12部8章「報酬という名の訓練?」19話 「少し乙女な」
「随分と遅かったじゃない」
戻るなり開口一番にリデアにそう言われる。まぁ、言葉とは裏腹に笑顔だから遅くなった理由がアイの食事にあるというのはばれているのだろう
「理由はわかるゆえに嫉妬はせぬがのぅ。さて、我が君? 次は我に付き合ってもらおうぞ。満を持して最後というのも乙なものじゃが、そこは譲ってやるのが大人と言うものじゃ」
大人か。確かに実年齢というか生きてきた年数で言うのならばカーミラが間違いなくトップだからな。無論、これも言うと問題になりそうだから黙っておくが
「しかし、意外だな」
俺はカーミラが選んだデートの場所を見てそう言う。なにせなぁ
「ふむ、我と花畑の組み合わせはそこまで不自然かの? 我もまだ乙女のつもりなのじゃが」
「不自然とまではいわないがな。まぁ、少しばかりイメージに合わなかったのは本当だ。俺としては新しい一面を見れて得した気分だが、カーミラならば洞窟とか暗いところを選びそうだとは思っていた」
俺の言葉に何故か少しホッとしたような表情をしたカーミラだが
「そこは確かに我にとっては居心地がよいがの、我が君にとっては違うじゃろう? それにの、我ばかりが我が君の顔を見れても駄目なのじゃ。目がきかぬとも我が君は不自由しないと分かっておってもじゃ」
確かに俺は暗闇で見えない程度で周りの状況が分からなくなるようなことはない。それなりに心眼は鍛えているし、いざとなったら風で周囲の状況を探る手もある
「わ、我が君には我の顔をその両目でしっかり見てほしいのじゃ」
そう、普段は青白い顔を少しばかり赤くしたカーミラは文句なく可愛らしかった。本当に誰も彼も俺にはもったい無さすぎるほど良い彼女だよ
「大丈夫だ。こんな愛らしい顔を見逃すことはないからな」
「あ、愛!? わ、我が君は無意識にとんでもないことを言い過ぎなのじゃ」
いや、俺としては正直に思ったままに言っているだけなんだけどな? 別に大したことじゃあるまい?
「嘘は言っていないというのが明確にわかるのが、たちが悪いのか良いのか悩みどころじゃのう。ふむ、じゃが我としては悪くない。さらにらしくはないが、もう少し乙女にならせてもらうとしようかの」
バンパイアには見えないほどに顔を高揚させながらカーミラは近くにあった花を取る
「ん? 花占いでもするのか?」
「いまさら占うようなことはなにもないのじゃ。我は我が君のことを信頼しておる。その信頼を裏切るような我が君ではあるまい?」
それはまた随分な信頼をもらっているな。勿論、俺が俺である限り裏切ることなどあり得ないと断言させてもらうが・・・ともかく、カーミラが何をするのだろうと見ていれば
「花冠?」
いや、どうやって一本の花からそれを作った? カーミラにはまだ俺の知らない力でもあるのか?
「くはは、いや、我が君が考えておることはわかるがの、これは我の能力ではないのじゃ。我が眷属の一匹の能力じゃ。ぼら、出てくると良い」
カーミラがポンポンとマントを叩くと出てきたのは体長五十cmほどの丸々したリスのようなもの。なるほどカーミラは自分の眷属に選ぶのは可愛らしいものと言うこだわりがあるようだが、確かにこいつは可愛いな。とは言え、鋭い牙と爪もあるようだから接近戦も出来ると言う感じかな?
「ふむ、我が君も気がついたようじゃが、こやつは接近戦もそれなりに強い。じゃがの、能力のほどは正直あまり使い所はないのじゃ。なにせ、『植物を分裂させる』・『植物の成長を促進させる』の二つじゃぞ? ちなみに名前はマルコロじゃ」
カーミラからそんな風に言われて落ち込むリスもどき。しぐさも可愛らしいやつだなとは思うが、それはかなり有用なんじゃないか? 俺のコピー能力でもできるが、不作対策には持ってこいだし、アキたちエルフ族が知ったら歓喜しそうだ
「そ、それでじゃな我が君。こ、この花冠は受け取ってもらえるかの? そ、それともやっぱり我にはこのようなこと・・・」
「ん? 受けとるに決まっているだろう? そりゃ、花だからな? 後生大事にって訳にもいかないが、恋人からのプレゼントの受け取り拒否なんかしないぞ?」
戦闘に巻き込まれればあっさり消滅するだろうし、寿命のない俺たちだと遠くないうちに風化してやっぱりなくなってしまうだろうからなぁ
「我が君らしい言い方じゃのぅ。じゃが、それでも我は十分すぎるほどに嬉しいのじゃ」
そう言いながらコテンと俺の肩に頭をのせるカーミラは何処かの令嬢のようで・・・いや、実際にお姫様か。ともかく今日はカーミラの意外な一面を多くみたが勿論それで彼女を嫌うはずもなく、しばらく穏やかな時間が流れていった
年齢は高いですがカーミラも間違いなく乙女であると言うお話しでした
カーミラ「それは我に喧嘩を売っておるのかのぅ」
い、いえ滅相もありません!
カーミラ「バンパイア一族は元々加齢の止まる一族じゃ! 年齢などなんの意味もない!」
お、おっしゃる通りです。な、なので、この首をつかんでいる手を離して貰えないでしょうか?
カーミラ「次の話ししだいじゃのぅ。じゃが、少々お仕置きはしておくのじゃ。主の血でもないよりましじゃろう。安心せい、十リットルほどじゃ」
そ、それ十分に多いんじゃ。ちょ、ちょっと待って! 本当にくらくらと・・・
カーミラ「気絶してもうたか。では作者に代わって挨拶といくかの。次回は我の視点、楽しみに待つとよいぞ? ではの」




