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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第10章 ライオン使い
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6月16日 カランタン市


「橋の一件は、聞いたよ」


 パットンは愉快そうにブラッドレー中将を迎えた。


「モンティがぺしゃんこになったそうじゃないか」


「そんなことを言い触らさないでくれよ」


 ブラッドレーは冷ややかに言い返す。


「わかっている。わかっているとも」


 パットンがわかっていないのをブラッドレーは確信していた。


 アイゼンハワーは天秤を調整したに過ぎない。アメリカ大統領官邸や統合参謀本部から不満の声が高まるにつれて、アイゼンハワーはそれがイギリス批判につながる前に、モントゴメリーを批判する必要を感じたのである。ブラッドレーは単にそれを理解しただけでなく、確かな情報源によってそれを直接確認していた。


 アイゼンハワーがイギリス軍に甘すぎると考えていたアメリカ軍人は多い。パットンはそのひとりとしてアイゼンハワーの一撃に拍手するだけで、同盟国との関係が依然最も重要で微妙な問題であることを理解していなかった。


「それで、俺の次の獲物はなんだ? バイユーか? カーンか? いっそパリか」


 パットンは上機嫌を崩さない。そのパットンに対してブラッドレーの払った遠慮は、ため息ひとつの沈黙だけであった。


「6月末ごろまで、君の第3軍にはコタンタン半島の防波堤になってもらう。ちと退屈だろうがシェルブールを先に片づけてしまいたい」


「わかった」


 視線が、それで、と言っている。


「ブルターニュ半島を掃討してもらう」


 パットンの上機嫌が吹っ飛んだ。


 フランスをひどく大ざっぱに、北を上にした正方形に例えよう。右の一辺がドイツ国境、上の辺の右半分がベルギー国境である。連合軍の上陸地点は上の辺の左から1/4あたりに上向きに突き出したコタンタン半島で、プルターニュ半島は正方形の左上の角である。


 パットンが失望した理由がお分かりいただけようか。ブラッドレーは、ドイツともパリとも反対方向にある地域を掃除してこい、と言ったのである。


 ブルターニュにはブレスト、ロリアン、サン=ナゼールといった良港がひしめき、やや遠くはあるが補給上重要である。加えて、これらはUボート基地でもある。もし基地そのものを占領できれば、Uボート封じに投入されている海空の資源を転用できる。パットンの任務は重要で、地味である。


「モントゴメリーの命令か、そいつは」


 パットンは噴火した。パットンとモントゴメリーは、前年のシチリア島上陸作戦のときに猛烈な先陣争いをやっている。島の中心都市を自分の名前で制圧しようと、モントゴメリーはパットンに遠回りな進撃経路を指示した。パットンは兵士を叱咤激励し続けて、モントゴメリーをほんのわずかの差で出し抜いたのである。


「いや、私の命令だ」


 パットンは驚き、そして思い当たった。


「君の上陸と連動して予定が繰り上がった。私は第1軍をホッジス中将に渡して、第12軍集団の指揮を取る」


 つまり、ブラッドレーはモントゴメリーと同格となり、アメリカ軍部隊はモントゴメリーの全般的指揮から離れる。そして、ブラッドレーは明確にパットンの上司となる。


「おめでとう」


 パットンは笑顔を見せて握手を求めた。ブラッドレーが悲しげなのを、パットンは自分への気遣いと取った。しかしブラッドレーは、モントゴメリーとパットンの戦域を隣り合わせにすまい、という配慮を分かってもらえないのが悲しいのであった。


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