111 卒業試験①
来週2/14(金)に2巻が発売されます!
書き下ろし番外編も収録されていますので、よろしくお願いします。
コミカライズ企画も進行中なのでお楽しみに!!
「マルティーヌ様……とっても可愛らしくていらっしゃいます。公爵閣下から贈られたドレスをお召しになって公爵家のお茶会に出席されるなんて……まるで婚約披露パーティーのようですね」
ローラがトンチンカンな妄想で感極まっている。
そんな甘いものなわけがないでしょう!!
公爵がプレゼントしてくれたドレスを着て、卒業試験というお茶会に今から出向くというのに。
私は今朝目が覚めたときからずっと、自分自身を鼓舞しているというのに。
朝食も昼食も、食べたかどうかさえ思い出せない。
「ローラ。わかっていると思うけれど、このお茶会でダルシー様の合格がもらえなかったら再履修なのよ?」
「さいりしゅ……ええと、はい。マルティーヌ様なら大丈夫です。あれだけ頑張られたのですから!」
「ありがとう」
「さあ、参りましょう」
「ええ」
なぜかローラは私の合格を疑っていないみたいだけど、その謎の自信はどこから来るんだろう。
あー緊張する。
お茶会の会場となったのは、この屋敷にいくつあるかわからない応接室の一つだった。
アーロンさんに案内されるがまま部屋に入り、勧められた椅子に座る。
一番乗りかと思ったけれど、部屋の隅に弦楽器を持った音楽家が三人スタンバイしていた。
生演奏付きのお茶会なんだ……。
部屋の奥の真ん中には、いつもダルシーさんが座っているような三人がけの豪奢なソファーがあるから、そこが彼女の指定席だろう。
そのすぐ左側の椅子に座らされた私。ダルシーさんとの会話とかも審査対象なの?
ローラは壁にピタッと張り付いた途端、無になっている……。
とりあえず『デフォルト』をセットして待つ。
ドア越しにガヤガヤと話し声が聞こえたので、私も心の中でゴングを鳴らす。ファイッ!
ダルシーさんを先頭に、次々と着飾った女性たちが部屋に入ってきた。最後に表情とダンスの先生が二人入ってこられたので、ちょっとだけ気持ちが緩んだ。
もちろん私は立って出迎えている。
ダルシーさんが三人がけのソファーの真ん中に座り、スカートがソファーいっぱいに広がったところでご挨拶。
「ダルシー様。本日は私のためにこのように素敵な茶会を開催してくださりありがとうございます」
「まあ、そんなに畏まらなくて大丈夫よ。今日は内輪の集まりなのだし。それよりも紹介させてちょうだい。さあ皆様。今日はこちらの可愛らしい伯爵を皆様にご紹介したくてお集まりいただいたの」
一斉に注がれる視線を『微笑』で受け止めてから、優雅にカーテシーを披露する。
「お初にお目にかかります。マルティーヌ・モンテンセンでございます。このような晴れやかな場にお招きいただき光栄に存じます」
『微笑』を貼り付けたまま、さっと他の客たちの反応を窺う。
私の『微笑』に微笑を返してきた面々は、まるで申し合わせていたかのように波状攻撃を開始した。
「まあ。モンテンセン伯爵領といえば、領地が野菜で覆い尽くされているところだったかしら?」
「ご両親が早くに亡くなったのですって? いったいどうしてそんなことに?」
「随分と小さくていらっしゃるけれど、おいくつなのかしら?」
「伯爵ねえ……。まあお飾りにしてはよくできていること。話題性だけはあるようね」
耐えろ……私。『微笑』をセット。『微笑』をセット。『微笑』をセット――って、これってまるで圧迫面接じゃん!!
ここでダルシーさんの顔色を窺うわけにはいかない。これは彼女の筋書きだろうから、お茶会が終わるまでは我慢だ、我慢。
四人程度なら発言者の顔を覚えるのは簡単。
発言した順に真正面から顔を見て答えていく。
「仰せの通りモンテンセン伯爵領の主な産業は農業でございます。ですが、これからは新しい産業も興すつもりです」
「病に倒れた両親のことを思うと、今も胸が痛みます。ですが領主となったからには悲しんでばかりもいられません。立派な領主となるべく、後見人のフランクール公爵のご協力をいただきながら励んでいるところでございます」
「私自身もこの身長には物足りなさを感じておりますが、十二歳です。早く背が伸びてほしいものですわ」
「あまり外見を褒められたことがございませんので、お褒めにあずかり嬉しいかぎりです」
どうだっ!
とりあえず反論などもないようなので、お行儀よく腰掛けて『微笑』をセットしたままお茶を一口飲んだ。あ、美味しい。でも緊張を緩めるわけにはいかない。
ダルシーさんは一言も発することなく、優雅にティーカップを持っている。




