13部2章「天界でのひと騒動」2話 「蝶のように?」
「先に言っておくけど、別にレミーに勉強を教えろって話じゃないわ」
俺たちの表情から何かを察したらしいレーチェルのこんな一言で全員の表情が少し柔らかくなる。まぁ、それもそうか。レミーに合格できるだけの知識を与えるってレオンを倒すよりも勝算がない
「で、レミーの場合は魂が二つあって、体も二つとまではいかないけど1.5人分ぐらいは実質的に持っているような状態だったから今まで耐えてこれた。でも、もう限界なのよ」
レミーの体をその力に適用させるためには階級を上げるしかない。だが、その手段は実質封じられているようなものだ。そもそも、この繭は何なんだ? ・・・ん? 繭? まさか、これ
「おそらくもう気が付いた人もいるでしょうけど、あれはまさに繭なのよ。芋虫が蝶へと変わるように体を変化させているの。まぁ、見た目の変化はそれほどではないでしょうけど、身動きのできない変化の時間を自分を守るための盾なのよ・・・勿論、本人が意識してのことではないけどね」
レミーの見た目がどんなに変わっても俺は気にする気はないが、本人は気にするだろうし変わらないというのは良いことだと思う。だが、それ以上に気になるのは
「蝶と同じと言うのならばリデアがこんなに焦る必要も俺たちを呼ぶ理由もないだろう? レーチェルとコクトがいるここで安全に変態出来ない理由はないだろう」
そりゃレオンが攻めてきたというのならば話は別だが、あいつは絶対にそんな真似はしない。となるとレーチェルがここにいる以上は素直にレミーが出てくるのを待てばいいだけのはずだ。それをしないということは何か問題があるということだろう
「ええ、さっきも言ったけど、普通はこんなことは起こりえないイレギュラーなの。はっきり言うと変化しようとしている現象そのものに普通は体が耐えられないわ」
「・・・はっきり言いなさいよ、レーチェル。成功確率は? 1%とか0.1%なんて生易しいものじゃないでしょうが」
それは生易しいのか? と言う気もしたが、今まで俺たちが渡ってきた綱渡りに比べれば随分とマシなようにも思える。いや、この確率がましだと思えるあたり、だいぶ毒されていると思うのも事実だが
「そうね、大甘に見積もって百兆分の一というところかしら? そして、この場合失敗はそのまま死よ」
「そうでしょう!? だから早く繭から出すのよ! あれから出しさえすれば変化は止まるんだから!」
なるほど、リデアが焦った理由はよくわかった。これぐらい焦るほどにリデアがレミーを大切に思っていることには嬉しく思うが、わからないことが一つある
「なぁ、何のために俺たちを呼んだんだ? 出すにしろ見守るにしろ俺たちはいらないはずだ」
最後になるかもしれないから合わせておこうなんて言う後ろ向きなことを考えるタイプじゃない。そして、どっちにするかの相談でもない。今までの話からするとレーチェルは出さないという方向で意思を固めている。ならばきっと、確率を上げる何かがあると思うのだが
「ええ、出す気はないし見守るだけならあなたたちを呼ばないわ。だいたい、出したところでレミーの体が限界なのは変わりないの。力を封印すれば生きていくことは出来るけど、あなたたちだってレミーの力抜きでレオンに勝てるなんて甘いことは考えていないでしょう」
普通であれば封印した状態で試験を合格させて・・・というのが正道なんだろうが、レミーにはそれは正直見込めない。そしてレーチェルが新たに加わったとはいえ、レミーと言う回復の使い手がいなくなることの穴は想像以上に大きい
「で、ここからが本題。レミーが助かる確率を上げつつも、本来よりも強くすることが出来る。そんな方法があるとしたら?」
「あんた、それって・・・」
リデアが何かを言おうとしたがレーチェルの睨みによって口を閉ざす。まぁ、そんな反応をするってことは何だろうが
「これは間違いなく賭けよ。でも、多くの人が協力してくれるほどに、その人が強い力を持つほどに成功率も強化率も上がる。そうね、私の見立てでは私の神殿にいる天使とあなたたちの力ならば八割は大丈夫だと見ているわ」
美鬼やユキなどはその数字にほっとしているようだが、多くの者は表面上安心したように見せて警戒を怠っていない。だが、それでも彼女がやると決め、協力を求めているのならば
「わかった。で、結局俺たちは何をすればいいんだ?」
光明が見えたのか見えないのかなんとも微妙なレミー騒動
アキ「でも、これって要するにレミーの強化イベントなんだよね?」
・・・また身もふたもないことを
アキ「そりゃ危険があることはわかっているけど、リュウトのため・・・レミーだったらアシュラのためかな? その、あ、愛する人のために命を懸けるのは怖くなんかないんだよ」
実際にそこまで強い愛はそうそうないと思いますが、うちの連中の愛はみんなそう言う愛ですからねぇ
アキ「じゃないと負けちゃうもの、いろいろな意味で」
あははは、争奪戦が激しいのも影響しているのかもしれませんね。と言ったところで今回はお開きです。次回もまたよろしくお願いいたします




