聖女による昔語り⑤
【聖女:ヘンゼルによる魔女に出会うまでの回想】
そうだ、魔女だ。ファンタジーで呪いとくれば魔女くらいいるに決まっている。
戸惑っているアルアリアの手を取って、解決法を見つけたと言う。
「魔女に会って呪いを解いてもらおう」
駄目なら、異世界特殊能力で解き方聞いて退治しよう。という本心は隠して告げると、アルアリアは無理だと首を振る。
「魔女と言っても、本当にいるかは分かりません。国の山に住みついていて時折行商人に悪さをするとか、そういう噂だけで…」
「噂が立つということはそこに何かしらは居るはずです。行ってみて、違ったらまた考えれば良いんです。とにかく会いに行きましょう?」
微笑みながらアルアリアの手を取ると、一度踏みとどまったあと王宮を振り返り、こちらを見た。そして晴れ晴れとした良い笑顔で笑う。
「分かりました。コウキ様に従います」
状態:信頼
「期待してくれて構わないよ」
手放しの好意がくすぐったくて、笑った。
2人手に手を取り合って、王宮を脱走した。
こちらを必死で追いかけまわす騎士たちに目暗ましの闇魔法や、足元の土を泥沼に変える土魔法を掛けながら2人で一生懸命逃げた。どうやったって捕まえる事は出来ないから、笑いながら逃げる。
追いかけきれずに倒れた騎士たちの記憶をちょっとだけ弄って魔法の記憶は消去して、どこかから見張っている『鴉』の人間は光反射の魔法で気絶させる。
異世界召喚なんてされた以上、妙な事に利用されないように隠していた魔法の大盤振る舞いだ。
アルアリアは最初は驚いた様子だったけれど、色々と使っている内に慣れて気にしなくなった。
王宮から外に出て、平原を駆け抜けて、山に入る。
偶然強い獣が姿を現したのに驚いて、アルアリアと共に足を滑らせてしまう。
上から襲いかかる獣に、カマイタチでも放つか、と念じようとした時、
「あぶない!!」
という声が聞こえ、獣との間に大きな体が割って入った。
ハルマ=タカツカサ
鷹司詩織の息子(養子)
久しぶりに見る日本語に目を見開く。日本人だ、間違いない。
こんな山奥にいる日本人なら、その鷹司詩織が魔女で間違い無いだろう。何らかの特殊能力が呪いと呼ばれているのかもしれない。
ハルマは大きな腕を振りかぶって獣を殴りつける。
性質:善良
すさまじい外見だが、異世界特殊能力がそう言う以上、良い人なのだろう。わき目も振らずに自分たちを助けてくれたことからも信じられる。
丁度良い。彼に、魔女の元へ連れて行ってもらおう。
傍らで呆然としていたアルアリアに軽い電気を流して気絶してもらう。
そして、自分自身の意識も落とす。
「大丈夫ですか!?」
心配で一杯の声を聞きながら、意識が遠くなって行く。
魔女はどんな人なのだろう。息子を見たら、俄然、興味が湧いてきた。
それに、なんだかすごく、良い予感がするんだ。




