12部11章「突撃! 決戦の場はネフェーシア城!」9話 「英雄」
謁見の間、普通に考えればそこにレオンがいるのでしょう。でも、きっと我が君もそこにレオンはいないと思っている。なぜならばレオンがそこにいるならば、そこにたどり着くまでの道筋が簡単すぎる。それに私にとってはもう一つ
「我が君、次は我に行かせてもらえぬかのぅ」
「カーミラがそんなことを言うのは珍しいな。いや、前にもあったな。あの時と同じか?」
我が君の問いに私は頷きで返す。この先に私の同族、バンパイアがいる。そしてそれは私が知っている存在である確率が高い
「ようこそ、反逆者の諸君」
どっかりと玉座に座り足を組みながらワインを飲んでいたその目が私たちの方を向く。そして、その目は私で止まり
「そなたがエミリアを打ち負かしたバンパイアか」
「お初にお目にかかる。ファルト王が孫、カーミラ=エルプレストじゃ・・・かつてのバンパイアの英雄、ルスヴン=ファルバトスよ」
クククッとまるでアシュラを思わせるような笑いをルスヴンはする。以前に我が君に言ったように私はこのルスヴンと面識はない。けれど、その話だけはよく知っている
「なるほど、ファルトは我のことを話していたか」
目をつぶり少しばかり感慨深げにするその様子はお祖父様から聞いていた通りの性格に見える。ならば、性格は残したうえで操られている?
「我が友ファルトの孫よ。我にとっても愛し子ではあるが、レオン様に逆らうというのならばその魂レオン様にささげてくれようぞ!」
私が同じバンパイアだから感じているのかもしれないが、圧倒的と言う言葉がこれほど似合う存在がいるとは思えない膨大な魔力。はるかな昔、バンパイアと言う種が誕生した頃には上下関係などなかったという。それが数が増えるにしたがってまとめるものが必要となり、王として推挙されたのが私のお祖父様であり現在も王をやっているファルト。そしてもう一人がこの目の前にいるルスヴンだ。ただしお祖父様がその性格と統治力を評価されての推挙だったのに対して、ルスヴンは純粋な武力でもって推挙されている。お祖父様の話では『我に王は似合わぬ。力は平和を脅かす存在にぶつけてこその力だろう』と言い残してどこかに消えたという話だけど、恐らくはレオンに勝負を挑んで負けたのでしょう・・・つまり私はこれから力においてはバンパイア最強、いまだに武神と崇められる存在と戦うことになる
「祖父に代わってあなたを開放して見せるのじゃ!」
けれど、だからと言って臆するわけにはいかない。レーチェルのようにはいかなくても私はお祖父様の親友だったという彼を救いたい。それ以上に我が君の仲間として敗北は許されない
「立つまで待てなどと無粋なことは言うまい?」
どっかりと玉座に座っている今こそがチャンスと私は突進して殴りかかる。その結果として玉座は跡形もなく吹き飛んだがルスヴンは
「無論、言わぬ。だが、少しばかり遅すぎるな」
霧化、私も得意としているその技は精度の差こそあれバンパイアならば誰でも使える。そんな私から見てもルスヴンの霧化の速度は驚くほど速い。私の背後で解除された霧化に反応してワタシも同様に霧化で避けようとするが
「ぐ、ぐっ!」
「ほう? なかなか霧化の精度が良いではないか? ファルトはどちらかと言うと苦手な部類だったはずだが」
自分はうまく見せてやれないが霧化の精度は上げておけと言ったのはお祖父様だった。きっと、全てはこの時のため。お祖父様はわかっていたんでしょう。自分の前から消えた親友が誰と戦い、そしてどうなったのかを・・・だから私にその対策を教え込んだ。彼が私の前に敵として現れた時のために!
「我だけ痛いのでは割に合わぬのじゃ!」
エミリアがそうだったようにバンパイア同士ならば霧化していても通常時ほどではないにしてもダメージは与えられる。さっきの私の攻撃も多少は効いているはずなんだけど、それ以上に背後からほぼ完全に決まった拳の方がダメージは間違いなく大きい。だから
「なるほど。確かエミリアはその方法で敗れたのだったな」
自分自身の霧状態を炎に変える。高い霧化の精度とバンパイア族では珍しい火属性を持つ私だからこそできる技
「だが、その程度では我を滅するには温い」
全身火だるまになったルスヴンの体を今度は闇が包む。そして闇が晴れた時には大してダメージを受けているようには見えないルスヴンは不敵な笑みをこぼしていた。そうか、エミリアがあの時にやろうとしたのもこれと同じなのね。元はルスヴンの技だったのね
「当然じゃろう? 不意打ちの一撃で滅するようなものが我らが英雄ではたまらぬのじゃ」
不利なのは私。実力も技術も経験だって遥かに劣っているでしょう。でも、レーチェルの操られている時と今の強さの違いを見れば・・・同じように彼も私に殺してほしいと思っているのならば
「我が君ならばこういうのぅ。負けられない、逃げられない、ならば勝つしかないと」
例えここで再起不能になろうとも必ずルスヴンは私が倒す。そう決心して私は笑うのだった
今回の話はカーミラの話。謁見の間にいたのはある種カーミラの宿敵でした
カーミラ「我は会ったことがなかったのじゃがの」
まぁそうなんですけどね。この部の第3章でエミリアやその主の話が出てきますので、お忘れの方はそこらへんを探してみてください
カーミラ「お祖父様や長老はレオンのことを知っているようじゃったしのぅ」
そして当然ながらにルスヴンもレオンを知っていたからこその今に至るわけです。一番ではなかったにしろ強かったファルトの血統の中から生まれてきたバンパイアの弱点である火属性の子、この時から対ルスヴン要員として育てられていたんですね
カーミラ「ここまでは全て掌の上。じゃが、我は踊らされるだけの人形になる気はないのじゃ」
と言ったところで今回はここまでです。次回はカーミラとルスヴンの戦いの続き・・・どうかお楽しみください




