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魔法使いが愛したロボット  作者: 駿河留守
第1章 魔法使いとロボット
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3話 - ボタンの魔法①

 ハチが着ていたシャツを脱ぎました。ハチの上半身は一般的な成人男性並みの肉質をしていますが、ロボットですので見かけだけで実際は重機並のパワーを出すことができます。ハチがシャツを脱いだのは若く健康な男性の体を女性にキャーキャー言わせるためのサービスシーンのためではありません。着ていた服を洗濯するために着替えていただけです。ハチはロボットですので、人間のように汗をかくことはありません。ですので、あまり臭くなりませんが、イズミに「生理的に1週間も同じ服着てるとかありえない」と言われたのでやむを得ず着替えています。着替えはイズミに二千円借金をして買ってきたものに着替えます。

 するとジーっとハチはイズミの視線を感じました。

「俺の体に何かついてるか?」

 そう尋ねるとイズミはハチの体の何かをジーっと見つめながら近づいてきました。

 イズミが気になるのはかすかに四つに割れている腹筋のようです。

「ハチ君って本当にロボット?」

「ロボットだけど?」

 人間は簡単に腕を外すことはできませんし、外れた腕を戻すこともできません。それに足からブースターも出てきませんし、空も飛ぶこともできません。

「体つきを見てるとどこからどう見ても人間だよね」

「まぁ、今のところ誰にもロボットって疑いをかけられたことは…ないな」

 一瞬、言葉を詰まらせたのはバイト先の落ち武者店長にロボットみたいだと言われたことがあったからです。それは冗談であることはわかっているようです。

「へぇ~、そうなんだぁ~」

 そう言いながらゆっくり上半身裸のハチに近寄ってきて腹筋を触ろうとします。それをハチは逃げるように離れます。

「なんで逃げるの?」

「なんで触ろうとした?」

「女の子はね、きれいな体つきを見ると触りたくなるものなんだよ。腹筋とかおっぱいとか」

 触りたくなるきれいな体つきに性別は問わないようです。

「それとね。もう一つ気になることがあるのさ」

「なんだ?」

「…その腹筋ボタンになってない?」

 ハチはさらにイズミと距離を置きました。イズミには前科がありました。初めて出会った雪がシンシンと降り注ぐ寒い日に足のボタンを勝手に押されてハチはひどい目に逢っていました。

「ボタンなわけないだろ」

 と否定します。

「ロボットは人間に嘘ついたらダメなんだよ」

 嘘のような常識をハチにすり込もうとします。

「ロボット三原則で自身の防衛機能が働いただけだ」

 そうハチは説明しました。いえ、説明してしまいました。

「防衛機能が働いたということは…それ、ボタンなんだね」

 イズミはまるで子供のように目をキラキラと輝かせてハチに再接近してきました。

「ぼ、ボタンだ!だが、今は押しても何も起こらない!」

 腹筋のボタンを押そうと襲おうとしているイズミから逃げなら説明します。

「イズミにはまだ話していないが、俺は体内で精製したエネルギーで動いているが、燃料不足とかで著しくエネルギーが低下した場合、外部の人間に俺をメンテナンスしてもらうためのボタンがある。だが、そのボタンは外部から信号か、極度にエネルギーが低下したとき以外は押しても反応しないようになっている!」

「だったら、試しに押させてよ!」

「ダメだ!押しても反応しないとはいえ、無駄に押して動いたら面倒だろ!」

「えいや!」

 イズミの瞳がうっすらと空色に変わりました。と同時にハチの両腕が全く動かせなくなりました。

「な、なんだ!」

「ふっふっふ」

「イズミ。何をした?」

「ハチ君の両手の空間を固定した」

「はぁ!?」

 通常の魔法使いは物理法則に介入することができません。しかし、イズミはなぜか介入できます。それはどうしてなのか教えてくれません。

 そんな超常現象など今のイズミには眼中にありません。

「ボタン…ボタン…」

 よだれを垂らしながら人差し指でハチの右上の腹筋を押しました。

「………何も起きない?」

「だから、意味ないって言っただろ」

 ハチの視界に表示されているエネルギーメーターは半分より少し高い位置に表示されています。エネルギー不足ではないため、ボタンは機能していないはずでしたが、突然WARNING!という表示が出てきました。その表示の下にRIGHT ARM ATTENTINO!と表示されています。

 つまり、警告!右腕注意!

