13部1章「エルファリアの日常・終」3話 「そして別れ」
出会いがあれば別れもある。それは当然の話なのだが、この別れは一時の別れじゃない。久方ぶりの永遠の別れというやつだ
俺にも時々物を教えてくれていたエルファリアの長老。確かに年齢的には何時こうなってもおかしくはない歳だった。だが、今朝早く亡くなっているのが見つかったと報告を受けた時、しばらくおれは何も考えることが出来なかったほどだ
「これから先もこうやって俺は置いて行かれるんだろうな」
そりゃ、次の戦いに俺が負けたらむしろ俺が一足先に逝くことになるわけなんだが、負けるつもりがない以上はそんな仮定に意味はない。俺がこちら側に巻き込んでしまった仲間が何人かいるから一人になるということもないのだろうが、俺がこれからもこうして多くの別れを繰り返さないといけないことにも変わらない
「そうね、でも、私たちはあなたのそばにずっといるわよ、リュウトくん」
そっと俺の手を取りほほ笑むのは姉さんだ。姉さんは確かにいつだって俺のそばに居てくれた。だからこそ、失った時にあれだけ悲しかった・・・まさか幽霊になってまで俺のそばに居てくれるとは思わなかったが
「ねぇ、あなたに一番最初に失う辛さを与えてしまった私が言う資格なんてないのはわかっているけど、これだけは言わせてほしいの」
幽霊特有の半透明の体でありながら強い意志と僅かに覗く悲しみを感じさせる眼で姉さんは俺を見る。俺に何かを言うのに資格なんて必要あるもんかと言いたいところだったが気迫に押される形で頷くだけにとどめてしまった
「リュウトくんが失うことを辛いと思うように私たちも失うことを辛いって思うし恐れてもいるの。今までだったらもう無茶はしないでって言うところだけど、それはもう言えないわ。だって、次の戦いが無茶なくして勝てる相手だなんて誰も思っていないから。だから約束して? どんな姿になってもいい。二度と戦えない状態でも体を動かすことさえも二度とできなくなったとしても必ず生きて私たちの元に帰ってきて」
俺の手を握っていた姉さんの手がフルフルと震える。姉さんも怖いのだろう。いや、恐らくは
「誰でもね、大切な人に居なくなられる想像は何よりも恐ろしいのよ。それが現実味があればあるほどに・・・特に私はかな? みんなを守りたいと思う。誰一人として見殺しに出来る子はいない。でも、わたしにはみんなを守るだけの力はないの。だから私の命はもうないけど、魂でみんなを救えるのならばそうしてしまいたい気持ちも痛いほどわかる」
ああ、もしも俺の命と引き換えに皆が助かる道があるならば、それを選んでしまうだろうと思う俺がいる。そしてそれが体の良い逃げであるということも
「でも、その道は誰も幸せになれない。勿論、リュウトくんを、私たちを知らない人は世界が救われて幸せになるかもしれない。でも私たちは誰も幸せになれないのよ。私はみんなを救いたい、みんなのお姉ちゃん。だけど仲間のみんなが一番優先だし、その中でもあなたが最優先なの。誰かを犠牲にしてまでもとは言わない。でも何があっても生きて帰るって、生きることを諦めないって私に約束して・・・お願い」
幽霊の姉さんからポロポロと涙がこぼれる。俺が死ぬかもしれないという想像は姉さんの心をいつも締め付けていたのだろう。俺が・・・姉さんの死を忘れたことがないように
「ああ、約束する。俺が帰ってくる場所は他のどこでもない。みんなのところなのだから」
強く、強くそう思う。どんなに強く思っても死ぬときは死ぬのが戦場だし、姉さんの言うとおりに俺には仲間を犠牲にしてまでも生き延びる選択は取れない。それが逃げているだけだとわかっていても俺にそれに立ち向かう勇気は生涯生まれないだろうと思う。出来るとしたらレーチェルとメイあたりだろうか? 彼女たちならば状況次第では誰かを犠牲に最小限の被害にしようとするかもしれない。それによって起きる罪の意識は全て自分が背負う形で・・・俺には到底できない強さだ。だが、そんな俺でも死ぬ気はないと宣言することだけならばできる。それで少しでも姉さんが安心できるのならば
「ええ、お願い。それだけで、その言葉だけで私は・・・私たちは戦えるから」
ここでは死ねないと思った事はある。だが、それが何があっても死ぬわけにはいかないに変わった気がする
生きている以上はこの手の別れは必然的にやってきます。そしてその必然が取れている数少ない存在なのに進んで死に向かおうとするリュウトへのマリアの思い
アイ「それは良いと思うし、ボクたちだって同じような思いは持っているよ? でも、なんかリュウトのフラグ、益々増強されていない?」
増強されてますねぇ。これで生きて帰ってこれるんだろうか、リュウト
アイ「レオンと相打ちで終わって世界は平和になりましたとかだったらボク怒るよ?」
ま、まぁ、そこらへんはネタバレになりますから・・・ね?
アイ「う~、これ見てる皆も作者のことよ~く見張っていてよ? ここまで来てアンハッピーエンドなんてボクは認めない!」
あ、アイの咆哮はともかくとしてどうなるかは楽しみになさってください。では今回はこの辺で・・・次回もよろしくお願い致します




