アルアリア=イシルシュ=エーミィの日記帳より
【アルアリア=イシルシュ=エーミィの日記帳。と、聖女】
『わたくしの子供。お父様にもお母様にも見捨てられてしまったわたくしに授けられた小さな命。
わたくしは早くあなたに会いたいわ。殿下にも陛下にも愛されなくてよいのです。
あなたが無事にわたくしのお腹から出て、健康に、大きくなってくれたなら。
わたくしはもう、他に何もいりません』
日記に書かれた文章は、手に持っただけで頭の中に流れ込んできた。
さらに異世界特殊能力で見ると、
状態:混乱(愛情、不信、不安、哀しみ)
と出る。ただし、一文字ごとに 混乱 の中の感情が入れ替わる。
憎悪、殺意、恐怖。暗い感情が次々と湧き出る中で、唯一愛情だけが一番最初に在り続ける。
それが、彼女、アルアリアの唯一の真実だったんだろう。
【アルアリア=イシルシュ=エーミィの日記帳。と、王子】
『あのね、わたくしにはおくの手があるのよ。
ずっと男のこが良いっていって来たけれど、もうどちらでも良いのよ。
あんしんしてしてうまれて来てちょうだい。
わたくしの じじょ はとてもたよりになるから、あなたは一人きりではないわ。
もしも女のこだったら、わたくしの名まえをあげるわ。
それくらいしかあげられなくて、ごめんね。
わたくしの名まえは ふきつ かもしれないけど、ごめんね』
貴族だったらありえないくらい崩れた文字で、その日記は書かれていました。
何度も書き直した跡があります。インクが滲んだり、穴があいたり。まるで上手く文字が書けないとでもいうかのように。
それでも、その一文だけは読むことができました。
そして、隅に隠れるように、たった一言。
『あいしているのよ、ごめんね』
母様。謝らなくて良いのです。
私は、辛くは無いし、何にも不幸じゃない。
ただ、あなたに会えない事が、こんなにも残念で……
私は、薄い日記帳を大切に抱きしめて、床に座り込んで泣くことしか、出来ませんでした。




