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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第9章 マルクス
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6月11日 午後8時 ポーツマス市(SHAEF前進司令部)


「手詰まりだな」


 アイゼンハワーは言った。侵攻計画は遅れに遅れている。


「ドイツ軍の消耗も相当なものになっているはずです」


 スミス参謀長が慰めるが、アイゼンハワーはかぶりを振った。華々しい戦果がないことが、各国・各部の不協和音を耐え難いまでにしている。


「ゴールド・ビーチから上陸したアメリカ軍は、順調に進撃しています。一両日中には、人工港の設営にかかれるはずです」


 スミスはアイゼンハワーのために、明るい材料を探す。オマハ・ビーチに設置するはずだった人工港は、浮き桟橋の土台に使うコンクリート・ケーソンがオマハ・ビーチの比較的深い水深に合わせてあるため、他の海岸へ転用することが出来ずにいるのである。


 アイゼンハワーは、押し黙ったまま宙を見ていたが、やがてつぶやいた。


「バットンは、どうしている」


 彼が必要なときが、来たようであった。


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