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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第11章 嵐
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6月21日 シェルブール市


 ドイツ第709歩兵師団長・シュリーベン少将は、古式ゆかしく砲弾に詰めて送り込まれた誘降ビラを、苦笑して眺めた。空中から撒きたいところ、航空機が飛べないためであろう。降伏を呼びかけるビラは少なくとも4カ国語で書かれており、半分以上はシュリーベンの読めない言葉であった。相変わらず、シェルブールには雑多な国籍の兵士がいる。


 アメリカ軍は奇妙にも、シェルブール市近郊に半円形に配置された外郭陣地を遠巻きにしたまま動こうとしない。どうやら弾薬の補給を待っているらしく思われた。それに、半島の西側からの部隊はひどく遅らされているし、東の端の包囲も完成していない。南方の戦線の様子は分からないが、なにか起こっているのかも知れない。


「最後の弾丸まで抗戦せよ、か」


 シュリーベンは、マルクス中将の指令を反芻した。ドイツ軍では聞き慣れない言葉であった。弾が尽きたら好きにしていいよ、と片目をつぶっているような指令である。片目をつぶったのは、シュリーベンとOKWの間に挟まる、どの将軍なのだろう。


 おそらくその将軍が指令したのであろう。本国との交通路が遮断される前に、かなりの物資がシェルブールから運び出された。弾薬も、である。


 どうせ時間稼ぎの死兵、と腹をくくったシュリーベンは、他の師団長と相談して、シェルブールへの撤退を早めに行っていた。重火器がもともと少ないのはどうしようもないとして、良いコンクリート陣地には十分な歩兵がついているし、主要道路の脇にはたいてい森林があって、抵抗の排除は容易ではない。


 シュリーベンには、7月中旬までは持ちこたえる自信があった。もっともそれ以上を命令する奴が居たら、この事態を招いた責任の所在について、なにか印象的な悪態をついてやりたい心境だったが。


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