13部5章「最後の日常」5話 「鬼たちの酒盛り」
「ん? ずいぶんと珍しい奴がいるじゃねぇか」
「言うてくれるのぉ。これでもお主を探しに来たのじゃがな」
俺が見つけたのはカーミラだ。これが夕暮れ時ならば珍しくはねぇが真昼間に用もなく出歩いているやつでもない。俺を探していたとか言ってやがったか?
「戦か」
「それは放っておいても特大のがもうじき訪れよう? むやみに求めるでないわ」
ちっ、そっちはそっちで楽しみだが、俺としてはここらでもう一つぐれぇ戦いがあってもいいと思うんだがなぁ
「今日の用はこっちじゃ。これもお主も好きであろう?」
そう言いながらカーミラが取り出したのは・・・ああ、酒か!?
「そういうお誘いならばいつでも歓迎だぜ」
「まったく現金じゃのぅ。王よりこれが送られてきたのじゃが、一人で飲むのも味気なかったのじゃ」
そうだな、俺も昔は一人で飲んでいたもんだが、ここにきて過ごしていると飲むならば一人じゃねぇほうが良い
「わからなくはねぇが、どうせ飲むんならばあいつは誘わねぇのか?」
「我が君を誘うのならばお主は誘わんのじゃ。我が君はどうも今は忙しそうでのぅ」
違いねぇ。俺だってリュウトのやつを誘えるのならば他の奴なんて誘わねぇ。さしで飲める機会なんてそうはねぇからな。お、俺だって恋人の一人・・・なんだしよ
「その点お主ならば我が君がかかわっていなければ、少々の用事よりもこっちを選ぶじゃろ?」
「当然だな」
酒を持ってきてくれる奴は全員友だ。まして元より仲間だったら断る理由はねぇ。盃を差し出すとカーミラは黙ってそこに酒を並々と次ぐ
「ここにいる連中は酒好きが多いが気楽に飲める者は少ないのでのぅ」
「メイのやつだったら喜んできそうだぜ?」
「お主は我に死ねと言うのかの?」
それも違いねぇな。しかし限りなく不死に近いバンパイアにも酒の強さに定評がある鬼にも一緒に飲むことは死を意味すると認識される奴はあいつしかいねぇだろうぜ
「リュウトも何度か危険な目にあっているんだろ?」
「我が君は元々あまり酒は強くないからのぅ。それなのにメイにも弱いときておるのじゃ」
お互いに笑いあうが、リュウトが弱いのはメイではなくて仲間全般だろうぜ? あいつが仲間に何かを言われたら可能な限りかなえようとするからな
「リュウトも命知らずなところがありやがるからな。さすがにメイと付き合うのが命取りだってことは分かっているだろうに、何でも聞きすぎだぜ」
「わかっていて断れんから我が君なのじゃ。じゃが何でもっていうわけでもないのぅ」
ほう? あのリュウトが断る願いがあるねぇ。リュウトが断るってことも驚きだが、リュウトすらも断ることを頼んだカーミラも驚きだな
「何を頼んだんだよ」
「そう難しいことではないのじゃがのぅ。子を作らせてもらえぬかと頼んだんだが」
口に含んでいた酒を吹き出す。ふ、ふざけんじゃねぇ!?
「何じゃ? 汚いのぅ」
「き、汚ぇじゃねぇよ! そんなもん断って当然だ! 優しさに付け込んでもらうもんじゃねぇだろうが!」
「羨ましいのならばお主も頼んでみればいいじゃろう」
そうカーミラは笑いやがるが、こいつが頼んでダメだったのならば俺が頼んで了解してもらえるわけねぇだろうが。い、いや、了解がもらえるんだったら頼みてぇってわけじゃねぇぞ
「こっちに関しては初心よのぅ」
「言葉は余裕そうでも顔は真っ赤になっているてめぇに言われたくねぇぜ。お前は普段青白いからすぐにわかるぜ」
何とも言えねぇ空気にお互いに黙り込む。リュウトのやつはやっぱり
「言っておくがの。我をないがしろにしているわけでもお主をないがしろにしているわけでもないのじゃぞ」
「ああ、あいつは全員を平等にしたがるからな。その中で唯一飛びぬけているのが」
「「アキ(じゃの)」」
まぁ、本当に恋人って断言できるのはアキなんだろうな。そうとわかってもリュウトから離れられないのが俺たちなんだが
「お互い難儀なものじゃの」
「違いねぇ」
ま、本当にそれが嫌だったらとっくに離れているだろうさ。誰一人離れようとしないその今が答えだってことはわかる
「だが、それも次の戦いに勝たねぇとな」
「珍しいこともあるものじゃの。鬼にとって勝敗は二の次じゃと思ったが」
そうだな、俺は初めて戦いに勝ちを求めているのかもしれねぇ。いや、リュウトと出会ってからの戦いは今から思えばそんな戦いばっかりだったな。俺一人だけならば負けるも死ぬの俺の自由だ。楽しい戦いの結果が死ならばそれはそれでいい。死ねるほどの戦いならば楽しいに決まっているからな。だが
「考えねぇようにしているんだがな。それを考えちまったら・・・怖くなっちまう」
ちっ、俺は何を言ってやがるんだ
「・・・ふむ、少し場所を変えて飲まぬか?」
どうやら俺たちの酒盛りはまだ終われねぇらしい
と言うわけで鬼2人の会話でした
カーミラ「この作品ではあまり言われぬが我は吸血『鬼』じゃからのぅ」
いわゆる日本的な鬼とは全くの別種族ですけどね。それを言ったら日本の鬼だって本来の鬼とは違うわけですが
カーミラ「そなたらの世界から見ればここは異世界じゃからのぅ。そういう点にこだわっても仕方あるまい」
そういうことです。と言うことで大胆な発言をしても意外と初心なカーミラさん? いったいどんな顔をしてリュウトに頼んだので?
「そ、そんなことは言えるはずなかろう!? お主、他で言いふらそうものならば」
言いふらすの前にすでに作品として公表されて・・・
カーミラ「ふむ、珍しい遺言じゃったの。作者が物言わぬ身となった故に今回はここまでじゃ。さて、我は今回の話を見たものに会いに行かねばの・・・では、後程会おうぞ」




