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鏡よ鏡、鏡さん。あなたは何を映しますか?

 新しい住みかは、快適でした。


 隣の国よりも南にあるのか、朝も夜も暖かいですし、木々の爽やかな芳香が柔らかく辺りを包みます。これは強い魔物が嫌う香りで、前の山には無いものでした。


 その葉を一枚とって、乳鉢と乳棒でごりごりと煎じます。


 ハーブを数点。花の実を数点。最後に香りの強い花から取った精油を混ぜて、布袋で液体を濾してガラス瓶に詰めます。


 うっすらと桃色に染まった爽やかな香り。魔物避けのアロマは、山の下の街で飛ぶように売れる代物なのです。


「お疲れ様です」


 ことん、と手を拭くふきんが置かれました。


 見上げると聖女が微笑んでいます。


「子供たちは?」


「庭に。2人で体を鍛えていますよ」


 耳を澄ませると、子供たちの楽しそうな笑い声が届きました。


 私はゆっくりと手を拭いて汚れを落とします。植物の汁は指に沁み込むと中々とれず、私のしわしわの手は斑に染まって見苦しい様子ですが、私は気に入っています。


 これが私の手です。




 私は、壁にかかった姿鏡を見つめました。


 何でも映せて、持ってこれて、送れる鏡です、と聖女は言いました。


 私の正体を暴いて、りんごを持ってきて、お届け物も引っ越しもできる最強鏡。




 そういえば、どうして今日はカバーがかかっていないんでしょう。


 このままだと、私の正体が聖女に知られてしまうなあ、とうららかな陽光の中危機感も薄く思いました。




「魔女さん」


 聖女が呼ぶので、私は振りかえろうとしました。


「魔女さん、そのままでいて」




 鏡の中には、椅子に座る私の横に、立てばシャクヤク、という言葉を体現したような、すらりとした立ち姿の聖女がいます。




 何でも映す鏡の中で。


 その姿が、ふいにぶれて歪み、新たな鏡像を結びました。


 私は目を見開きます。





 そこに、いたのは――――。



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