58 三大事業計画+α
「二つ目はケチャップをはじめとしたソース類の開発と販売よ。他の領地では売っていないような商品を作って売るの。手始めにあのケチャップね。来年はトマトの作付けも増やしてもらって大量に作るつもりよ」
実は、カントリーハウスで働いている使用人たちにも、ケチャップを試食してもらったのだ。貴族向けの商品にしたい訳じゃないからね。
もちろん評判は上々――というか、大絶賛だった。
ここにいる三人もしっかりとその味を知っているからか、反対の声はない。
レイモンはどこまで気がついているかわからないけれど、大量生産のためにはそれなりの作業場が必要になる。
商品化に向けて、製造工場兼開発拠点みたいな建物を建てておいた方がいいと思っている。まぁ建てる前に「お伺い」がいるんだけどね。
それなら同時に、ジュリアンさんと一緒に使う薬草の研究所も作りたいんだよなぁ。
いや、まずはケチャップ工場だから、「脱線するな!」と自分にツッコんでおこう。
ソース開発の当面の研究主任はアルマだから、カントリーハウスの近くがいいよね。
でもでも! アルマの後任となる研究員を育てていきたい。できれば専任で開発できる人を。
うーん。人選その他諸々、厨房チームのメンバーと相談する必要があるな。
「マルティーヌ様? 三つ目は何でしょうか?」
ハッ。ローラ、ありがとう。また心が彷徨い出ていたわ。
「最後はもちろん、オーベルジュよ!」
「オーベ……。ええと。食堂と宿の――豪華な施設でしたっけ?」
「そう!」
あれ? 私、そんな風に説明していたっけ……? ダサい……。豪華な施設って……。
「モンテンセン伯爵領は観光地ではないけれど、豊かな自然と美味しい料理を売りにした宿泊施設があると面白いと思うの。のんびりと静養するもよし、アクティビ――オホン。様々な体験をするもよし、という感じのね。どんな体験ができるかは、あなたたちにも相談したいと思っているの。よろしくね」
そうだ。体験施設も兼ねた即売所なんか作ってもいいかも。道の駅的なものも面白いよね。
本格的な薬草研究所も併設して、安眠効果やリフレッシュ効果のある薬草やハーブティーを売るのはどうかな?
「……それと。あと二つ付け足して五大改革にするなら、領民はもちろんのこと来領者も安心して過ごせるように、犯罪抑止のパトロー――ええと街中を巡回するような人たちの拠点を各所に設けたいわ。そして、その役割を担う騎士たちを養成する騎士団を設立したいと思うのだけれど、どうかしら?」
KOBAN&騎士団の設立だよ。お給金は要相談だけど。
「騎士団でございますか? 騎士たちを各所に逗留させると……?」
「ええ、まあ。最初から領地内の各所に拠点を設けようなんて考えていないわ。まずは領都? 中心街に目立つ建物を作って、何かあればそこに行って相談できるっていうことを内外に知らしめたいと思うの」
誰も何も言ってくれない……。えーと。伝わらなかった?
レイモンが考え込むような表情で何かをブツブツとこぼしている。
「あの、マルティーヌ様」
意外! まさかリエーフに話しかけられるとは思わなかった。
「なあに?」
「騎士を養成する騎士団とおっしゃいましたが、指導者はもうどなたかに決められているのですか?」
「……え?」
いやいや。ぜんっぜん、決まってないよ? ってか、今はこうなったらいいねっていう夢を語っている段階だからね。
「いいえ。まだ真っさらな白紙状態だけど?」
「それなら――」
リエーフは皆まで言わず、横目でレイモンを窺った。
レイモンはうんうんと軽く首を縦に振って、私をしっかりと見据えた。
「マルティーヌ様。拠点を設ける案は別途ご相談させていただきたいのですが。ひとまず騎士団の設立に関しましては私も異論はございません。それにリエーフがお尋ねした件ですが、指導者につきましては一人心当たりがございます」
うおぅ! リエーフの顔がぱあっとほころんだ。そんな表情も出来るんだね。
イケメンの喜びの笑顔ってすごい。
「それでは師匠を……?」
師匠? リエーフの師匠?
「そうだ、リエーフ。お前をそこまで育てたのだ。後進の指導を任せるならあの方が適任だろう。今どこにいるのかわからないが、呼び戻す最後のチャンスかもしれない」
リエーフの師匠を呼び戻す?
「その――リエーフの先生は、祖父の代の騎士だった方よね?」
確か、谷底に突き落とすような指導方針の方だったよね?
リエーフを森に置き去りにしたとか言ってなかった?
やだ、怖い!
「はい。いささか高齢ではありますが、彼以上の適任はいないと存じます」
レイモンのこの一言で決まってしまった。
ライオンの親のような指導者を迎えることと、ついでに五大計画でいくことが。
後は公爵の返事次第だけど。
ふっふっふっ。スタートする日が未定なだけ。早速工程表に落とし込む作業を始めよう!




