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【書籍化&コミカライズ】転生した私は幼い女伯爵 後見人の公爵に餌付けしながら、領地発展のために万能魔法で色々作るつもりです  作者: もーりんもも
第二章 領地を改革します

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152 順調な進捗

 シェリルには特別待遇で、フィッティングしながら騎士服の制作を行った。

 表向きは、教えてもらったサイズで仮縫いしたという(てい)で試着してもらい、ローラに「ここは少しだけつめた方がよいですね」などとまち針を打つふりをしてもらい、その実、私が成形魔法でサッと縮めていたりした。

 気づかれないように脱いでもらうのに神経を使ったけどね。ローラが。



 試着が終わったときには完成していたんだけど、一応制作にそれらしく時間がかかったように見せるため、結局、試着から二日後に制服を渡してもらった。

 リエーフにそれとなく様子を聞くと、問題なく馴染んでいるらしい。

 どうも、『()()アレスター様』と、シェリルはおかしなフィルターがかかった状態でアレスターを認識しているらしく、その尊敬する姿勢がリエーフたちには微笑ましく映っているようだ。

 なんだかなぁ……。


 ちなみにシェリルはリエーフの交代要員で私の護衛になる予定だけど、正式な着任は王都に行ってからになった。

 公爵に相談するまでもなくレイモンがそう決断した。


「確かにシェリルの人柄は良さそうですが、本当に信用できるかどうかはすぐには判断できません。それに女性ですから結婚を機に領外に出ることもあるでしょう。彼女がこのままモンテンセン伯爵家に留まり、長く仕える気があるかどうかはっきりするまでは、マルティーヌ様の成形魔法については秘匿すべきだと考えます」


 レイモンに真面目な顔でそう言われたら、「そうね」と言うしかない。同意の一択。

 私の魔法のことを知っているのは、レイモン、ドニ、ローラ、リエーフの四人。

 私が意識を取り戻したときに駆けつけてくれた一軍メンバーだ。ドニは公爵邸でのことがあってから故障者リストに入っているけどね。

 

 アレスターやディディエ、マークは二軍で成形魔法の秘密は明かしていない。

 アルマやケイトら使用人たちには土魔法だと言いくるめている状態だし。何気にセンシティブな案件だよね。

 まあどのみち王都に行ってからの話だし、今は置いておこう。

 だって、だって、今日の午後は完成したオーベルジュの視察なのだ! 

 フライングで一部内見しちゃったけれど、やっぱり完成してからの内見は別物だもんね。




 視察の同行者はローラとリエーフの二人だけにしてもらった。

 もし直したいところを見つけたら、職人さんたちに隠れてちょこちょこっと魔法で直しちゃうかもしれないから。


 オーベルジュに到着するとクエルが待っていた。

 私が馬車から降りると、ペコリとお辞儀をして、「お待ちしておりました」と挨拶してくれた。


「今日はよろしくね」

「…………はい」


 ズコッ。思わずコケ芸をしちゃいそうになった。

 そうだった。はいはい。この()ね。


 そんなことよりオーベルジュ!

 今日は天気も良くてまさに五月晴れ!

 並々と水をたたえたプールにはオーベルジュの白い外観が映っていて、とっても綺麗!

 この前まであちこちに散らばっていた道具類や資材なども全て片付けられていて、美しい建物だけが輝きを放っている。

 

「素敵だわ。素晴らしい仕事ぶりだわ。そういえば、あなたのご担当は?」


 クエルは大工には見えない。内装の職人風でもない。『工事関係者』としか聞いていない。


「…………はい。私は、建物の詳細な図面を起こして、設計図通りに建築されているか確認する仕事を担当しております」


 あーあれか。一級建築士みたいなものだね。


「それでは、専門家のあなたのチェックは問題なく完了して、引き渡しできる状態になったということね?」

「…………おっしゃる通りです」


 クエルが喋り出すのを待っていると、待ちきれずに体が傾いてやっぱりコケそうになる。

 それでも気を取り直して、全ての部屋を見て回った。

 一歩中に入れば、木材の、新築特有の匂いがしてテンションが上がる。


 レストランにワークショップスペースに調合室。二階の客室に離れの従業員寮。

 施主が領主ということもあって、気合を入れてくれたのだろう。

 窓や扉の開け閉めも問題ないし、壁紙も綺麗に貼られていた。

 さすがにビー玉を転がさなくても傾いたりはしていないはず。そこは信じる。

 