「はぁ?」

 思わず、右腕のほうを確認しました。何も起こっていません。ボタンは作動していたのです。何も起きていないのはイズミがハチの右腕の空間を丸ごと固定しているからです。しかし、右腕の固定を解除した瞬間、何かが起こります。

「右腕がどうかした?」

「い、いや。何でもない」

「…もしかして、何か起きる!」

 イズミの左の瞳が元の色に戻りました。と同時にハチの右腕の肘から先が火を噴いて飛んでいきました。

「ろ、ロケットパンチだ!」

 と興奮しているイズミですが、飛んで行ったハチの右腕が壁に激突して方向を変えてイズミの顔面に直撃しました。

「だ、大丈夫か!」

 あまりに突然のことでイズミは悲鳴も上げずその場に崩れ落ちました。

 ハチの右上の腹筋を押すと右腕が発射されるようです。

 顔面にめり込んだ右腕を投げ捨てながらイズミは文句を言います。

「ロボットは人間を傷つけないじゃないの!」

「今のは自業自得だろ!」

 人間が勝手に操作して自爆しただけです。ハチのせいではありません。

 しかし、この程度でイズミはめげませんでした。

 ハチの左腕を真横に向けました。

「これで飛んでも跳ね返ってこまい」

「それはどうかな?」

「うるさい!ポチっとな!」

「押すな!」

 イズミが左上の腹筋を押すとハチの視界に今度は左腕注意の表示出ました。エネルギー量的にはボタンは作動しないはずですが、なぜか作動してしまいます。

「よし。左腕解除」

 今度は慎重に魔法を解きました。魔法を解くのと同時にハチの左腕が飛んでいきました。勢いは右腕と変わらずすさまじく、壁に激突すると軌道を変えて天井にぶつかって窓に突き刺さって止まりました。

「おー!すごい!」

 とわんぱく少年みたいに興奮しているイズミの脳天に吊下げ灯が落下してきました。

 がっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!と派手な音が鳴りました。

「いったぁぁぁぁぁぁぁ」

 どうやら飛んで行ったハチの左腕が部屋の吊下げ灯のヒモを切ったようです。

「痛いじゃないか!」

「自分のせいだろ!」

 吊下げ灯が直撃してもイズミは平気なようです。

 ハチは飛んで行った両腕を回収してもとに戻します。

「なんでボタンが作動したんだ?故障か?」

 自己メディカルチェックをかけます。すると一件エラーができました。

「まじか…」

「どうしたの?」

 涙目でイズミは頭をなでています。治癒魔法で怪我を治している最中でした。たんこぶができたのでそれを治しています。

「バグでボタンの電源が入りっぱなしだ」

 本来ならエネルギー量でボタンが使えるようにシステムを組んでいるのですが、バグでそのボタンが常に使える状態になっていました。こういった場合はシステムのメンテナンスをしないといけませんが、ハチ自身はそれを行うことができません。できるとしたら生みの親である水道橋博士だけでしょう。

「直せないじゃん…」

 ハチにはほかにも複数ボタンが存在します。それらがすべて押せる状態になっています。完全に押す動作で押さないとボタンは作動しませんので、日常生活に支障はありません。ただ、問題はイズミです。

 落胆するハチは振り返るとよだれを垂らしながらイズミが接近してきました。

「な、なんだよ?」

「ほかにもボタンがあるんだね」

「あるけど!絶対に押すなよ!」

「ハチ君。そのセリフはね、絶対に押せって意味なんだよ。人間の間ではね!」

 イズミはハチを押し倒します。両足に腰かけて両手は先ほどと同様に魔法で空間事固定しました。

「ちょっと何するんだ!」

「ボタンを押す!」

「だから!押すなって!なんで押すんだよ!」

「ハチ君は知ってるかい?」

「何を?」

「この世界には魔力を必要としない魔法があることを…」

「そもそも、魔法を使うのに使う魔力って何?」

「そんなことはどうでもいい」

 どうでもよくはありません。まだ、魔法のシステムを誰も理解していません。

「ボタンには魔力が宿っているんだよ。それはなぜか押したくなるっていう!」

 確かにそれは魔法ですね。絶対に押してはいけないと言われたボタンを押したくなってしまう衝動は皆さんも経験したことがあるのではないでしょうか?そういった現象のことをカリギュリ効果というようです。禁止されるほどやってみたくなる心理現象のことです。

