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【書籍化&コミカライズ】転生した私は幼い女伯爵 後見人の公爵に餌付けしながら、領地発展のために万能魔法で色々作るつもりです  作者: もーりんもも
第二章 領地を改革します

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121 王妃 VS. ダルシーさん

 国王はベタな王冠なんか被っていなかった。波打つ金髪を肩に垂らしている。

 でも新婦みたいな登場の仕方を見て思わず笑いそうになってしまった。

 結婚式で新婦の長いベールを子どもたちが持って後をついていくみたいに、男性使用人が王様のローブの裾を左右から持って歩いていたのだ。



 玉座の前で、国王と王妃と王太子が並んで立った。

 これでもかというくらいに皆の注目を集めたところで国王が話し始めた。


「我が国の輝かしい歴史に、また新たな一年が刻まれる。昨年と変わらず皆の顔を見られたのは誠に喜ばしいかぎりだ。ここにいる全ての者たちが、我が国に更なる繁栄をもたらせてくれるであろう」


 「おおっ」という低い声と共に盛大な拍手に包まれた。

 会場の反応に気を良くしたらしい国王が玉座に座ると、使用人の手によってローブの裾が丁寧に床の上に置かれた。

 そして横に座った王妃はというと――かなりの美人だ。目鼻立ちが整っている。整ってはいるんだけれど、『華』があるのはダルシーさんの方だなぁ。

 人目を引く派手さもダルシーさんが勝っている。


 王太子は国王と同じ金髪に金瞳だ。文字通りの王子様。かなりのイケメン。

 確か十五歳だったはず。でも身長は百七十センチくらいありそう。高校の格好いい先輩って感じかな。


 ……ヤバい。油断してしまった。顔は大丈夫だった?

 公爵からもダルシーさんからも特に視線は感じない。セーフ。


 隣の方で動きを感知したけど、ここは正面を向いたままでいなくちゃね。

 どうやらロラン家の面々が国王の前に進み出たみたい。


 後方の貴族たちは自分たちの順番はまだ先だと油断したようで、もう私語を始めている。

 ロラン家の方々は国王の前で、「苦しゅうない」「おめでとうございます」みたいな会話をしている。

 結構短めな挨拶なんだ。


「次は私たちだぞ」


 おっと。公爵にそう囁かれて再度表情を確認する。うん。『デフォルト』できてる。よしよし。




 ロラン家の方々の挨拶が終わり、入れ替わりに私たちが国王の前へと移動する。

 なぜか、公爵、私、ダルシーさんの順だ。肩書きのないダルシーさんより私が上――やっぱ『領主』って偉いんだね。


「国王陛下に新年のご挨拶を申し上げます。国王陛下におかれましては、今年も心身共にお健やかに過ごされますよう心よりお祈りいたします。私どもは経済面から国の発展に貢献できるよう邁進して参る所存です。ここにいるモンテンセン伯爵も新たな経済活動を始める準備をしている最中でございます」

 

 なんか、賀詞交換会で聞くようなセリフだな。

 ってか、私の『新たな経済活動』って、どこまでのことを言っているの?! ケチャップの商売の話? まだオーベルジュの詳細は話していないけど……?


「ほぉ」


 いやいや。国王もそんな顔で見ないでよね。私、見ての通りのただの小娘ですから。

 あっ! 今か!


「国王陛下にご挨拶させていただけます機会を得られましたこと、まずはお礼申し上げます。昨年、父ニコラ・モンテンセンより家督を継ぎましたマルティーヌ・モンテンセンでございます。新年祝賀パーティーにご招待いただきまして、誠に光栄に存じます。後見人であるフランクール公爵閣下のご指導の下、領地を適切に治め、国王陛下に誠心誠意お仕えいたす所存にございます」


 やった! 噛まずに言えた!

 ……あれ? 国王がなんだかつまんなさそうな顔をしている。


「はあ。フランクール公爵に任せるとこうなるのか。モンテンセン伯爵よ。そなたは確かまだ十二歳だったな。もっと年相応の挨拶でよいと思うぞ?」


 え? 気に入らなかったってこと?


「もっと顔をよく見せてちょうだい」


 おぉぅ。王妃が横から口を出してきた。

 すると国王は、「私はここまで」みたいな顔をして私から視線を逸らした。

 つまり王妃の相手をしろってことだよね? でも、対応していいんだっけ? 返事せずに『微笑』を向けていればいいのかな?


 …………!!

 うぅぅっ!!

 どうしよう!?

 公爵が動かないから私はその場でちょっとだけ、ほんのちょっとだけ王妃の方へ動いて挨拶しようとしたんだけど、なにしろ急なことで、しかも想定と違ったので、頭と体がうまくリンクしなかったようで……。


 何が言いたいのかというと、ほんの数センチ動かそうとしただけなのに、左足の靴が脱げてしまった。

 咄嗟につま先で体を支えて表情を確認!

 あっぶな。

 慌てて履きなおそうと、つま先でそそそと靴を探ったのに足元に無ぁーい!

 なんで? いったいどこにいった?

 もちろん視界にはないので、ドレスの下で転がっているんだと思う。

 でも今って絶対にガサゴソ動いちゃいけないはずだし。


 私、去年はものすごく頑張ったのに。自分のためじゃなくて領民のために頑張ったのに。

 徳を積んでいたと思ったのに! いざというときは利子付きでラッキーを引き出せるんじゃないの?!


