6月13日 午後4時 ユタ・ビーチ
便乗した上陸用舟艇から降りてくるパットン中将は、犬の散歩に行くような気軽さを装うように努めていたが、それを迎える第1軍司令官・ブラッドレー中将の目には、彼が雄鶏のようにプライドを膨らませているのがありありとわかった。アメリカは再び、彼を戦場へ呼んだのだ。
ブラッドレーはごく自然に、パットンより先にジープに乗って、運転手の後ろの席を占めた。万国共通の上座である。パットンはまったく席次に無関心に見えた。ブラッドレーはイタリア戦線ではパットンの部下であった。
ブラッドレーは同僚の間で、温厚質朴との評価が高い。しかしブラッドレーは我慢強くはあっても、記憶力は決して悪くはなかった。パットンの短慮と野心によって受けた過去のとばっちりを、決して忘れたわけではない。いったん人を敵味方に色分けすると、ブラッドレーは執念深くそのイメージを持ち続けるタイプであった。
「最初に断っておくが、君に預けられる兵力の規模は、君の階級にはやや不足だ」
ブラッドレーは努めて冷ややかさを口調から除こうとする。対するパットンは、栄光への機会と引き換えなら、ほとんど誰でもほめそやす用意があった。
「かまわんよ。重大な局面で使ってもらえるだけで光栄だ」
新しく上陸してきたアメリカ第4戦車師団と新米の第83歩兵師団、そして第30歩兵師団。パットンの第3軍の隷下に入るのは、軍団程度の兵力であった。この兵力でカランタン市を囲み、遠くゴールド・ビーチから押してくるアメリカ軍と手をつなぐ。あとは切りとり放題、となるかどうかはわからない。しかしパットンは行けるところまで行こうとするであろう。ブラッドレーには確信があった。