「案内ありがとう、クエル。注文通りに完成しているわ。納品の確認書はレイモンから受け取ってちょうだい」

「…………承知いたしました」

「後は適当に見て帰るので、あなたは先に帰ってちょうだい」

「…………?」


「先に帰れ」と言われて、ハテナ? と首を傾げるまでも時間がかかるのか。


「あなたの今日の仕事は終わりよ。問題ないことを確認できたのだから。私は一人でオープン後の構想を練りたいの」

「…………承知しました。それではお先に失礼いたします」


 クエルは最後まで「本当にいいのかな?」と半信半疑だったけれど、私がじいっと去るまで睨んでいたから観念して帰って行った。






「ふう」


 私の狙いにローラは当然気がついていた。


「また作業なさるのですか?」


 と聞かれてしまった。

 そう。

 オーベルジュの中に入る前に、クエルの視線が道端の瓦礫の方へ注がれていたんだよね。

 彼の口が、「これはもう片付けてよいでしょうか?」と伺いを立てるように動きそうな気配を感じたから、無視して、「参りましょう」と歩きだしたのだ。

 クエルの話し始めの間が開いててよかったよ。


「ほんの少しだけよ。ここから見える範囲だけ――大通りに交わるところまで石畳風に延長するだけ」


 ローラが「はぁ」とため息をついているけれど何も言わないので、「えいやあっ」と済ませちゃう。

 もう目をつぶっていてもできそう。

 瓦礫の山の先端を指先で触ると、あーら不思議。あっという間に白っぽい石畳の道が大通りまでできあがった。


「マルティーヌ様、お手を」


 すかさずローラが手を拭いてくれる。


「ありがとう。ねえ、せっかくだからKOBANも見てみましょう」


 大工たちが現場を移して鋭意作業中のはず!




 KOBANに向かって少し歩いただけで、カンカンカンとあちらこちらから木材を打ち付ける音が聞こえてきた

 いいね! いいね!

 

 私に気がついた大工の何人かが手を振ってくれたが、すぐに作業に戻った。

 オーベルジュ建設中に口が酸っぱくなるくらい、「挨拶は不要なので手を休めず働いてほしい」と言い続けた成果だ。


 待合室は後回しでいいので、二階の居住部分を含めKOBANを先に完成させてほしいとお願いしたから、案内板や掲示板の奥は空き地のままだ。

 その空き地に馬車が停まっており、御者らしき人物とこざっぱりした男性が何やら話している。


「マルコムさんです」


 こざっぱりした後ろ姿の人は誰なんだろう? と思っただけなのに、それを察したローラが即答してくれた!

 ほんと、ローラの侍女ステータスが爆上がりしているよ。


 私たちの気配を感じ取ったのか、マルコムがこっちを向いた。

 そういえば、マルコムは屋敷の中でたまに見かける程度で、本人とちゃんと話をしたことがなかった。


「ご苦労様、マルコム」


 私はただの挨拶のつもりだったのに、マルコムが声にならない叫び声をあげたように見えた。

 何事?


「マルティーヌ様。よいところにお越しいただきました。あ、こちらは定期運行馬車の御者のゴズビーです」


 突然紹介されたゴズビーが私を見て、「ひぃ」と固まっている。

 ローラが咳払いをして、「『マルティーヌ様』とお呼びしてよいと周知されているはずです」とチクリと刺した。


「はっ、りょっ、ま、マルティーヌ様。お、お日柄もよく、その――」


 駄目だこりゃ。


「そうね。いいお天気ね。コホン。ねえ、マルコム。二人で話し合っていたっていうことは、運行時間の相談かしら?」

「はい。よく利用しているカントリーハウスの使用人たちに話を聞きまして、皆さんが納得してくれた時間を決めたので、この時間で往復できるかどうか確認していたところなのです」

「まあ! 時刻表ができたのね! それで?」

「はい。運行に係る時間も問題ないようですので、レイモンさんに確認していただいてからマルティーヌ様に報告しようと思っていたところです」

「そうなのね。見せてもらえる?」

「はい」


 おぉぉー。使用人のシフトがよくわかる表だなー。


「念の為レイモンにも報告しておいてね。案内板に掲出する時刻表は私が作成するので、時間だけわかればいいの。それよりも、せっかくだから、行き先プレートを作ろうかしら」


 ローラが、ムムムと難しい顔をしている。

 また私が思い付きで何かしようとしていると警戒しているみたいだけど、全然大したことじゃないから。


「まだちゃんと告知していないけれど、将来的には観光客にこの馬車を利用してもらうつもりなの。定期運行ルートも増やすつもりよ? まあ、まだまだうんと先の話だけど。でも、うちの定期運行馬車って差別化を図るためにも、馬車の前後の見やすいところに、行き先を書いたプレートを掲げてほしいの」


「ほしいの」と言いつつ決定事項なので作っちゃうけれど。


「私は土魔法の使い手だから木製の物も簡単に作れるのよ?」


 相手が平民なのをいいことに自信満々に(うそぶ)く。

 マルコムもゴズビーも、「何ですかそれ?」と言いたげだ。


 まあまあ見てもらえばわかるから。

 馬車にそっと触れて、まずは木製の板を取り出す。そしてそこに、『領主館行き』と焼き付けるようなイメージで文字を刻む。


「ほら。まずはこのプレートを前と後ろの、そうねえ、この辺りに掲げましょうか」


 そう言って、馬車の上の方にフック状の物を作り、プレートの中央に穴を開けて差し込む。

 自分で言うのも何だけど、これだけ好き勝手に作れるなんて、成形魔法というよりも最早『創出魔法』に近い気がする……。


 ローラの視線が熱光線(ビーム)に変わりそうなので、いつもの、「後はよろしく」と言い残してさっさと帰ることにした。

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