 くぅ……公爵に「ヘルプ!」って伝えることもできない。

 でも挨拶が終わって辞するとき靴だけ残して行けないよ!

 仕方がない。誰にも気づかれないように右足で踏ん張って、左足を浮かせて爪先でそろりそろりと探った。

 すぐに靴に当たるかと思ったのに、全然触れない! どうして! 転がったりしていないと思うのに!

 ムムッ!

 あ! 王妃と目が合った。あれ? 私が何か言うターンだっけ?



「王妃陛下におかれましてもご機嫌麗しゅう」

「あなたもね」


 あー、よかった。公爵が王妃に挨拶してくれた。

 私も靴の捜索を一時的に中断して、『微笑』をセットしたまま、隣のダルシーさんの動きに合わせて彼女と一緒にゆったりとした動作でカーテシーをした。


 王妃はすぐにダルシーさんの方を向いて声をかけた。


「前公爵夫人」

「王妃陛下」


 ……ん? 何だ、この空気は?

 お互いに名前を呼び合っただけで会話が始まらないって、どういうこと?

 え? ダルシーさん……?

 ここは目下の方からご機嫌を伺いにいくところじゃないの?

 ちょっとだけ……ちょっとだけダルシーさんの顔を覗いてもいいかな?

 私は『微笑』をセットしたまま、素早くダルシーさんの表情を窺った。

 ひぇー! なんかニマニマしてるー!


 何かが始まっているの?

 いや、そんなことはどうでもいい。靴を見つけなきゃ!

 王妃の視線がダルシーさんへ向いているので、そっと公爵の腕に掴まって体を支え、少し範囲を広げて左足を動かした。

 あったー! 後ろか! 後ろに転がっていたのか。

 とりあえず右足と右手で体を固定し、左足で靴を引き寄せた。

 あとちょっとで履けそう。顔は正面を向いたまま、全神経を左足に集中させる。


 ダルシーさんが何か喋って時間を稼いでくれないかなーと期待したけど、なぜか、いまだに沈黙している。

 うわぁ……。王妃がピキッてなってる。

 公爵は? 公爵が何とかする係でしょ? なぜに知らんぷり?

 あー、あれか。緊張関係にある女性たちには触らないでおくにかぎるという自己防衛か。


 えーと、ダルシーさんの方が王妃よりも年上だったはず。

 学生時代の序列って卒業後もそのままなことがあるけれど、さすがに身分に明らかな差がついたわけでしょ?

 ここはやっぱりダルシーさんが折れるべきなんじゃないかな――――と思っていたら、王妃の矛先がまたしても私に向いた。


「モンテンセン伯爵。パトリックが描いた姿絵からは随分と成長しているようだけれど、田舎暮らしというものは成長を加速させるのかしら?」


 いや、ちょっと! まさかの王妃が降参?! 目の前のダルシーさんをいないものとして扱っている?

 やだ、怖い。八つ当たりとかしてこないでくださいね。

 そして今度こそ私は口を開くべきなの?!

 あっ、履けた! 慌てて公爵の右腕から手を離す。


「まあ……パトリック兄様ったら腕が鈍ったのかしら? それとも王妃陛下のご寵愛をいいことに手を抜いたのかしら?」


 うわぁー。私が返事するべきところをダルシーさんが強奪したことに王妃はギョッとして、その後すぐにムッとした。

 あー、確かパトリックって、「王妃専属の絵師って言ってもいいくらい」だって言っていたもんね。

 自分が可愛がっている絵師を(けな)されてムカついたのかな?

 いやー、でも、いくら兄だからって王妃のお気に入りをそんな風に言うなんて……ダルシーさん、大丈夫なの?


「モンテンセン伯爵。()()()()のよね?」


 ひぇー! 私に「はい」って言えと、王妃にめちゃくちゃ凄まれてるんですけど!


「まあ、まさか! いくら成長期とはいえ、一月(ひとつき)やそこらで変化するはずがございませんわ。ほほほほ」


 ダルシーさんの上品な「おほほほ」がなぜか高笑いに聞こえる……。

 あー、王妃が扇子をぎゅうっと握って、目を吊り上げた。ヤバい。ヤバいんじゃない? 不敬罪とか、そういうのじゃない?


「モンテンセン伯爵は十二歳ですのよ? あら、私としたことが! 挨拶が終わったらお菓子を食べてもいいと約束していたんだったわ」


 え? 何の話? と思わずダルシーさんの方を向いてしまった。

 ダルシーさんの目が、「ここは私に任せてお前たちは先へ行け!」みたいなことを言ってる!

 では、ここはお言葉に甘えて。

 公爵もそのつもりだったらしく、目に入らなかったかのように優雅にスルーして歩き出した。


 うぉぉぉ。何だろう? これはいったい何戦? 私はもう一度カーテシーをして公爵にピタッとくっついていく。

 まあ、王族方への挨拶を待っている人々のために、お付きの誰かが「はい、次の方」ってダルシーさんを剥がしてくれるよね。

新連載始めました。

「ピンクブロンドの男爵令嬢ですが乙女ゲームなんて知りません」

コメディタッチの作品です。主人公にざまあする意図はないのですが、勝手に自滅していきます。

よろしくお願いします。

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追放された悪辣幼女の辺境生活 〜チート魔法と小人さんのお陰で健康で文化的な最高レベルの生活を営んでいます〜
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