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竜神伝説~リュウト=アルブレス冒険記~  作者: KAZ
10部11章~ラストまで
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12部10章「決戦を前に」11話 「その胸の内」

「随分と久しぶりね、子猫ちゃん」


 そこは都市エルファリアから少し離れた迷いの森の中ほどにある墓。けして立派なものではないけど、しっかりと名前の刻まれたその墓が誰かに発見されないようにって言う意味もあったのかもしれないわね。確かに自分が住む都市の近くに名前以外何もわからない墓があったら不安にも思うでしょう


「ルーン、あんたはついこの間会ったんじゃなかったさね?」


「あれは子猫ちゃんであって子猫ちゃんじゃなかったわ」


 私の後ろにいるリリィが『訳が分からない』って仕草を見せるけど、それはあくまでも仕草だけ。本当は彼女だってわかっている。死者は喋らない、反応を返すこともない。勿論、幽霊やこっちが地獄などに赴けば話は別だけど、基本的には何も返してくれないのが死者・・・それでも私には操られていた子猫ちゃんよりも今の死者である子猫ちゃんの方が本物だと思うし久しぶりに再会したのだと思う。あの時、操られた心の内側でどれだけの葛藤があったとしても


「うふん、乙女の感傷って奴よ」


「悪いけど、あたしの目には乙女なんて見えないさね。らしくもない淫魔ならば見えるさけど」


 リリィは私のいつもどうりの軽口にいつもどうりの言葉を返すけど、そのニュアンスはだいぶ違う。もっとも私の声がいつもと違って少し沈んでしまっているからこその優しい声色の返答なのかもしれないわね


「失礼ね。子猫ちゃん、あなたが好きだったお酒を置いていくわ。あとでゆっくりと飲んでちょうだい」


 置いていくと言いながらも中身の半分ぐらいを墓にかけて、残りは墓前に置いておく。こうしておけば誰も来なくても自然に蒸発するでしょう。その前に森の動物たちが・・・飲まないわね。こんな美味しくないお酒


「随分と粗悪な酒さね。竜の坊やが作った酒とどっこいどっこいじゃないさね?」


 私と同じようにのぞき見していた竜の坊やと子猫ちゃんのデート。確かにあの時に鬼の子猫ちゃんと飲んでいたお酒は味の質は全然違うけど美味しさと言う意味では同じぐらいまずいかしら? もっとも竜の坊やのお酒は熟成させさえすれば上質なお酒になりそうな気もするのだけど


「美味しいお酒なんていくらでも飲める立場にいた子なんだけどね。何故かこのお酒以外は飲もうとしなかったのよ。本人は・・・そうね、『私にはこれが一番なんです』なんて言っていたわ。誰も飲まないもんだから、生産もされていなくて毎回手に入れるのに苦労したわよ」


 巻き込んだ罪滅ぼしに高くて美味しいお酒も何度も飲ませたことはあるのにあの子猫ちゃんは顔をしかめて『これじゃないです』なんて言うのよね。こんなお酒・・・飲んだことがないという子猫ちゃんに私が初めて飲ませたというだけの素人の私が作ったお酒だって言うのに


「ま、なんとなくわかるさね。あんたにその『苦労』って奴をさせたかったのさね」


 素直じゃない愛情か、それとも少しばかりの意趣返しか・・・両方なのかもしれないわね


「全部、あんたの掌の上なのさね?」


「まさか、私の予想なんて外れてばかりよ。あの時も今も変わらない」


 変わったところと言えば子猫ちゃんの時は悪い方にばかり外れていた予想が、竜の坊やは良い方にばかり外れるということかしら? こうあってほしいと願ったことはあった。最高にいい結果ならばこうなると予想したこともあった。でも竜の坊やはその最高をいつも踏み越えて行ったわ


「あんた、やっぱり光の女神様は使い潰す気でいたさね?」


「・・・ええ。逃げることは許さないとは思っていた。ほんの僅かでも助かる目を残すために小細工もいくつかしてみたわ。でも本当に助けられるとは思っていなかった。最高の結果でももう二度と戦えない、それどころか歩くことさえもできないような状態だと思っていたのに、見事に予想の上を行ってくれたわ。ふふ、幻滅したかしら?」


 かつて犠牲にした子猫ちゃんの因子で作られた存在。そう知っていながらも私は使い捨ての駒にした。彼女には表に立つものとして竜の坊やたちを導く力が必要だった。同時に操られたときに竜の坊やが殺せる程度の弱さである必要もあった。だからこそ、あのタイミング。影や傀儡の王によって天界が操られていたあのさなかに私はレオンが神ならば無条件に操れる能力を持っていることを教えた・・・あの時の強さであの子の強さを固定するために。黒騎士の坊やを竜の坊やの元に合流させたころまでは光の女神さまは自分ももっと強くなる気でいたからね


「今更な話さね。あんたとあたしと光の女神様は同じ穴の狢さね。目的は同じ、ただ容認できる犠牲の範囲が違うだけさね」


 そうね、私は自分自身や世界も含めてすべてを犠牲に出来る。リリィはリリカちゃんの犠牲だけは容認できない。だから彼女にさえ手を出さなければ仲間でいてくれるでしょう。そして光の女神様は犠牲を最小限にしようなんて甘いことを考えている。だから私たちとはそりが合わない


「・・・長々と話しすぎたかしらね? 竜の坊やに見つかる前に帰りましょう」


 そんな建前で踵を返す。その瞬間に満面の笑顔を浮かべるあの子のありえない幻影を一瞬映して

今回は少しだけルーンの裏側が見える話でした


ルーン「い~や~ん。乙女の秘密は見ちゃ駄目よぉ」


・・・リリィじゃないですがどこに乙女がいるというのですか?


ルーン「今すぐ撤回するか、干からびるかの二択よ?」


申し訳ありません! 前言は撤回させていただきます!!


ルーン「ふふ、じゃあ撤回のご褒美に少し精気を貰ってあげるわ」


あ、あの、あなたの少しは普通に干からびる量で何も変わっていないのですが? しかも指先を摘まんで吸収のどこら辺にご褒美要素があると!!? あ、実はまだ怒っているとか。謝らろうが撤回しようが許す気ないとか・・・


ルーン「あらあら、余計なことを言おうとした作者が気絶したわね。じゃあ、この話がこの章の最後みたいだからいつもどうり次回予告と行きましょう。『鈴の導きにより訪れたのは見覚えのある城? そして始まるレオン分体との最後のゲーム! 次章竜神伝説12部11章「突撃! 決戦の場はネフェーシア城!」』夢魔の夢に蕩けなさい」

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