6月17日 カーカニー村北方
「なめやがって」
兵士が残骸の横腹を蹴飛ばす。
戦車回収班が、道路上に放置されたイギリス戦車の残骸にワイヤーをかけ終わったところである。
「どれくらいかかる」
「30分もあれば」
昨夜の悲報を受けて前線に出てきた戦車旅団長に、修理中隊長は厳しい顔で答える。忙しくなりそうだ。
「爆薬は仕掛けてないな」
「はい」
「ではやってくれ」
中隊長の指示でけたたましく戦車回収車が動き始める。回収車と言うのは、要するに砲塔のない戦車である。ワイヤーのたわみが消える。
「ところで……」
轟音。旅団長は台詞を飲み込んだ。爆発物を厳しくチェックしたはずの残骸が四散したのである。飛び散った鉄片がばらばらと落ちてくる。いくつかの破片は戦車回収車の薄い上部防弾板を突き破って、凄惨な結果をもたらしている。
ドイツ軍は、重量物に対してだけ反応する対戦車地雷を、残骸のすぐ脇に埋めていたのである。イギリス軍は車両のブービー・トラップ(罠)には注意していたが、仕掛がすべて地中にあったので見落としてしまった。イギリス軍が残骸を回収しようとして、対戦車地雷の真上に残骸をずらしてしまったのである。
戦車旅団長と修理中隊長には幸いけがはなかった。さらに手に負えない形で広がった残骸を見ながら、旅団長は尋ねる。
「あそこにも残骸が道を塞いでいる。どれくらいで処理できる」
やはり道路上にうずくまるもう1台の残骸を見ながら、修理中隊長は答えた。
「明日までには、たぶん」
旅団長はしばらく立ち尽くし、やがてうんうんと頷いて、後方へ戻って行った。




