておらんやつもいると思ってな」
「確かにそうかもそれませんね」
ぶれない完成された芯を持っているのは案外奴だったのやもな。それを強さと呼ぶのならば・・・オレらしくもない考えだ。だが、それもまた悪い気はしないがな
「これがあなたの計画どうりと言うところですか、レーチェルさん」
「あなたのでもあるでしょう? コーリンさん」
私の後ろに立っていたレーチェルさんに声をかけ、そして帰ってくる声。笑いあう声が重なる
「レーチェルさんといいメイさんといい、私の周りには怖い人が多いですから」
「いやねぇ、経験でそのあたりを補っているあなたも十分に怖い方よ」
「それは私を年増と言いたいのですか?」
少しだけ私の額には青筋が走っていたかもしれませんね。確かに私は肉体年齢で言えば最年長ですが、生きている年数でしたら私以上なんていくらでもいるのです
「うふふ、まぁ、女っていうのはそういう物よね。あなたもリュウト君を狙ってみるかしら?」
「ご勘弁ください。娘のライバルになる気はありません。それにレーチェルさんのもです」
楽しそうに笑っていますがレーチェルさんに敵対するなんて恐ろしいことはできません。それが出来るママナの思いが本当の愛なのでしょう。私もあの人のためにならば、それが出来たのでしょうか? あの時に1人逃げ出したこの私に
「やはり怖い人ですよ、レーチェルさん。私がそうですねなんて答えたらどうする気でした?」
「そうね、本気かどうかは確かめさせてもらったかしら? リュウト君のそばに本気でない女はいらないわ・・・ただでさえライバルが多いうえに有象無象が集まりそうな子なんだから」
欠点のない生物なんていないけれど、数多い欠点の中で一番の欠点はそれなのでしょうね
「私の娘は難儀な人に惚れたものですね」
「いいえ、男を見る目は最高だと思うわ。いい男にはいい女だって群がるわよ」
「それは群がらない私への皮肉でしょうか?」
そんな談笑で少しだけレーチェルさんとの距離が近づいた日?
恐ろしい会話と言うのはなにも脅しあう会話ばかりではないものです
コーリン「心温まる悪魔と女神の会話ではないですか」
その組み合わせの時点でなかなか異質ですけどね。怖い女神は今更ですが、悪魔の方もなかなかに怖かったという話でした
コーリン「これでも悪魔ですから。ですが、もっと怖い方もいますからね」
そりゃあ、幽霊もエルフも怖いですけど・・・なんで一番種族的に怖くなさそうなエルフが最も要注意なんでしょうね?
コーリン「その答えを私に聞く前に後ろをよく確認するべきでしょうね」
・・・こ、この流れは・・・?
コーリン「鞭が飛んでくる前に気絶とは新し芸を覚えましたね? どっちみちお部屋に連れていかれることには変わらないのですが・・・では、今回はここまでのようです。次回もまたお会いできることを楽しみにしております」




