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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第10章 ライオン使い
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6月15日 午後3時 ブッシー・パーク(SHAEF司令部)


「いかん、絶対にいかんぞ」


 ロンドンに飛んで帰ったモントゴメリーは、強硬に橋の破壊に反対した。


 第7軍管区と第15軍管区を隔てるオルヌ川は、イギリス軍の上陸地点のうち一番東のソード・ビーチの脇にあたる。というより河口の砂州がソード・ビーチそのものなのである。モントゴメリーの計画では、その両岸にイギリス第6空挺師団が降下して、いちばん河口に近い橋を確保したまま、ソード・ビーチからの上陸部隊を待つはずであった。それより上流にある橋は、ドイツ軍の増援を遅らせるためにしらみつぶしに爆撃、破壊する。


 ところがオッペルン=ブロニコウスキーらの素早い展開で、ソード・ビーチは失陥、第6空挺師団はまるごと捕虜になってしまった。計画通りに討ち漏らした橋はドイツ軍の貴重な補給路となって、夜ともなれば車両が次々にオルヌ川を渡っていく。6月10日にアミアン市から移動を始めたドイツ第2戦車師団が、14日には車両まで含めて川の西側に勢ぞろいするという事態に、連合軍上層部は憂慮を深めた。ロンドンはやはり橋を空爆しようか、という意見に傾いてきている。


 モントゴメリーの反対する理由は単純であった。8月以降、イギリス軍がドイツ国境への長いレースを開始する際、この橋の有無は進撃速度に大きく影響するのである。1本の橋を巡ってこれだけの高官が口論するのは、珍しい事態であった。


「上陸初日に占領するはずであったカーン市が、まだ攻撃位置にすら進出できないと言うのが我々の現状です」


 アイゼンハワーの参謀長スミスが勇を揮って、モントゴメリーに反対する。オルヌ川の橋が連合軍にとってプラスに働くのは8月に入ってからである。今はオルヌ西岸の完全制覇を考えるべきであると。


「ジェントルメン、それぞれの意見はもっともであるが」


 アイゼンハワーは結論をまとめた。


「橋を破壊すべきだと思う」


 モントゴメリーは礼儀正しく声を発さず、ただ視線でのみこの”偏った”決定にコメントした。テッダー大将をはじめ、幾人かのイギリス軍人も、微笑をもってこの決定を迎えた。


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