12部11章「突撃! 決戦の場はネフェーシア城!」19話 「決戦の始まり」
数えたわけではないが階段を上がること百段ほど、外から見ても異質だった巨大なドーム状の建物は中に入ればさらに異質さが極まっていた
「空気が重いな」
勿論、物理的な意味ではない。そこには何もなかった。ただ外から見た巨大さよりもさらに大きな空間が果てしなく続く漆黒の空間だ。それが故にどっかりと床に座り込む白銀の騎士鎧の人物は目立つ
「レオン=ワールド」
「よぉ、竜神。久しぶりと言うほどでもねぇが、益々強くなったようだな。俺様に殺される覚悟はできたか? それとも俺様を殺してくれるのか?」
こいつの人格が安定しないのはいまさら気にすることじゃない。これが分体だからなのか本体もそうなのかはわからないが、いやな笑みを浮かべるレオンが間違いなく勝っても負けても良いと思っているのは事実のようだ
「殺して見せるさ、俺達が」
ここに来て命を奪うことに嫌悪感があるわけじゃない。だが、相手がそれでもいいと思っているあたりに既に敗北感がある
「余計なことを考えるな、リュウト。今はただこの戦いを楽しむのみ!」
「そう言うことだぜ。勝ったも負けたも関係ねぇ。今のこの場に俺たち全員で戦うだけの面白れぇ奴がいて、面白れぇ戦いがここにある! それだけで十分だろうが」
そう言って前に出るアシュラと美鬼。この二人の場合は鼓舞でもなんでもなく本気でそう思っているからな。まぁ、そこが頼もしいのだが
「そうだな、あれこれ考えるのは俺の悪い癖だ。いま考えなければいけないこともしなければいけないことも初めから一つだった」
レオンを倒して全員で生きて帰る。ただ、それだけを考えていればいい。とっくに立ち上がっているレオンだが隙を逃したとは思わない。その程度の隙でどうにかなるような奴ならばここまで警戒などしていない。お互いに睨み合うのは攻撃するチャンスを探してのこと。もっともレオンはかかって来いとばかりの体勢ではあるのだが
「はっ! こういう時に真っ先に手を出すのは俺の役目だろう!」
美鬼がその金棒を力強く叩きつける。並の存在どころか今まで戦ってきた旧神すらも大抵の相手は一撃の下で叩き潰せるレベルの攻撃なのだが、レオンは笑ってそれを受け止めて美鬼の腹を殴りつける
「ってぇ! ははっ、こうじゃなくちゃ面白く面白くねぇよな」
ただ殴り飛ばされただけではなくその周囲が吹き飛んで穴が開いているほどの重傷だが、美鬼は楽し気に笑う。もっとも、そんな美鬼の元にすぐにレミーが駆け寄っていったが
「最後のゲームに出し惜しみしちゃつまらねぇよなぁ?」
美鬼自身は手加減していたわけではないだろうが、確かに俺たちの全力ではなかったな。レオンの言うように最後のゲームだからと言うわけではないが、手加減している余裕など微塵もないのは確か。ならば、結局やることはいつもと同じだろう。そう、存在の剣の能力解放による全体の強化だ。あとは俺が持つかどうかだけ
「リュム、行くぞ。最初から手加減なしのフルパワーだ。俺が死ぬか決着がつくまでは緩めるなよ」
「・・・仕方あるまい。やはり最初に自分を犠牲にしようとするのは主ではないか」
・・・それはここに来る前の宣言の話か? いや、別に犠牲になろうとしているわけじゃないぞ!? ただ勝つための手段として俺に負担のかかる方法をとっているだけで・・・
「皆様! この戦いは短期決戦しかありません! 攻めきれなければ負けるのは私たちです!」
「守りはコクト君、回復は私とレミーに任せておきなさい! あとは全員で攻めまくるのよ!」
メイとレーチェルが叫ぶ。答えるようにアキとリデアの火球と氷の矢が乱れ飛ぶ。ふだん喧嘩ばかりしていても、こういうときには抜群のコンビネーションを見せてくれるのが彼女たちだ。俺も負けてられないな!
「マルトの力か!? 面白い、使いこなして見せろ!」
「使いこなせているとは思えないが・・・早々負けてやる気はない!」
ドラゴニック・キーで第三の扉まで開けて斬りかかる。当然ながらただでさえ短い戦闘継続時間が益々短くなったわけなんだが、そんなことを気にしている余裕はない。すでに全力で戦うことは前提条件に過ぎない
「っ!?」
「サポートはお姉ちゃんに任せなさい!」
それでも剣技で及ばず、弾き飛ばされた俺を姉さんが風で支える。というよりも押し戻す。それは流石に虚と隙を付く形になったようで初めてまともに打撃が入る。それほど効いているようには見えないが、全くの無傷でもない
「そうだ、最後だろうとなんだろうとなにも変わらない。俺たちはいつもどうり全員で勝てば良い!」
一人では負けていた戦いなど数多くある。ならば、一人では絶対に勝てないレオンだろうとみんなと一緒ならば勝てるさ! そうだろう? みんな
ついにレオンとの決戦! と言ってもあくまでも分体ですが、けして一筋縄でいく相手ではありません
美鬼「わかってねぇなぁ。だから面白ぇんだろうが」
毎度ながら楽しんでいるのは美鬼とアシュラぐらいなものですからね
美鬼「そこだけはもったいない連中だと思っている」
・・・いやいやいや! 今なんか、楽しめない方がおかしい的なニュアンスが!?
美鬼「あ゛? ニュアンスもなにもその通りだろうが?」
ああ、ここにも自分の異常性がわかっていないのが一人いた。いや鬼ならば普通なのか? と、とにかく今回はここまでにいたしましょう! では次回もまた宜しくお願い致します




