12部9章「魂、託して」19話 「その鈴は招待状」
レーチェルと会話してからさらに半日、十分な休息と食事に睡眠をとった俺たちは完全に回復していた
「しかし、アイが特殊なのかどうなのか・・・」
「特殊に決まっているでしょう? あんな人間は私もあの子以外に見たことないわよ」
俺のつぶやきにレーチェルが呆れたように答える。回復魔法は傷は癒せるがエネルギーは戻せない。ゆえにエネルギー不足で死にかけている末期の状態を癒すには術者自身のエネルギーを大幅に消費して対象の生命維持をしながら自然回復を待つのが普通らしい
ともかくエネルギーというのは消費すると回復しにくい。アシュラのような例外もまれにいるらしいが、俺の場合だと今は限界まで使うと(生命維持のため以外では消費しない・呼吸あり・臓器は機能している状態で)完全回復までに三時間ほどかかる。ちなみにこれでも平均より相当早いそうだ。で、アイはと言うと
(※枯渇状態からエネルギーの完全回復までの時間は種族や個体・体調によって大きく違いますが、人間ですと平均で約十年、竜族の平均で約半年ほどです。なお、残留エネルギー量の比率が下がるごとに回復量も大きく下がります)
「なんであの子は食事をしただけでエネルギーが回復するのよ? そりゃ、栄養状態は回復速度に影響するわよ。でも、あの子みたいに食べた瞬間にエネルギーが大きく回復とかありえないわよ」
本気で首をかしげているところを見るとレーチェルにもわからないことと言うのはあるようで少し安心する気がする。もしかしてアイの食事量がだんだん増えているのは足りないエネルギー量を食事で補おうとしているのか?
「謎は謎のまま・・・か。まぁいいや、悪いことじゃないしな。とりあえず調べられる謎の方を優先するか」
と俺は社の方に近づく。こういう何が起きるかわからないことは頑丈な奴がやるのが一番いい。ということで社の入り口を開けてみたんだが、中に入っていたのは
「鈴? 他には特に見当たらないし変化もないな」
俺の手元には一見したところ普通の鈴。一瞬、これがクリアアイテム的なもので手に取ったらレオンが出てくるのかとも思ったが、そんな様子もない
「それは転移の鈴よ。使用回数は無制限。ただし、この社から外に出したら一週間で使えなくなるわ・・・そして転移対象は場所だけでなく人も指定できるわ」
・・・そういうことか。つまりレオンはこの鈴を使って一週間以内に自分のところへ来いと言っているわけだ。そして、これが最後のゲームになるのだろう。彼女がそう言っていたように
「それは誰から?」
「レオンからよ」
淡々と答えるレーチェルにつまりはレオンはこの状態を予想、いや、期待していたのだろうと思う。彼女のことを考えれば複雑なものがあるがな。しかし、レーチェルもこの社の中にあるのがこの鈴だと知っていたのならば教えてくれてもいいのに・・・いや、社から鈴を出さなければ時間制限のカウントはされない。ならばすぐに取り出した場合に対して回復に使った十二時間分は得をしているわけか。さらに有効活用する気ならば、このまま社から取り出さずにこの場で特訓をするという手もないわけではない。とはいえ、あまりレオンの不興を買うのも現状危険だからそこまではやらない方がいいだろう。分体が攻めてくるならばまだしも本体に来られたら話にならない
「とりあえず状況はわかった。使用回数が無限ってことはこれを使って帰れるな」
無論、対象とするのは場所・エルファリアだ。もっともこれもレオンの予想の範囲というか帰り道ごときに時間を使うなってことなんだろうが、時間が足りないのは俺たちにとっても同じだから使わない選択肢はない。レーチェルの転移という手もあるが、わざわざそっちを使う必要もないし
「さて、じゃあ今の説明をみんなにして戻らないとな」
鈴を使ったことによって発生した渦にリュウトくんたちが入っていく。レオンの元に行く時には必ず使わなければいけないこともあって動作確認を兼ねた今回の使用。先に入ったリュウトくんが問題なく戻ってきたことからも安全性は確認されたわね。ちなみに私たちのオリジナルであるアマテラスの遺体はリュウトくんが『異国どころか異界の地ではあるが、ここに放置しておくよりはいいだろう』ってエルファリア付近の森に埋葬するために背負って行ったわ
「レーチェル殿、少しよろしいでしょうか?」
「・・・このタイミングでってことはよっぽど聞かれたくない話かしら?」
多分こうなるだろうと思って最後まで残っていた私に同じように残っていたメイちゃんが話しかける。きっと、話題はあのことでしょうね
「ええ、レーチェル殿でしたらお気づきでしょうが、あなたの力は私が預かっておりました」
「・・・それは私の力じゃないわよ。それにあなたの方が私よりも使いこなせるでしょう?」
第二のゲームの時にメイちゃんは相手の動きを的確に把握していた。第三のゲームの時には拠点ごとの戦力を知ったうえで攻める拠点を選んだ。前者はまだ予想の範囲内だとしても、後者の方は違うわ。メイちゃんはあくまで情報分析と推測が優れているだけで情報収集能力はなかった
「いいえ、レーチェル殿の力ですよ。私は仮契約しか結んでもらえませんでしたから」
「まったく、収集能力と分析能力は同じところにあった方が効率的でしょうに」
そう私はすでに精霊王のクローゼとの契約を解除している。つまりクローゼは今フリーな状態だからメイちゃんに力を貸したのでしょう。仮契約という能力制限もあり精霊側からも一方的に契約解除できる形で
「それにすでに精霊を使って報告しています。というよりも契約自体が向こうから破棄されましたね。クローゼ殿がお待ちになっているのはあなただけなのですよ、レーチェル殿」
本当にどうしてこう私に周りにはお節介・・・優しい子ばかりが集まるのかしらね
今回はゲームクリアと次のゲームへの招待の話でした
アキ「・・・私の出番が全くない。メインヒロインなのに」
つ、次の章までお待ちいただければと。おっと、この章は次回で終わりですので次々回からということですね
アキ「戦闘の話が終わったから次章は日常?」
そこらへんは次回の予告でって感じですね。とは言ってものんびり休んでいる暇はリュウトたちにはないのですが
アキ「うん、一週間で出来るだけ強くならないとね。私たちのために」
そういうことです。今回はあまり語る内容もないのであとがきもこの辺で終わっておきましょう。では皆様、次回もよろしくお願いしますね~




