13部5章「最後の日常」8話 「女神の来訪」
「・・・レーチェルか」
「さすがね、アシュラ君」
特別気配を隠してというわけではないにしろ転移で移動してくる私を即座に見抜くのは難しい。リュウト君だって存在の剣のサポートを借りなければ無理だろうことを平気でやるこの悪魔がいかに規格外な存在なのかがわかるわ
「何しに来た? 貴様が何の用もなしに来るなどありえまい?」
「あら? 私が遊びに来ちゃいけないかしら?」
ふふ、そう睨まないで頂戴。そうね、確かに女神である私が魔界の下層に当たるここに来るのは好ましいことではないわ。どっちにとってもね
「レーチェルさん、わかっておしゃっているでしょう?」
アシュラ君が難しい顔をしているのを見かねてかコーリンちゃんが口を出してきたわね
「ええ、勿論。でも今の天界はいろいろ大混乱中よ。神の高々1人が魔界に遊びに行ったってかまっていられる状況じゃないわ」
「あなたは高々1柱ではないと思いますが・・・それに魔界も高位の神がやってきたとなれば、それなりに騒ぎになりまして」
あらあら、成り上がり物で混ざりものの神がいつの間にかずいぶんと偉くなったものね。確かに魔界が少し騒ぐのは間違いないでしょうけど、仮にもトップに今いるのがオルクランとここにいるアシュラ君でしょう? 大丈夫よ
「そっちは私が気にすることではないわね。ま、でも少しだけ用があったのも事実よ」
「用・・・ですか?」
「ええ、少しお酒をもらっていこうかと・・・ね」
コーリンちゃんが完全に肩透かしを食らったみたいな形になっているけど
「これからはレミーを派遣するからよろしくお願いするわ」
「・・・そういうことですか。レーチェルさんもなかなかお節介なようで」
「さぁ、なんのことかしら? 私はアシュラ君が秘蔵するお酒が飲みたくなっただけよ」
パチリとしたウィンクにコーリンちゃんは納得顔をし、わかっているだろうにアシュラ君は渋い顔をするわね
「これであの馬鹿天使がここに来る頻度が高くなるというわけか」
「そういうことよ、うちの馬鹿天使をよろしくお願いするわ、優しい悪魔くん」
あの子はね、私にとってはどんなに返しても返しきれない恩人が残した忘れ形見なのよ。同時に私にとっても自分の子のように思っている・・・幸せになってもらいたいわ。大きな戦いがこれから待っているこんな時であっても
「変わったな」
「お互い様でしょう?」
昔の私だったらこんなことまでする余裕はなかった。今でも本当はないけど、自分が問答無用で操られるということは無くなったという最低限の余裕は生まれたというべきかしら? そしてアシュラ君だって昔だったら魔界にやってきた天使を迎えるなんてしなかったでしょう? 向かい討つならばやったでしょうけど
「・・・そのお馬鹿がやってきたみたいだから私は帰らせてもらうわ。お酒は勝手に持っていくわね~」
「まったくにぎやかなことだ」
アシュラ様はそう苦笑しますが、レーチェルさんが言っていたようにここで怒るでもなく笑うのは確かにアシュラ様が変わった証拠でしょう。昔からお優しい方ではありましたが、さらにお優しくなられてた? いえ、優しさを向ける対象が広がったというべきでしょう。私には良き変化だと思えます
「にぎやかはお嫌いですか、アシュラ様」
「・・・ふん、下らんことだ」
アシュラ様が言葉を濁すときは肯定だということは私とてわかっています。まだレミーさんに説明してあげるつもりはありませんけどね
「そういう貴様こそうれしそうではないか」
「はい、そう見ていただければさらに嬉しく思います」
不機嫌そうに普段は立てない足音を立ててアシュラ様は去っていきますが、その去っていく方向がレミーさんのところですからね
「アシュラ様、私は最後の時まであなたと共に・・・その最後をレオンとやらに迎えさせられるつもりはございませんが」
さて、私はレミーさんのためにクッキーでも焼いてくることにいたしましょう
アシュラとレミー・・・二人の間にはコーリンとコクトが出入りしていましたが、ついに保護者まで出てきた模様
レーチェル「保護者、誰のことかしら?」
・・・あなた以外の誰がいるというのです
レーチェル「リュウト君も保護者でしょう?」
リュウトは兄もどきですからね? リュウトが妹認定しているのはレミーばかりではありませんが
レーチェル「本物の妹が拗ねているけどねぇ。あの子の寂しがり屋が昔からだけど」
・・・レーチェルの言う昔は前世のことだからなぁ。本当にご老人の言う昔はピギャ!?
レーチェル「誰が年寄りよ! 私はこの通りまだまだまだ若い女神なんだから! 作者君はまたしても精神が遊びに行ったみたいだから今回はお開きよ。次回はアシュラ君とレミーのお話を楽しんでちょうだい。じゃあね」