「次はこれを押してみようかな!」

 今度は四つに割れている腹筋の下部分を同時に押しました。

 しかし、空間が固定されているため、何も起こりません。

「魔法解除したらどうなるの?」

 過去の経験から自分に被害が被る前に何が起こるか知っている本人に尋ねます。

「…足が飛ぶ」

 と若干不機嫌そうに答えました。すでにハチの視界には足が飛ぶから注意せよと警告文が表示されています。

「少し離れて見学すれば大丈夫かな?」

「どうだろうな」

 正常であれば、自分の意志で飛ばすことができるので、軌道をある程度制御することができます。しかし、今は外部から強制的に動かされているので、制御することができませんし、さらに体も魔法で固定されているので、もはや運に任せるほかない状態です。

「よし!解除!」

 と同時にハチの膝あたりから火を噴いて体が真上に飛び上がり天井に突き刺さりました。

「アハハハハハハハハ!!」

 間抜けな姿に大爆笑するイズミ。でしたが、足は火を噴いて床の上で暴れていました。

「こっちはねずみ花火みたい」

 余裕をかましていました。

 しかし、暴れている足が上を向くと部屋の中を縦横無尽に飛び回り始めました。

「わぁ!ちょ!」

 間一髪のところでよけましたが、飛んで行った腕と同様に壁にぶつかり、反射してイズミのもとへ一直線に飛んできました。

 で、イズミの腹に直撃しました。まるで飛び蹴りでも食らったかのように。

 その場でうずくまりました。天井に突き刺さったハチは重みでそのまま落下してきました。

「…魔法は解けたか?」

「い、いや。まだだよ」

 胃袋の中身が全部出てきそうになるのを必死にこらえながら立ち上がります。イズミはまだ押してみたいハチのボタンが何個かありました。

「まずはこれだ!」

 ハチの首元にはホクロがあります。それを思い切り押すとボタンでした。

「待て!それは!」

 止めようとしましたが、すでに遅かったようです。

 ウィーン、カチャっと、ハチの口が大きく開くと口からノズルが出てきて轟音と共に衝撃波が部屋中に走りました。居間の窓ガラスが衝撃波で全て砕け、ノズルから砲弾が発射され、ドカーンと轟音を立てて壁に直撃して爆発して壁が無くなり隣の台所へ行く新しい入り口が出来上がりました。

「…魔法は解けたか?」

 冷や汗が止まらないイズミでしたが。

「い、いや、まだだよ」

 建物が倒壊しないか心配になってきましたが、探求心を抑えられないイズミはハチの手の甲の人差し指の関節の出っ張りを強く押し込みました。すると人差し指の指先が割れて、キュイイインという甲高い音が鳴り響くとビュイーンと光線が発射されテレビに直撃しました。

 ドカーンと派手な音を立ててプスプスと音を立てて煙を上げています。

「そ、そろそろやめないか?」

「い、いや!まだ、押したいボタンがたくさんあ」

 る!まで言い切る前に握っていたハチの手の甲の関節の出っ張りを押してしまいました。押したのは中指と薬指の関節でそれらの指先が割れてビームが発射されました。中指のビームは先ほどの新しく空けた台所へ行く新しい入口を通って電子レンジに直撃し、薬指のビームは鏡に反射してイズミのお尻に直撃しました。

「熱っ!!!」

 お尻抑えてその場にうずくまりました。スカートが焦げてパンツが見えますね。パンツも一部が焦げてなくなってお尻が見えてしまっています。客観的に見てもすごく恥ずかしい格好になっています。

「ビームって鏡に反射するの?」

「俺も初めて知った」

 これ以上イズミを野放しにしていると団地が崩壊しかねないので、ハチはイズミの握る手と自分の腕をくっつけました。動かせるようになった腕で残りの近くに転がっていた足を元に戻していると時でした。

 ビームを直撃した電子レンジがプスプスと音を立ててバンっと破裂しました。そして、火が上がりました。

「な、なに?」

 イズミはお尻が丸見えなので立てません。

「い、イズミ!消火!」

 ハチは両足が近くにないので動けません。

 燃える電子レンジは先ほどの爆発の衝撃でゆっくり冷蔵庫の上から落下して流しの上に落ちました。そして、近くを走るガスコンロのホースを焼き始めました。それをハチの目に搭載されている高性能カメラがとらえていました。やばいってことを。

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