4話 「二心同体」
力が足りない。いや、足りないものは他の何かだろうか?
風が吹く。・・・違う! これは俺が風と認識しているだけ。正体は・・・アシュラの気迫!
そうだ、俺は一体何を考えていた。相手がアシュラだから死ぬことはない? 違うだろ。相手が誰であろうとこれは真剣勝負。試合ではないのだ・・・命を懸けた戦いという意識をもたないでどうする!
俺は負けられないだろう? 俺自身のためなどではない。俺という存在を信じてくれる人たちがいる。自惚れなのかもしれない・・・けれど、彼らを守りたい。勝てるかどうかじゃない! 負けられないのなら・・・勝つしかないじゃないか!!
リュム・・・こんなことにすら今更気づく俺だけど今一度・・・俺に力を貸してくれ!
我は剣。我が主たるリュウトの思いの一つすら感じ取れなくて何が剣だというのだ。
我を杖代わりにするような不甲斐無い主。我が真の力を解放することなど夢のまた夢と言わざるを得ない。・・・だというのに何故なのだろうな。我は奴を助けたいと思う。不器用な愚か者、そして無限の可能性を感じさせる存在・・・。
いいだろう。リュウトが本気になったのならば、我も本気で力を貸してやろう。今の汝は我が力のリミッター、その第一段階を僅かに開放したに過ぎない。我が力のほんの一部に過ぎん力だが我も汝と共に戦ってやろうぞ!
リュウトから発せられる気配が変る。ぞくっとする感覚、普通の奴ならば恐怖と呼ぶであろうこの高揚感。
リュウトの力は大別すると四つに分類される。
一つはリュウト自身の力。経緯はどうあれ、今のあいつの持っているエネルギー量と戦術はあいつの持っている力だ。
一つは神の力。あいつ自身は認識していないようだが奴も神の末端に位置するもの。神の力の源は信仰・・・あいつに対する信頼や愛情さえも力と変える。
これら二つはあいつが意識していようといまいと常にその力を発揮している。相手が並の存在ならそれだけで十分すぎるだろう。だが、オレやこの先にいる者たちの相手をするにはそれだけでは足りんのだ。奴の隠されたもう二つの力、それは
一つはこの気迫! 殺気ではない。オレたち悪魔には理解しがたい感情。何かを得るためではない、自己保身でもない・・・自分を取り巻くものを守ろうとする思い。負けられないと言う覚悟。力及ばぬはずのオレさえも震撼させるこの凄まじき思いの力はあいつの武器に他ならない。
そして最後の一つ。それが竜神剣。奴の能力はそれこそ底が知れない。だが異常な能力を持とうとも奴は剣だ。自身の意思でその力を使えるわけではない。
ビリビリと空気を揺らす気迫がさらに強くなる。何だかんだいって竜神剣もやる気は十分と言うことらしい。・・・そう、奴らは二つ揃って一つなのだ。二つの心で竜神という一つの存在を形作る、それが奴らだ。このオレのライバル、オレさえも遥かに凌駕する可能性を持った心踊る存在だ。
奴らは竜。ほんの僅かに刺激を加えただけで何十倍にも増幅して強くなる。竜とは自然の力の化身であると言う。太古の昔から最強の種族の座を守 り続けていた怪物中の怪物。
ふと気づくとオレの顔には笑みが浮かんでいた。それもそうだろう、これこそオレが待ち望んだ戦いに他ならない。今はまだ見せるわけには行かないオレの全力。おそらく、今はまだ奴はその領域に達してはいない。だが、それも時間の問題だろう。
さぁ、リュウト! 楽しき楽しき戦いの火蓋はまさに今落とされたのだ!!
まさに覚醒への第一歩。二つの心で多くの思いを受け止めてさらなる高みへと駆け上れ! ってところでしょうか?
リュウト「そんなに立派なものでもないがな。」
アシュラ「だが、リュウトの本質を表しているともいえる。最弱と最強を併せ持つような奴だからな。」
たしかに^^ 強い部分はこれ以上なく強いのに情けない。これ以上ない脆さも併せ持っている。完璧とはほど遠い存在ですね。
リュウト「褒められているのか、貶されているのかどっちだ?」
両方じゃないかな? それが人であるともいえるけどね。




