6話 「強さ」
「ぐすっ、ひっく・・・。」
響き渡る泣き声。どうやらママナはこの先にいるらしいな。そう、俺は先ずは一番根が深そうなママナから解決することにした。・・・けしてアキから逃げたわけじゃないぞ?
なんていって話しかけようか? こんなことを考えながら歩いていたからだろう、俺の足音はらしくもなく大きく響いた。その音にママナがビクッと体を硬直させる気配が伝わってくる。
「だ、誰!?」
「俺だよ。ごめんな、驚かせてしまったみたいだ。」
俺はママナは笑顔で迎えてくれるかと思っていた。そうでなくてもこんな展開は予想していなかった。・・・俺はどうやらとことん甘いらしいな。
「だ、駄目! 来ないで!! 私、リュウトにこんな顔見られたくない! ・・・リュウトに合わせる顔がないよ。」
思ってもいなかった強い、明確な否定。俺は内心の動揺を抑えつつママナに話しかける。
「そうか。・・・なら合わせなくてもいいさ。話だけ聞いてくれれば・・・。」
扉一枚挟んだ向こう。きっとそこにママナはいるのだろう。俺は壁に背をあずけ極力淡々と話す。
「アシュラの言ったことを気にしてるのか?」
それでもなお、この一言はママナにとっては強烈だったのだろう。姿など見えなくても、言葉なんて聞かなくても、壁の向こうのママナの動揺が伝わってくる。
「・・・気にするななんて無理だよ。私だって・・・本当はわかってた。役に立っているつもりなのは私だけで本当はお荷物だってこと! でも! 私だって・・・私だって一生懸命にやってたの!! みんなの役に立ちたくて・・・リュウトの役に立ちたくて・・・なんで私こんなに弱いんだろう・・・。」
最後はまるで消えてしまいそうなほど弱弱しい声で呟くママナ。わかるとは言えない。ママナと俺たちの間に大きな実力差があるのは事実で、強者である俺が弱者の気持ちがわかるなんて言ってはいけないと思う。・・・だが、それはあくまでママナの思う強さでの話しなのだ。
「なぁ、強さって一体なんだろうな? 俺はママナが弱いなんて思わないぞ?」
これは嘘偽りのない俺の思いだ。きっと、俺の思う強さとママナの思う強さはまったく別のものだろうけどな。
「嘘・・・だよ。リュウトだってきっと私を足手まといだって思っている。ついてきて欲しくないんでしょ?」
私はとうとう聞きたくない答えがまっている問いをしてしまった。リュウトは優しいからきっと『そんなことない』って言ってくれると思う。でも・・・そんな言葉は信じられない。
「そうだな・・・来て欲しいかどうかで言ったら来て欲しくないな。」
・・・あはは、私ったらなんて甘いことを考えていたんだろう。リュウトなら優しい嘘をくれる? そんな嘘はいらないって思っていたけど、実際に 本当のことを言われたら欲しくなっちゃったよ。あふれ出る涙は止められそうもない。
「そうだよね・・・私なんかがいたって・・・。」
「でもな、アシュラが本当にそのセリフを言いたかったのはきっと別の奴だぞ。」
・・・えっ? だって、私は一番弱くて役立たずで・・・私よりもアシュラがそんなことを言いたい相手って・・・?
「なぁ、ママナは俺やアキに戦って欲しいと思うか?」
「そんなこと思うわけない! そりゃ、リュウトもアキも強いけど・・・危険であることには・・・」
それに、この二人が戦いを嫌っていることを私は良く知って・・・アレ?もしかしてこれって・・・。
「そうだ。どれだけ強かろうと戦う以上は危険はつきものだ。ましてこれから戦う相手は俺たち以上のつわもの達なのだからな。・・・なら、わかるだろう? アシュラが本当にそのセリフを言いたかった奴が・・・」
「ひょっとして・・・レミー?」
なんだかんだといってアシュラはレミーのことを気に入っているようだし・・・でもそれが何の関係が・・・。
「そういうことだ。俺もな、本当のことを言えばアキにもレミーにもついてきて欲しくないんだ。・・・だが、彼女たちは強い。ついてくるなって言う口実がなくてな。」
でも、結局それって私が弱いからついてくるなって言えるってことだよね? 私が役に立てないってことだよね?
「ママナは強い。・・・戦う力じゃない。自分の弱さを知っていて、それでもなお危険な俺たちの旅についてこようと思うその心がだ。知っているか? レミーと同じでいつも笑顔でいてくれるママナの存在がどれだけ俺たちを助けてくれているか。・・・俺たちは戦うために戦っているんじゃない。勝つためでもない。・・・守りたい者がいるからこそ戦える。ママナが俺の強さを羨ましく思うように・・・俺もママナの強さに憧れていた。」
嘘・・・そんなのきっと嘘。そういうのは簡単だった。でも、そう思いたくない。ううん、リュウトの声が真剣そのもので、そもそもあいつは嘘なんていえるような器用な奴じゃなくて・・・きっと、本音なんだと思う。そうか、強さって・・・一つじゃなかったんだね。そんなことすら私は忘れてしまっていた。
「だからな、ママナには安全な場所にいてもらいたいんだ。俺たちが帰ってくる場所なんだから・・・危険な目にあわせたくない。キミが存在している・・・それ自体が俺たちの力になるのだから。」
正直、悔しいと思う。だって、結局は直接的な手伝いは出来ないってことだもん。でもね、私が無理をしてもやっぱり自己満足に過ぎないんだよね。だから、私は私のやるべきことをやろう。・・・迷ってばかりの私だけど、いつかきっと私の戦場を見つけて見せるから!
「・・・ありがとう、リュウト。でね、やっぱり私は今は会えないや。こんな泣き顔なんかじゃなくて飛び切りの笑顔を見せたいから・・・。」
「そうか。・・・わかった。じゃあ、ゆっくりおやすみ。」
リュウトが立ち去っていく音がする。普段のリュウトならこんな音はさせないからきっとわざとだよね。優しすぎるぐらい優しい彼ら・・・リュウトの隣で守る役はアキに譲ったけど、後ろから守る道だってあったんだよね。うん、私まだまだ頑張れる。だってリュウトたちの仲間だもん!
強さの意味。そして仲間の意味というお話でした。
ママナ「私は目に見える力にこだわりすぎていたんだね。」
そういうことです。本当に強いって言うのはそんなことではないのです。腕っ節が強くても実際は弱いって言う人は結構いるもんです。・・・リュウトなんかはその代表格ですね。
ママナ「ぶ~! リュウトは強いもん! って言いたいけどたしかに打たれ弱いかも。でも意外だな、あのアシュラが私を守ろうとしてたなんて・・・。」
本人はけして認めないでしょうけどね^^でも、次回もよろしくお願いします!




