12部10章「決戦を前に」8話 「それは幽霊の普通?」
「マリアさん! ボクの特訓の相手をお願いします!」
「へっ? ちょっと待って、アイちゃん。お姉ちゃんにわかるように話してみようか?」
エルファリア宮殿の中を探し回って、何故か部屋の主がいま外出中のアキの部屋で瞑想? しているマリアを見つけてボクは頭を下げる。少し内容を端折り過ぎたせいか、マリアさんには諭されちゃったけど
「えっと、ほら、マリアさんもタイプは違うけど、ボクと同じ接近戦型でしょ? でも、ボクにはマリアさんたちのような幽霊に対する有効な攻撃手段がないから」
ボクは不得意だから聞いた話でしかないけど、基本的に魔法による攻撃は幽霊にも有効。そもそも見えるかどうかという問題点もあるけど、どうも存在の剣と魔法杖ミリーに霊視付与の能力があるみたいでリュウトの仲間内で幽霊が見えないなんて人はいない。そのせいでたまにパニックになっている人が一人いるけど、そこは見ないふりをしてあげるのがいいよね?
そして、接近戦主体のメンバーはと言うとアシュラやコクトにカーミラさんは種族特性的に幽霊に物理攻撃ができるみたいだし、美鬼さんも威力は半減するみたいだけど種族特性的なものでダメージを与えられるし対幽霊に有効な切り札(剛力風打 十部九章十二話参照)も持っている。当たり前だけど幽霊のマリアさんは他の幽霊にも普通に攻撃できる。そして竜族の種族特性がどうなのかはわからないけど、リュウトとリデアにはそれぞれ存在の剣とレキュオスが付いていて、あれらの剣には全存在特攻みたいな能力がある・・・つまりね、幽霊に対する有効打がないのはボクだけなんだ!
「それでお姉ちゃん相手にってわけね」
「うん、今まではあんまり幽霊系の敵って出てこなかったし、出てきてもリュウトやアシュラが対処していたみたいだけど、これから先もそうだとは限らないから」
ボクはけして自分が強いとは思っていない。どっちかというと大分格落ちするけどリュウトたちよりはメイ寄りのタイプだと思っている。まぁ、策略と言うよりも技の奇抜性に依存している部分が大きいけどね。ともかく、ただでさえ弱いボクが攻撃が通じない・あるいは通じにくい敵と戦ったら危険だって言うことは誰かに指摘されるまでもなくわかっているんだ
「それでお昼寝・・・じゃなかった瞑想中のお姉ちゃんに声をかけたわけね」
うん、って言うかあれはやっぱり寝てたんだ。と言うよりもやっぱり幽霊も寝るんだ
「ねぇ、一応聞いていいかな? まぁ、昼に寝るのは幽霊のマリアさんにとっては当たり前なのかもしれないけど・・・なんでアキの部屋で?」
うん、マリアさんはマリアさんでアキから一部屋貰っているはずなんだよね。ハナとケンタの二人と同室ではあるけど、眠れないほど狭いというわけではないと思う。実際にさっきボクが探しに行った時はその二人は気持ちよさそうにベットで寝てたし。ボクが知っている幽霊三人が全員寝るとなるとやっぱりそれが普通なのかな?
「瞑想よ、瞑想。まぁ、お姉ちゃん的にはリュウトくんと同じで寝なくても大丈夫なんだけど、少しでも早く疲れを癒すには寝た方がいいのよ。今は少しでも多くの時間を鍛錬に割り振りたいのはアイちゃんも同じでしょう?」
うん、それはすごくわかる。多分マリアさんはボクが探している間もずっと鍛錬していて、それで休息のために少し寝ることにしたんだね。でも
「うん、それはわかるんだけど・・・なんでアキの部屋?」
結局ボクの質問には答えてもらっていない。まぁ、別にボクの部屋に侵入されたわけでもないし、ボクには実害ないから良いといえば良いんだけどね
「・・・アキちゃんが万が一戻ってきたら驚くかなって」
・・・いつものマリアさんの悪戯か。うん、きっと驚くと思うな。アキの幽霊・お化け嫌いは筋金入りだし
「うん、きっと驚いたと思うよ・・・」
メイと言いマリアと言い姉と言う存在はみんなこうなのかな? あっ、ママナも一応姉だっけ? 彼女は驚かせるよりも驚かされる方が専門だもんね
「でしょ~? アキちゃんの驚き方はいつまでも新鮮で面白いのよね~。あっ、特訓の件はわかったわ。じゃあ、早速行きましょうか」
楽しくてしょうがないって笑顔を見せたマリアさんだけど、続くセリフは真面目な顔になって言う。さすがにアキの部屋で特訓するわけにはいかないからね。なんて考えていたらマリアさんは壁をすり抜けて外に出て行く。うん、マリアさんは幽霊だからね。壁抜けができるってことは別に驚くことじゃないんだよ。でもね
「待って! マリアさん!! ボクは壁抜けもできないし、空も飛べないから!!」
アキの部屋にも窓はあるけど、女王の部屋だけに侵入防止のために人が通れるほどには開かない。流石に壊していくのはまずいよね? ということでボクは大慌てで部屋から飛び出して一階に向かって階段を駆け下りることになったんだ
はたしてマリアは普通の幽霊か、そうではないのか・・・
アイ「幽霊って時点でかなり特殊だと思うけどね」
まぁ、確かに。そもそも生きている時から非常識の塊・・・とまではいかないにしても、常識的とは言い難い存在でしたからね
アイ「リュウトはずいぶんと鍛えられたって言っていたけど・・・精神面?」
どちらかというと耐久面じゃないかと。精神面も鍛えられていそうではありますが
アイ「リュウトも苦労してたんだね。どうもボクたちの仲間は自分の異常性がわかっていない人たちが多くて」
(食に関して異常なアイが言うことじゃないような?)まぁ、異常を異常と認識できるのならばまだ引き返せる範囲なんでしょう
アイ「つまりうちのメンバーは引き返せない場所にいると」
あははは、そ、そうなりますかね? こ、これ以上話していると乱入してきそうな方々が数名いますのでその前にお開きにしましょう! では皆様、次回もまたよろしくお願いいたします




