8話 「違うから」
「うん、わたし・・・アーくんのこと信じてみるよ。勿論、リューくんもね!」
見慣れたいつもの笑顔。やはりレミーはこうでなくちゃな。・・・そのうちに隠しているものも気にはなるが。
「そうだな。・・・レミーはレミーらしくいてくれればいいさ。」
トラブルメーカーでムードメーカー、いつもまぶしい笑顔でその内に涙を隠す。どれが真実のレミー? 決まっている。全部だ。・・・だからこそ望む。彼女がいつか心から笑える未来を・・・。
「ほらほら! きっとあーちゃん待ってるよ!」
レミーに押し出されるように歩き出す俺。・・・じゃあ、一番くだらないことで一番真剣で面倒に悩んでいるお姫様・・・もとい!女王様に会いに行って来るか!
風が吹く。アキの気配をたどってやってきたのは、この建物のテラスだ。・・・こういった場所を好むのは俺で大抵は俺を探して他のものがやって来るんだが立場が逆になったな。
「だ、誰!? ひょっとして・・・リュウトか?」
普段とは違い隠そうとしていない足音に気づいたのだろうアキが慌てるのがわかる。
「ああ、隣・・・いいかな?」
「あ、いや・・・それはなんというか・・・」
歯切れの悪い言葉。それは来て欲しくないと言うアキの思いの現われだろう。・・・だからこそ俺は行かなくてはならない。
「ふう、魔界の風もなかなか気持ちいいもんだな。」
のんきにそんなことを言う俺。・・・俺が風が好きなのは自身の属性のせいだろうか? そしてこの見晴らし・・・けして何とかと煙はの部類ではないと信じたい。
「まったく、そなたという奴は私の気持ちを知っているのかいないのか・・・私はそなたに合わせる顔などないというのに。」
百年前は知らずにだったが今は知っているさ。・・・それに俺はアキの顔を見ていたいしな。
「アキが俺と顔を合わせるのに理由も権利も要らないだろう? いつだってどんな顔だって見せてくれればいい。・・・アキの悩みは本当は悩みなんかじゃないのだから。」
ピクン。体がつい反応する。私の悩みが悩みじゃない!? 私がどんなに苦しんでいるか悩んでいるか・・・リュウトにはわからないと言うの?
「リュウトよ、それは酷いぞ。私がどれほど思い悩んでいるか・・・」
「無論、知っている。だが、それでも言う。それは悩みじゃない。そして・・・同時に誰もが思い悩むものさ。」
誰もが? リュウトも? ・・・そんなはずはないよ。だってリュウトはあんなに強いじゃない。アシュラとだってまともに戦えて・・・信頼もされている。私みたいに役立たずじゃない。
「アキは自分が役立たずだって思い込んでいるんだろ?」
まるで今日の天気でも話すのように軽く言ってのけるリュウト。そのあまりの酷さに私の我慢も限界だった。
「思い込む? はっきり言ったらどうじゃ! 役立たずだと! 足手まといだと!!」
私の怒声を・・・きっと酷く醜かっただろう私の顔を見て、リュウトは安心したって感じで微笑んだ。そして・・・
「俺は今まで一度だってアキを足手まといだと思ったことはないぞ。・・・強すぎるアキを心配したことは多々あるけどな。」
私が強い? 一体どこまで私を馬鹿にするつもりなの!? そう思った心はすぐに消えてしまった。・・・だってリュウトがその胸に抱き寄せてくれたから。アシュラと戦った後だから、ちょっと汗のにおいの強い・・・でも私の大好きな匂い。体が・・・ううん、心が温かくなって凄く気持ちいい。
「アキが俺と同じ強さを持つ必要なんてないのさ。・・・同じ存在が二人も要らない。むしろ、いて欲しくないぞ・・・俺はな。」
ぽんぽんと私の背中を軽く叩きながら、まるで聞き分けのない幼い子供に話すように話しかけるリュウト。
「でも・・・それでも私はそなたの・・・あなたの役に立ちたい。」
今、このときに必要なのは知識でも権力でも優しさでもない。・・・彼の隣に立って戦う力が必要なのに。彼と一緒に帰れなければ他のものなんて何の意味もないというのに・・・
「立っているさ、十分すぎるほどに。・・・アキはマジシャンだ。前衛に立つ必要はない・・・というよりアキが前衛に立つような事態が起きたらそれは俺やアシュラの失態だろう? 万が一に備えるのは無駄とは言わないがアキはアキの強さがあればそれでいい。」
私はマジシャン。安全な後衛からリュウトたちが足止めした敵を狙い打つ・・・でもそれだけじゃ・・・
「私はあなたと同じ危険を・・・」
「ごめん。それは俺が嫌だ。・・・それに戦場に立つ以上安全な場所などはないさ。同じことが出来るものなど誰一人いない。同じ前衛の俺とアシュラだってやはり違う。真似事ぐらいならともかくアシュラのように戦うことは俺には出来ないし、アシュラも俺のようには戦えない。後衛のアキとレミーだって同じだろ?」
たしかに・・・私にはレミーと同じことは出来ないし、レミーも私と同じことは出来ないだろうけど。
「アキは強い。戦いもそれ以外も・・・。さっき言っただろう? 俺は強すぎるアキを心配してたって。・・・真面目で弱音なんてめったに言わなくて・・・いつかその強い心といえども壊れてしまわないかって俺はいつも怖かった。だからさっき怒鳴ってくれて本当に安心したんだ。」
そんな・・・私、そんなに強くなんてないよ? いつだって誰かに助けられてばっかりで、いつも心の中でめそめそ泣いてた。
「アキは俺になりたかったのかもしれない。でもな、俺の役を演じられるのは俺だけさ。誰にも・・・たとえアキといえども出来はしない。でもな、俺もアキにはなれないんだ。俺は俺だから、アキじゃないからな。同じじゃないから・・・違うからこそ大切なんだ。」
まだ、今の私には理解できない。納得している自分がいる一方で違うって叫んでいる私もいる。でも、リュウトの声はとても優しくて、それでいて真剣で・・・否定することも出来ないんだ。
「ごめんね。私はまだ・・・」
「それでいいさ。時間はまだまだある。お互いの距離なんてゆっくり縮めて行けばいい。・・・だから俺の傍にいて欲しいな。」
元々リュウトは自分の傍にいたら危険な目にあわせてしまう、汚してしまうって考えだった。でも、今リュウトははっきりと傍にいて欲しいと言った。きっと、彼が私の方に歩み寄ってくれた結果なのだろう。だったら・・・私も。そして何時の日にか・・・。
「そなたは太陽だな。いつだって私を照らしてくれる。」
「そうか? 俺にとってはアキが太陽だぞ? さしずめ俺は月かって思っているんだが。」
フフ、なら両方が太陽で、両方が月かな? 今、魔界に上った月は私? それともあなた?
リュウトにアキの傍にいる覚悟がないようにアキにもまだまだ覚悟は足りないのです。二人が恋人になる日は何時の日か!?
レミー「傍目から見てると恋人にしか見えないんだけどね~。」
まぁ、お互いの認識の問題だから。お互いにお互いを必要としているのに自分の必要性を自分自身がわかっていない。
レミー「うう~、こういうのがじれったい関係っていうんだね。」
レミーが一つ学んだところで次回予告です!
レミー「ついにたどり着いた深層魔界。そこに待ち受けていたのは・・・いい加減しつこ~い! えっ? 今回は一人じゃないって?? 次章 竜神伝説第二部6章 『夢魔たちの罠』! わたしたちは絶対負けないんだから!」




